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転生少女は灰を継ぐ 〜その婚約破棄令嬢、うちの辺境でもらいます〜  作者: なづきち
婚約破棄? じゃあその子、もらっていきますね

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07 ようやく本題

 ぐぬぬ……交渉権に目が眩んでステラ様の地位確保の芽を摘んでしまったのだとしたら非常に申し訳ないぞ……! 何としても挽回せねば……!

 私の内心の冷や汗に気付くこともなく、ステラ様は何やら深刻そうな顔で聞いてくる。


「どうして、そこまでしてくださるのですか? 私とクロノア様の間に縁はなかったはずですが……」

「ん? それは前々からステラ様のことが欲しいと思ってたからですよ。王子殿下と婚約済みと聞いて諦めてましたが」


 婚約破棄されるなら確保して(もらって)おきたい、と交渉権に飛びついてしまったくらいにステラ様は優秀な人材なのだ。第二王子の醜態に巻き込まれて失墜させるには勿体なさ過ぎる。

 ……彼女からすれば私の行動も迷惑なことだったかもしれないけど。


「色んな学生に声を掛けてみたんですけどねぇ。結構お高いお給料を提示しても私のことを胡散臭い目で見るか、辺境伯領は田舎だと嫌がるか、魔災を怖がるかで、だーれも乗ってくれなかったんですよねぇ」


 まぁ私も勧誘された学生の立場になって考えてみれば断るかもしれない。それくらい私に知名度しんようがない。


「途方に暮れて宰相閣下に誰か良い人材知りませんかー?って尋ねたら、ステラ様が推薦されたのはビックリしましたね。……ひょっとしたら、あの頃にはもう王子殿下に見切りを付けてたんですかねぇ……ありそうだなぁ……」

「……あの、申し訳ありません……何のお話でしょうか?」

「あ、こちらがステラ様への主目的です。領地への勧誘」


 やっと本題に入れた。いくらなんでも遠回りすぎるでしょう、私。

 静観していたランとレン、さらには侍女さんからどこか呆れたような視線が刺さる。だ、段取りが悪くてごめんなさい……。

 うん? ステラ様も何か様子がおかしいな……? 宰相閣下に推薦されたのが彼女にとってもビックリだったのだろうか? まぁ第二王子の婚約者だったからねぇ。出世コースに乗ったと思ったら、いきなり遠方への転勤左遷の話をされた社員のようなものか?

 ……断られたくないのでしっかりしよう。


「さて、ステラ様。この領主館に来て何かお気付きになられた点はございますか?」

「……大変部屋が散らかっておりますね」


 ……事実である。といってももちろんゴミが散乱しているわけではない。

 この執務室は、本来であれば人を招いてはいけないほどに、書類があちこち山のように積み上がっている。机の上だけでなく床にまで積まれているので、酷いと言う他にない。

 『こんな部屋に通すなんて!』と怒らないでくれて良かったよ……。非常識なのはちゃんと自覚している。


「んー、もう一声お願いします」


 聡いステラ様であればすぐに気付いてくれるだろう。私がこの部屋に招いたことまで含めて。

 大して待つこともなく、期待通りに彼女は答えてくれた。


「人が……いえ、大人が、異様に少ない……?」

「正解です。この領地は今、致命的に人材が不足しています。幼馴染ってだけで、専門知識を勉強してもいないのにランとレンにヘルプを頼むくらいには」


 幼馴染たちには、私が基礎である文字の読み書きやら計算やら教えてきたけど、領地運営まではさすがに教えていなかった。私も知らないし。

 養子となって養父様じーさまが死ぬまでの二年の間に先人に教えられてきたことと、検索・・した内容を突貫で教えてきたけど、それだけで上手く回るほど領地運営は甘くない。その結果がこの書類の山だ。ちなみにリンは孤児の面倒を見るという役目を負ってもらっている。これはこれで大変だよ。


「……どうしてここまでの事態に陥ってしまったのですか?」

「んー……元々魔災の影響で慢性的に人手不足だったというのもあるのですが……決定的な引き金になったのは去年じーさま――前辺境伯家当主である養父様が亡くなったことでしょうか」


 養父様じーさまは戦いの中ではなく、病で亡くなった。私を養子として迎えたのは、自分の死期を悟っていたのもあるかもしれない。

 ……残念ながら、引き継ぎは間に合わなかったのだけれども。


「常に魔災の危険に晒される辺境伯領の絶対的支柱であった養父様が亡くなって、養父様の実の息子も亡くなっており、家督を引き継いだのが私みたいな元平民の小娘。……絶望したんでしょうねぇ。多くの人が逃げて(やめて)しまいました」


 それだけ養父様じーさまは強かったのだ。この人さえ居れば辺境伯領は滅びない、と圧倒的支持を得ていた。

 人望が厚かったと誇らしく思うべきか、その人望をもってすら引き止められなかったことを嘆くべきか。私の見た目が頼りない小娘であるのは確かだけど、見た目で判断するとすぐに死ぬ魔の領域がすぐそばにあるので辺境伯領民は察してくれると思っていたのが間違いか。


「残った人も残った人で、大半は私のことを小娘と舐めてかかって。好き勝手やるだけならまだしも不正までする始末。防衛費に手を付けて懐に入れるとかマジで洒落にならんことをやったバカどもなんて首にせざるをえなく、最終的には事務方の人員は十分の一くらいまで減ってます」


 ただのクズならともかく、辺境伯領で生活しておきながら防衛費の大切さを理解出来ない致命的なクズは残しておけなかった。……給料に不満があったのなら、素直に陳情してくれれば私費から出したのに。私の特級狩人(ハンター)という肩書きを信じていなかったのだろうか? 辺境伯領は力が第一、狩人ハンターも力が第一、張り子の虎で得られる肩書きではないというのに。


「私と一緒に魔物討伐に行ったことのある軍部の人は結構残ってくれてるんですけどもねぇ」


 自分たちの目の前で魔物がばったばったとなぎ倒されていくのを見れば信じるしかない、ってのもあっただろうけどね。


「でも畑違いの仕事をやれるはずもなく、領地運営の方はガッタガタ……というかすでに破綻しています」

「えっ……」

「半年前なんて、『上半期の納税が出来てないぞ!』と王城の財務の人からガン詰めされてしまいました。あんまりないいようにイラっと来たりもしたのですが、未納なのは事実。私が稼いでいるのでお金がないわけじゃないんですが……領地内の税収が計算出来ない状態だったので納税額も算出出来ませんでした」


 あの担当も、私みたいな小娘が当主になったのが気に喰わなかったんだろうね。未納なのが悪いのは理解出来るけど、あのガン詰めはそれだけが原因じゃなかったと断言出来る。嫌らしくニヤニヤとしてたもの。


「それで……どうなったのでしょうか?」


 よくぞ聞いてくれました、とばかりに私は笑顔になる。あの時の担当の顔を思い出したら笑いたくもなる。

 意地が悪い? 先に意地が悪いことしてきたのは向こうですからね。舐められないために力を示すのが辺境伯領の流儀ですよ。


「延滞料金込みで、前年の倍以上に相当する品物を物納したら黙って受け取ってくれましたよ」

「……具体的には」

「子爵級ドラゴンをまるっと十頭ほど。腹いせに――コホン。いやぁ、ドラゴン素材は貴重品ですからねぇ」


 ドラゴンは、最低ランクである準男爵級ドラゴンですらワイバーンより強いとされる、超強力な魔物だ。一級もしくは二級狩人(ハンター)複数人必要となる。それより二階級上の子爵級が十頭も狩れる力の持ち主だと見せつけてきたのだ。見事なくらい真っ青になりましたね。

 ……一級狩人(ハンター)を必要とするドラゴンが最低ランクとなるほど、魔の領域は人外魔境だ。辺境伯領が、王国が滅んでいないのは、単に魔物たちに『人間を滅ぼす』という意志がないからだ。もしあったらこれまでの魔災被害など比べるべくもなく、王国どころか大陸が滅んでもおかしくはない。……まぁ、ないと知っている(・・・・・)からこそ、私もドラゴン狩りなんて出来るわけだけど。そんな意志があったら下手に刺激なんてしませんて。私からすれば奴らはただの素材だし、奴らからしても人間わたしはただの餌の一種でしかない。

 横から、これまでずっと黙っていたレンの呆れたような突っ込みが入る。


「おまえ……あの時結構長い期間居ないと思ったらそんなことしてたのかよ……」

「倒すのは簡単だったんだけど、数が揃えられなくてねぇ。あいつらあんまり群れないんだよねぇ」


 強者ほど群れないのが魔物だからね。ドラゴンなら言わずもがな。

 おまけに探していたもう一体がなかなか見つからなかったってのもあるけど。


「あ、国王陛下には公爵級ドラゴンを献上しておきました。快く受け取ってくれましたよ」

「は――」


 さしものステラ様も絶句した。

 だって公爵級ドラゴンは百年前、一頭で王都を滅ぼしかけた、災厄と呼ばれているような規格外の魔物なのだから。

 王国民にはさぞ恐ろしい出来事だったと伝えられていることだろう。

 嘘だと一笑に付されないのは神の加護のおかげだろうね。ありがとう神様。これからもお世話になります。


 なんでわざわざ公爵級ドラゴンを探したのかって? 税として子爵級ドラゴンを納めるのに、国王陛下に何も献上しないわけにはいきませんからねぇ?

 ……いやうん、ウソです。そんな殊勝な心掛けではない。ついでに言うと、公爵級が真っ先に見つかったから狩ったのであって、元々は伯爵級か侯爵級にしておく予定だった。

 献上したのは事実だけど、『私の邪魔されると困るんですけど? 辺境伯領の平穏は王国にとって重要ですよね?』という脅し――もとい陳情が含まれている。悪意で人の足を引っ張る奴が私の地雷なので、踏んでしまったのだから仕方がない。決して王国への反抗ではないし、王都を滅ぼそうなんて意志は一ミリたりともない。それは本当にない。

だからなんだという話ですが、クロノアは鈍感系というより天然口説き系として書いております。

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