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転生少女は灰を継ぐ 〜その婚約破棄令嬢、うちの辺境でもらいます〜  作者: なづきち
冬の日常

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09 夜を迎える

 戦闘が完全に終わったところで、うちの新人たちに素材回収を任せ、コランとトルク、ついでにロットにも治癒魔法をかけてやった。座り込む三人の前で見下ろすように立ちながら問いかける。


「さて、おまえたち。何でこんなに結果が違ったと思う?」


 回復が必要だったのはこの三人だけで、うちの軍の新人たちはかすり傷程度しか負っていなかった。森に入る前の走りの段階で身体強化のレベルに差があるのはわかっていたのだけれども、それ以前の問題である。

 私の質問にロットは不貞腐れながら言う。


「そっちは五人居るけどこっちは三人だった……そこの女二人が前に来なかったからだろ」

「は?」

「「「ひっ!?」」」


 とんちんかんな回答をしたロットに対して思わず威圧を掛けてしまう。何も言ってない二人が巻き込まれたけど、連帯責任だ。


「あのさー、エイリとか杖持ってるんだし、明らかに後衛だよねぇ? なんで前に出ると思ったの? まさか鈍器だとでも思った???」

「で、でも、そいつらが居れば俺たちが囲まれることも――」

「自分たちの強さを正確に把握しないまま、何も考えずに突っ込んだせいだろがこのアホたれどもが」


 狩人《ハンター》はあまりにも脳筋が多い。殺られるより前に殺れば勝てるという精神《メンタル》をしている。それ自体は間違いではないけれども、それにはまず相手より強いという土台が必要になってくる。

 痛い目に遭って学んでベテランになるのだけれども、その過程で死んでしまう狩人《ハンター》が過去にどれだけ居たことか。新人研修を含めて色々啓蒙して減ってきてはいるけれど、未だに腕っぷしさえあれば成り上がれるという考えの新人が多いのが悩み事だ。そもそも新人の段階で自慢出来るほどの強さを持った人間に、ここ五年で一度も会ったことないんだけど。やはり狩人《ハンター》登録時に、アホたれどもにはベテランが相手して鼻っ柱を折るようにするべきか……? ……思考が逸れた。


「で、そもそもおまえたち三人、ちゃんとあの二人と連携について話したの?」

「……は?」

「自分たちがどういう戦い方をするか、あの二人がどういう戦い方をするか、把握した上で言っているの? 参加者は事前にわかってたよね?」

「いやだって、あいつらパーティメンバーじゃねぇし……自分たちのメシの種を明かすなんて――」

「おまえ程度の能力に内緒にするほどの価値があるわけないだろアホたれ。というか、剣で前に出て戦うとか、最低限のフォーメーションの組み方とか、そういうのあるだろ」


 そりゃ私だって人には言えないことの一つや二つ持ってるけど、基本的なことすら話し合いをせずにどうして連携が取れると思ったのか。


「これはレミとエイリにも言えることだよー」

「うっ……出発前に話そうと思ったんだけど、そいつらが全然来ないし……」

「移動中に話せると思ったら、ずっと走っててそれどころじゃなかったですし……」


 ……それは私も悪いな。次からは事前確認しよう。「ごめん、次からは何か言いたいことがあったら遠慮せずに言って」と謝っておく。


「評価として、ロット、コラン、トルクの三人は集団相手に後先考えずに突っ込むな。下手したら死んでたぞ。よって論外。相手を上手く釣るなり、木々を遮蔽物にするなりで囲まれない立ち回りを考えること」

「「「ぐっ……」」」

「レミはとりあえず問題なし」

「よしっ」

「エイリは後半置物になってたのが残念。可能なら、乱戦でも敵を倒せるよう命中力を上げるか、前衛向けの補助魔法を覚えるか、杖で近接戦闘出来るようにするか。ちなみに魔法使いでも体力必須なのでおすすめは最後のやつから」

「……がんばります」


 四人は聞き入れてくれたけど、ロット一人だけがまだぶーたれたような顔をしている。こりないなぁ。というか、これは私が舐められたままなのが悪いのか?

 ……ふむ、と考えていたところに、索敵に一体デカいのが引っ掛かる。


「トーイ、素材回収終わった?」

「もう間もなくです!」

「完了したら全員こちら側に移動するように」

「? 了解っす」


 首を傾げつつも、疑問を発することなく素直に動いてくれる。うーん、対応が楽だ。

 彼らの素材回収が終わるころにはズシンズシンと地鳴りがし、バキバキと木をぶち壊す音まで聞こえてきて、さすがに誰もが巨大な魔物が来ていることを察する。

 やがて、顔を出したのは、体長七メートルほどのグラレックス――ティラノサウルスみたいな見た目のトカゲだ。口元には餌なのかゴブリンを咥えている。あの大量のゴブリンたちはこいつに追われてたってのもあるか?


「あれは私が相手する。みんなは下手に前に出ないように」

「りょ、了解!」


 基本的に訓練中は手を出さないと話をしていたけど、明らかに彼らでは敵わない相手なら別だ。死なせに来たわけじゃないのだから。いやしかし、まだ森に入ってほんのちょっとなのに、ここまで大きいのが出てくるか……しばらくは警戒が必要かな?


 ガアアアアッ!


「臭い口を向けてくるんじゃない!!」


 食べ掛けで牙にゴブリンを引っかけたまま、貪欲に私にも喰らいついてこようとしたグラレックスの鼻っ柱に拳をぶちこむ。

 ドパン!!と大きな音を立てて頭部が破裂して、やはり神獣《アヴィ》は硬かったんだなぁなどという感想が浮かんできた。


「………………は?」


 これ以降、ロットが非常に大人しくなったのは朗報だった。



 その後は順調に進み、夕方となった。冬だし森だしで暗くなるのが早い。

 やや開けた場所で野営の準備を始める。火も水も魔法で出せるからそこは便利よね。

 携帯食は持ち込んでいるけれど、道中で食べられる魔物肉が獲れたのでそれを焼く。魔物肉に慣れていないのか顔をしかめるのが居たけれど、焼き上がる頃にはいい匂いが漂ってきて食欲に負けたようだ。齧ってみたら意外な美味しさに驚いていた。

 見張りを三交代、最初はうちの新人たち、真ん中が私、最後が狩人《ハンター》たちと決めて、狩人《ハンター》たちにはさっさと寝るようにテントに押し込む。始めはぼそぼそ話し声が聞こえていたけれど、疲れたのかすぐに聞こえなくなってきた。


「あれ、当主様はお休みしないんすか?」

「私は徹夜だよ。まだきみたちだけには任せられない」

「ぐ……精進するっす」


 今回、索敵で及第点を取れたのがレミだけだったからねぇ。でもここで不機嫌にならず努力を口に出来るのがきみたちの良いところだよ。……まぁロットが悪すぎるだけかもだけど。

 彼らとの軽い雑談に付き合いつつ(ちゃんと見張りも怠ってなかった。今年はみんな真面目だな)、夜も更けて日付が変わったところで彼らを休ませる。さて、残り時間は本でも読むか、と空間収納《インベントリ》から取り出して開く。

 ……無意識にイヤーカフに触れていたことに気付いたのは、だいぶ後だった。


「うーん……こんなに長いことステラ様と話してないのは初めてか?」


 私が忙しくてろくに顔を合わせてない日もあったけど、できるだけ話をするようにしていたからなぁ。……よくよく考えてみなくても、やっぱり働かせすぎだよなぁ。でも本人がやるって言ってるんだしなぁ……。

 これが前世の世界であればちまちまとメールを送ることも出来ただろうけど、今はそんな便利な物はない。通信機で通話だけなら出来るけど、さすがに訓練中に非常事態以外で使っては示しが付かない。でもちょっとだけ……いや今は真夜中だっての。いくらステラ様でもお休み中だ。

 この訓練が終わるのは明後日の昼過ぎ。……二泊三日なんて大したことないと思ってたのに、随分と長く感じてしまう。


「……明日はお土産になりそうな物を探してみるかぁ」


 そんな呟きは夜の闇に吸い込まれ、誰の耳に届くこともなかった。

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