14 三兄妹会議
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孤児院の管理人用の部屋……として用意したのだが、他になり手を用意出来なくて実質的にレン、ラン、リンの三兄妹用の部屋と化している場所にて。
一人の少女……末っ子のリンが、深刻そうに口火を切った。
「これは、ゆゆしきじたいなの」
「……何がだよ」
ぶっきらぼうに答えるのは三兄妹の長子レン。行儀作法を含めてランの方がきっちりとしているのだが、妹二人は彼のことを頼りないと思っているわけでもない。いかに彼が三人の中で一番腕っぷしが弱くとも。
「クロお姉ちゃんが、いつもあの人にべたべたなの……!」
リンは拳を握りしめ悲しい声で述べるのだが、内容が内容なだけに、レンだけでなく姉のランまで呆れたような目を向けてしまう。
「むしろ俺、クロノアがステラのお嬢さんに必要以上に触ってるのを見たことないんだが」
「私も見たことないわね」
「そういうことじゃないの!」
レンの言う通り、むしろクロノアは気を遣って、二人きりの場であろうと無駄に触れないようにしているくらいなのだが、リンが問題(?)にしているのはそこではなく。
「だって、時間があればずっと一緒に居るんだもん……!」
「「……」」
レンとランはそっと視線を合わせる。双子だけあってそれなりに息は合うのだ。息が合うがゆえに、考えることも同じで。つまり『おいおまえが言えよ』『あんたが言いなさいよ』などと押し付けあっているのだが。
根負けしたランがそっと溜息を吐きながら、残酷(?)な事実を告げる。
「婚約者なのだから普通のことでしょう」
「うぐっ」
「そもそもクロノアの性格からして、遠い遠い辺境伯領という縁のない地に力を貸しに来てくれたステラ様を放置しておくわけがないでしょう」
「そうかもだけど……っ」
現時点においてまだリンの分野、孤児たちの教育という点において恩恵は少ないのだが、領主館執務室に文字通り山のように積まれていた書類が片付いたことにより、レンもランもステラには大きな感謝をしている。感謝の理由はそれだけではないが。
「ずっと一緒と言うけれど、基本的にずっと仕事をしているのだし、さらにステラ様は十分以上に仕事をこなした上でのことよ」
「で、でも、せっかく孤児院の方に来てくれたと思ったら、二人で何かやってるし……」
「私も細かくは聞いていないけれど、必要なことだそうよ。まぁ基礎体力は何をやるにしても必要でしょうけど」
とはいえ、リンに可哀想な点もなくはない。子どもたちの監督というのは基本的に目が離せず、常時孤児院に詰めていなければならないのに人手不足で交代要員がろくにおらず、それでいてクロノアの孤児院訪問時間が少ないのだから、顔を合わせる時間もどうしたって少なくなってしまう。ブラック撲滅を目指しているクロノアも働かせすぎな状態を気にしてはいる。
だがそれはそれとして、リンは大前提を受け入れなければならない。レンはだらりとテーブルに頬杖を突きながら、鋭い刃のように(リンの主観)突き付ける。
「というかさぁ、最初っからおまえは『妹』枠なのよ」
「ふぐっ」
「いうなれば、孤児院のガキ共と似たようなもんなの。庇護するべき相手って時点で眼中にないのよ。本来ならおまえにも仕事をさせたくないみたいだぜ? 人がいなさすぎて仕方なくやってもらってるだけで」
辺境伯領においては十歳から狩人登録が出来るせいか、このくらいの年頃から働くという意識が根強いが、クロノアからすればお小遣い稼ぎ程度ならともかく、あくせくと成人前の子どもに働かせたいわけではない。同い年(中身はともかく)であるレンとランにも申し訳ないと思っているくらいだ。
そして十年間、家族のように一緒に育ってきた幼馴染であるがゆえによく知っている。クロノアはリンを妹のようなものとしてしか見ていないことを。リンがクロノアにどのような感情を向けているのか知っているのか知らないのかまではわからないが、知ったところで揺らぐものでもないことを。
「……お兄ちゃんもお姉ちゃんも、あの人ならいいと思ってるの……?」
リンの絞り出すような声にも、レンとランは容赦なくあっさりと答える。
「思ってる」
「思ってるわね」
「っ……どうして……っ?」
リンの知っているステラは、小さな子ども相手にすら体力で負けるような弱い人物としか映っていない。仕事内容が重なっておらず普段の仕事振りが見えないのと、思考が辺境伯領特有の脳筋寄りなので仕方がない面もあるのだが。
「第一に、俺たちはクロノアの手伝い以上のことは出来ない。俺のやってることも、ランのやってることも、リンのやってることも、能力的な意味でクロノア自身で出来ることだ。けどステラお嬢さんは、クロノアにも出来ないことが出来る」
レンたち三人が今の能力を持ち合わせているのは全てクロノアの教育の賜物である。同じ孤児育ちでありながら、知り得るはずのない知識を持っているクロノアに疑問は持ちつつもそれ以上に尊敬しており、尋ねることはしない。
その物知りクロノアが出来ないことが出来るというだけで、レンにとっては高評価だ。辺境伯領民にとっては珍しく腕っぷしではなく頭脳で評価しているのは、彼も頭脳寄りだからだろう。
続きをランが引き継ぐ。
「第二に、私たちではクロノアを止めることが出来ない。いえ、止める気がないという方が正しいわね」
「……それが何か問題あるの?」
「ないと思っていた……のが問題ね」
くすりと笑みを漏らしつつ、ランは言う。
「この話は聞いたことあるかしら? クロノア、ステラ様に説教されて正座させられ……正確には正座しなきゃいけない気分になってしたそうよ」
「……え?」
「原因は、学院内で学生相手に威圧しかけたからだとか。『まず力で解決しようとするのはお止めください』って」
何が悪いの?と首を傾げるリンに、レンもランも痛そうに頭を押さえた。辺境伯領民としてはある意味正しいのかもしれないが……本来なら慣れてはいけない部分である。
「あのな、この領地ではそれが罷り通っているけどな? それだと俺たちはいつまで経っても強い狩人や大人たちに力で押さえつけられて、色んなもんを巻き上げられることになるぞ」
「辺境伯領がここ数年で治安が良くなったのが、最も強いクロノアが力で押さえつけているから……というのも事実なのだけれども、それがなくとも回っていくのが理想だそうよ」
レンとランは側近として近くで働いているだけあって、よくクロノアの考えを聞かされる立場だ。そしてその考え方には頷けるものがあり、色々な意味で領地を平和にしようと奔走しているクロノアには尊敬を通り越して崇拝すらしている。
だからこそ、止めることが出来ないともいうのだが。
「けど、それを知っている俺たちですら、きっとクロノアが目の前で無意味に人を殺したところで『ふーん』くらいで済ませちまうだろうよ」
「クロノアが間違っていた時に『それは間違っている』と指摘するのは、クロノアにとっても必要なことよ」
そのような意味でも、アヴィの殺害を止められたのはステラだけである。
クロノアとて、イエスマンばかりに囲まれてしまったら思考がいずれ歪んでいたかもしれない。やはりステラの存在は大きいものとなる。
「んでもって、これが一番重要なんだが……ステラお嬢さんはクロノアの横に立とうとしている。下に付くんじゃない、上でのさばるわけでもない。横にだ」
「先ほどの話と繋がる部分があるけれど、ついクロノアを持ち上げてしまう私たちには難しいことよ。リンだって、クロノアがやることは何でも正しいと思いがちでしょう? それは支えることではなくただの思考放棄と依存であり……度が過ぎると重荷になるわ。気を付けることね」
「……」
正直なところ、兄姉の言っていること全てはリンにはわからない。わからないのだけれども……自分には足りないものだらけだということはわからされた。
苦い物を飲み込み、憧れるだけだった少女は一つ大人となる。




