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転生少女は灰を継ぐ 〜その婚約破棄令嬢、うちの辺境でもらいます〜  作者: なづきち
冬の日常

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13 後継者問題

 エンフィールド。

 平民の子であれば姓は持たない。それでいてアッシュフィールドと似た響きの姓。つまりそれの意味するところは。


「言わずともわかってくださったようですけれども、エンフィールド家はアッシュフィールド家の遠縁です。シェリィは、元平民で養女の私とは違い、正真正銘貴族の子で、先代までのアッシュフィールド家と血の繋がりがある子です」


 自分の子を喪い、後継者を探していたはずの養父様《じーさま》が、同じ辺境伯領に住むエンフィールド家に声を掛けなかった理由はわからない。おそらくは力が足りてなかったとか、そんな感じだろう。……こう言ってはなんだけど、実際に魔災で亡くなってしまったからね。

 ただ私としては、このままアッシュフィールド家を途絶えさせたくないという感覚もある。私に貴族としての感性はほぼないのだけれども、それでも家の乗っ取りをしたくないという気持ちがあるのだ。


「それでまぁ……これはステラ様と婚約する前から考えていたことなのですが……ある程度大きくなったらシェリィを養女にして、アッシュフィールド家を継がせるつもりでした」


 先代は養父様《じーさま》に認められなかったのだとしても、このまま鍛えていけば私ほどにはなれずともかなりいい線まで行くことだろう。現に今の段階でも三歳という最年少かつ小さな身でありながら、年上の子と張り合っているのだ。素質は十分にあるはず。……この辺境伯領において、上に立つ人間に最も求められるのは肉体的な強さであるって認識自体を改めたいところだけど、魔の領域がある限り強さは必要になるんだよなぁ。本来なら王《トップ》ではなく将軍(ぐんじん)あたりが前線に立つのが妥当なのだが、どうしてここではこうも違うのか。初代のせいですかねぇ……。

 けれどもこの計画に少々難が出て来た。結婚する予定のなかった私に婚約者が出来たからだ。……ステラ様は男性ではないので、このまま滞りなく結婚したところで『自分の血を継いだ子に領地を継がせるんだ!』という継承権争いは起こりようがないのだけれども……彼女にとってシェリィは赤の他人だ。私の養女になるということは、将来的には彼女の養女にもなるということである。それを受け入れてもらえるかどうか。受け入れられないとしたら……後継者をどうするのか。

 私の話に、ステラ様は何度か目を瞬いてから……そっと目を逸らした。


「……そうですね、その問題は、ありますね」

「えっと、すみません、この場で言うことではなかったですね」


 少なくともジャージ姿のステラ様の前で言うような内容じゃなかった。アホですね、私。ポリポリと頭を掻いていると『そういうことではない』とでも言いたげな視線が返ってきたけど……むぅ?


「……そのお話しは、すぐには回答出来かねます。しばらく考えさせてください」

「ですよねぇ」


 たかが(と言っては失礼だろうけど)、成人すらしていない十五歳の少女にする話でもない。貴族家なら色んなパターンがあるのかもしれないけどね。

 ……家の問題となれば、宰相閣下も話に加わってきたりするのだろうか? まぁ国の利益を第一に考えるあの人のことだから、国に利益をもたらす私の機嫌を損ねるような行動をするとも思えないな。


「ひとまず、いずれシェリィに貴族教育を受けさせる必要がある、ということだけ覚えておいていただけますか」

「わかりました」


 そんな私たちの会話を横で聞いていたアヴィが、ぼそりと、とんでもないことを呟く。


「ご主人のことだから、我みたいに力を分けて生むとか出来そうなものだが」

「…………は? 出来るわけないでしょ!? というか、私が産んでもアッシュフィールドの血を引いてないからよくないって話なんだけど!?」

「人間とは面倒だのぅ。だったら男児を生んでそのシェリィという娘と番わせればよいのではないか」


 ……一般的な貴族であれば、その手もあったかもね。まぁそもそも私が一般的であれば、平民から貴族の養女になって当主にまでなっていないわけだけど。

 でもさぁ、よりにもよって、この場でそれを言う?


「……ステラ様の目の前で『浮気をすればいい』発言とかしないでくれる??」

「む? 前提の認識がズレておるのか? つまりご主人の魔力とステラの魔力を混ぜて――」

「だから出来ないって言ってんでしょうがこのドあほラゴン!!」

「ちょ、待つのだ! 絶対防御《アイギス》はヤメ――ぎゃあああああっ!?」


 ちょいちょい私を人外扱いするのやめろ! まじで!!

 大きな音を立てて吹っ飛んでいったアヴィを、ステラ様だけでなく子どもたちまでポカンと見ている。ディアンが「かーちゃん!?」と叫んでいるけど、アホなことを言ったきみの母が悪いのだよ。あれは放っておいて訓練にお戻りなさい。

 しばしの時を経て、ステラ様が正気に戻る。


「……あの、アヴィさんが仰っていた、力を分けて生む、というのは……?」

「あれ? ステラ様にまだ言っていませんでしたっけ」


 かくかくしかじかと、アヴィが自分の力を分けてディアンを生み出した話をしていく。やつらは母親と息子のように見えて、親子関係はともかく実際に性別なんてないようなものなのだとも。


「……そんな方法が取れるのはアヴィたちの体が魔力で出来ているからです。当たり前のことですが、人間である私に真似出来るわけがありません」

「……ひとまず、話の流れはわかりました」


 よかった。私が単為生殖出来るのだと思われなくて。いやステラ様であればそんな話を信じるわけないと思ってましたけどね。……あんなでもアヴィは神獣だから、下手したら信じてしまった可能性はあったのだけども……防ぐことが出来てよかった。


「聖獣様はそのような方法で増えるのですね」

「あともう一つ、霊獣が長い時を経て力を得たら進化することもあるらしいですよ。ひょっとしたらシルクも何十年としたら変わるかもしれませんね」

『……よんだ?』


 おっと、シルクが出て来た。呼んだわけじゃないのだけど、せっかくなのでわしゃわしゃと毛を撫でて魔力補給をしておく。尻尾を振って気持ち良さそうだ。……アホドラゴンズとは大違いの可愛さである。

 よろよろとお腹を抑えながらアヴィが戻ってくる。


「我の扱いの酷さに抗議をするのである……」

「やかましい。自業自得じゃ。ステラ様、これの戯言は無視していいので、そろそろ次のトレーニングに移りましょうか」

「……わ、わかりました」


 ステラ様には体力作りだけでなく、身体強化の前段階に必要な体作りを始めてもらっているのだ。まぁ単なる筋トレともいう。……貴族のご令嬢であれば筋肉を付けるなんて避けたいだろうに、ちゃんとあの日以来努力をしてくれている。私にはもったいないくらいよく出来た人である。とはいえ、適度に筋肉を付ければ健康にいいしスラッとした見た目になるし、困りごとばかりでもないんだけどもね。

 そうしているうちに、ふと子どもたちからまた別の騒ぎ声が聞こえてきた。目を向けてみると、二人が取っ組み合いのケンカをしているようだ。


「……あ、あの、大丈夫なのでしょうか?」

「んー、たまにあることですね。事が大きくなりそうだったらストッパーが入るんで大丈夫ですよ」


 と言っている間に、リンが二人の間に入る。しかしまだ止まらないようで……二人ともリンにスポンと投げられた。


「……え?」

「以前リンに『力で負けてしまう子を止める方法はないか』と聞かれた時に試しに投げ技を教えてみたのですが……まぁ実践回数が多いせいかすっかり上手くなってしまいまして」


 子どもだろうと身体強化を教えている時点でそれなりに力がある。力で敵わない相手にどうするかと言われれば技術が必要になってくるわけで。そこで投げ技と、ついでに関節技を教えたら面白いように吸収してしまった。おかげで対人戦闘であればレンより強くなっている。まぁレンはずっと事務仕事をしてもらっているので、ずっと子どもたちと一緒に訓練してるリンと比べたら可哀想だけども。

 私たちが見ていることに気付いたリンが恥ずかしそうにしてるけど、技のキレを褒めるように指で丸を作って返しておいた。


「……子どもで女性であろうと、辺境伯領民なのですね……」

「そう育てているってのもありますけどね」

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