19 巡回という名の
「たくさん露店が並んでいますね……」
「ここは魔物素材がたくさん取れますからね。そういう意味では物はたくさんあるんです」
場所柄、魔物素材そのものもしくは加工品がたくさん売られてきた。武器防具だけでなく織物やアクセサリも人気だし、今年は食べ物の販売も多い。魔物食は普段であれば倦厭されがちだけど、祭りの陽気な空気にあてられてチャレンジする人が多いようだ。「美味い!」との声も聞こえているので、魔物食が広がる一助になってほしい。
「……確かに、クロノア様のところでいただく食事は美味しかったですね……」
「ンフフ、厳選させてもらってますから」
さすがに実験品を食べさせたりはしていない。鑑定魔法や世界書庫で食用可かどうかはわかるけど、味とか詳しい料理法までは情報にないのよね……。どうやら魔道具と同じく新規開拓分野らしい。領地の収入を増やしたいから、魔の領域が近いこの辺境伯領ならではの特産品の開発はするべきだろう。その魔物を安全に狩る、安全に採取するためにも、領民たちに強くなってもらって、いずれはただただ素材がオイシイ場所という扱いにまでなるのが望ましいんだけども……いつになることやら。
「ステラ様。何か食べたい物、気になる物はありますか? いつものお礼に何でも買って差し上げますよ」
「……私も十分すぎるほどお給金をいただいているのですが……」
「こう言ってはなんですが、私も資産が増えてるんですよねぇ……」
なんだかんだで国王陛下……国の中央にあれこれ売りつけている金額がデカい。あちらの収支は大丈夫なのか不安になるのだけれども、呆れられたような目はされても拒絶はされてないので余裕はあるのだろう。得たお金は、孤児を初めとする魔災被害者に対する慈善事業や領全体の防衛などに使用してはいるものの、減ったと思ったらまた増えるのだ。かといってあまりお金をバラまいても領の経済によろしくない。ちゃんと領民たち自身で経済活動を行ってもらわないと。
「ではこれでどうでしょう。ステラ様のご家族など誰かへの贈り物はご自身でご購入いただいて、それ以外は私から貴女へのプレゼントということで」
「……わかりました」
苦笑しつつも頷いてくれた。一応言っておくけれど、別に私は貢ぎたがりではない。それくらいには恩があるということだ。積み上がってばかりで全く返せる気がしない。
これで一件落着かと思えば……横から無粋な声が飛んでくる。
「おうおう、豪勢だな領主サマ? 俺にも何か買ってくれよ」
人相の悪い、身だしなみも悪い男だった。かなりお酒が入っているのか酒臭さも漂ってくる。
見覚えがないので、おそらく領都の住民ではないだろう。領都の住民ならここまで堂々と私にケンカを売るようなことは言わないし。領都以外に住む領民か、領外から来たのか……。前者ならぶちのめせるけど、後者だとその地の領主に泣きつかれたら面倒なことになるんだよなぁ。
などと考えている間に。
「はいはいはい、一番怖いところに絡みに行くのはやめようなー」
「ちょ、なんだよ!? おい――」
巡回中だったうちの軍人がサクっと連れていってしまった。一番怖いところってなんやねん。私は狩人たちほど無軌道ではないけど??
気を取り直して。ステラ様の目に留まったカットフルーツ(魔素をその場で除去しつつ)、薄焼き包み(いわゆる軽食系クレープ)、ハイランドシープの毛で織られたハンカチ(これはご家族の方の分も購入していた)、それから孤児院の子どもたちの手で作られたクッキーや小物などを買っていく。
「この通りから先は……武器防具が多いみたいですね」
「職人区ですからね。みんなここぞとばかりに自慢の一品を出したりしてますよ」
一際賑やかというか、物騒というか、とにかくあちこちで大声が飛び交っている。武器防具を欲しがるだけあって血の気が多いのだろうか。やぁねぇ。
でも一応巡回も兼ねているので行かないわけにもいかない。ステラ様に危害が及ばぬよう、しっかりとお守りしなければ。
「これはいくらなんでも高ぇよ!」
「うっせぇ! うちの武器をそんじょそこらのナマクラと一緒にすんじゃねぇ!」
「この防具の材質は――」
「フォルリザードの鱗の良い部分を――」
ステラ様には初めての光景なのか、興味深そうに見回している。……怯えている様子はなさそうだ。良し。まぁ怯えさせるような輩が出てきたらぶっ飛ばすんですけどもね?
色々解説しながら見て回り、時には顔見知りの職人たちや狩人たちから声を掛けられ、歩くことしばし。ステラ様はある露店の品物に目を留めた。
それは、額に精緻な細工がされた小さな鏡であった。
「この細工は……素晴らしいですね、王都でも十分に売れるレベルです」
「おっ。お嬢さん、嬉しいこと言ってくれるね!」
作った本人なのか、店番の職人が得意気に鼻の下をこすっている。
私と違って魔法で作成などしておらず、全部手作業だろうに。それなのに見事な彫金がほどこされていて、素人の私の目にもとても良い物として映った。ぐぬぬ、センスの差が見せつけられる……。あまり装飾品に興味なかったけど、これからはその辺りも勉強するべきかな……。
内心での悔しさ(?)を押し殺しながら、私はそれを手に取った。
「ステラ様が気に入られたようなので購入させていただきますが、しばらくの間ちょっと貸してください」
「……どういうことです?」
「デザインを勉強して、それ以降ステラ様に差し上げる防御用魔道具に反映させるようにします」
防御用だから使用したら壊れるだろう、って? それでも存在している間はちゃんとした物を身に着けてほしいじゃないですか。ステラ様ほどの美であれば私のダサデザイン程度で損なわれることはないにしても、それはそれ。
ステラ様は目を丸くしてから、苦笑しつつ頷いてくれた。
「クロノアちゃん、勉強だって言うならついでにこれとこれもどうだい?」
「……商売上手だねぇ。いいよ、全部買うよ」
「まいど!」
おすすめしてくるだけあってどれも良い出来の小物だった。お値段もそれなりだったけど、勉強料も入っていると思えば安いものだ。いや、今後私の作成する物へのデザイン料が含まれるとなるとタダ同然になってしまう。意匠権とか存在しない世界ではあるけど、それはよろしくない。せめていい感じの鉱石が見つかった時に送り付けるとするか。
そうして買い物を終えると、今度は遠くから怒鳴り声が響いた。
「おい待て! この盗人が!!」
「いてっ!? このやろう!」
声の方に顔を向けてみれば、男が武器を懐に握りしめ、人混みを突き飛ばすように走っているのが視界に入る。身に着けている物からして狩人だろうか。しかし見覚えがないので領都で活動している者ではない。
はぁ……ある意味祭りらしいと言えば祭りらしいのだけども……バカなことはやめてほしいものである。私はピッと指を立て、一言。
「雷閃」
「ぎゃあああああっ!?」
男の頭上から細い雷が迸り、打ち据えた。自然のものと違って魔法によるもので、極力手加減しているので死ぬことはないでしょう。
痺れて小刻みにしか動けない男を、やはり巡回中だった別の軍人がやって来て引きずって行った。お疲れさん。
「クロノア、ありがとうよ! でも柄の部分がちょっと溶けてるんじゃが!?」
「……ご、ごめん、弁償するよ……」
盗られた物を取り返せたと思ったのに、魔法の出力が高かったらしい。鍛冶師のおじさんに怒られてしまった。なんとも締まらないものである。こら通行人たち、笑うんじゃない……!
ぐぬ、ステラ様にまで小さくだけど笑われて……まぁそれはいいか。




