08 新人たちの戦い
水分補給と称して魔力回復薬を飲ませ、乾燥の魔法で汗を乾かしてやる。狩人たちは(ロットを除いて)感謝してくれたけど、うちの新人たちは感謝を述べつつも複雑そうな顔をしていた。別に試練の前振りとかじゃないのに……いやこれは普段の行いが悪いのか……?
少し早い昼食をとり、中へと足を踏み入れる。なお、荷物はこの時点で返した。
「当たり前のことだけど、足元の根っこで転ばないように。そして足元に注意しすぎて他の部分への注意を疎かにしないように」
「んな基本、わーってるっての……」
「小声だろうと聞こえてるぞー。あんまり不和を撒くようだとシメるぞー?」
「ぐ……っ」
ロットが毒づくたびにうちの新人たちがイラっと来てるのよねぇ。狩人じゃなく軍人を選ぶタイプには、私への好感触もそれなりにあるんだろうけど、だからこそその態度が許せねぇみたいな。狩人と共同で作戦行動するパターンもあるのだから、ある程度は仲良くしてほしいものだけれども。
このロット、腕自慢で他領地からわざわざ狩人になりに来てくれた、ある意味貴重な移住者なんだよねぇ。でも他領地で育ったからこそ、強さが第一な辺境伯領民と違って素直に言うことを聞いてくれない。悪い点も目立つ脳筋だけど、こういう点では役には立っていた。……脳筋ばかりだからこそ、移住者は馴染めなさそうで来てくれないのかもしれない、などと浮かんだけど横に置いておく。
反骨精神そのものは成長に必要でもあるのでどうしたものか。まぁ聞いてないわけじゃないならひとまずヨシとしよう。反発心のあまりおざなりにしてこの先死ぬかもしれなくても、私はそこまで責任は持たない。
「しっかし、冬なのになんでこんな生い茂ってんだよ……普通はもっと枯れてるもんじゃねぇのか……?」
「え? こっちはいつもこんなもんだぜ?」
ロットが呟くが、他に誰も同意する者はいなかった。これは常緑樹と落葉樹の違いとかではない。
魔の領域の植物は、魔素を栄養にして育つ。ゆえに一般的に知られている(この世界で植物の生態が一般的にどの程度知られているかどうかはさておき)ような育ち方はしていないのである。ぶっちゃけ、なんでもありと言ってもいいくらいに色々ある。
「たとえばあの木、トレント化しているから動く」
「「「うえっ!?」」」
ロットだけじゃなく数人が声をあげた。気付かなかったようだ。トレントも何かよくわからんけど木の枝をこちらに向けて振ってきた。……いや本当になんで?
「えーと……あの程度の太さなら対象になることはないけど、もっと育ったやつを素材として集めてることがあるので、見分けられるようにしておくこと」
あ、トレントが逃げた。なんだったんだ……??
「当主様。見分けるコツはありますか?」
「タカキ、まずは自分で考えてごらん」
「……えっと、魔力とか、ですか?」
「正解。一番簡単なのは魔力を感じ取ること。他の木に比べて含有量が多いから。周辺の魔素が濃すぎて出来ない場合は根っこかな。あいつら他の木と違って移動するから、根本部分に違和感が湧いてくるんだよね」
他にも色々と解説をしながら歩いていく。どれが素材となるのか、どれが食用でどれが毒なのか。資料として残してはいても、実物で確認するのは大事だからね。……まぁ、狩人たちは資料の読み込みが足りないみたいだけど……知識は大事だって研修でも伝えてるはずなんだけどな。基礎学力問題だろうか。悩ましい。
そしてふとあることに気付く。けれど、一旦黙っておく。誰が一番最初に気付くかなー、と高みの見物(?)をしていると。
「……何か、魔物が近くに居る、かも」
狩人の女の子の片方――レミが気付いたようだ。ちょっと自信なさげで曖昧だけれど、この距離で察知出来たなら及第点か。
「レミ。方角、距離、数はわかる?」
「えっと……方角はあっち、距離は……まだちょっとある、数はわからない、です」
レミが指差した方角をみんなが確認する。ロットなんかは「本当に居るのかぁ?」などとぼやくが、自分の無能さを曝け出すのは得策じゃないぞー。
「はい、方角せいかーい。ほら、魔物が来てるから構えろー。ちんたらしてると死ぬぞー。あと森の中だから武器の振り回しに気を付けなー」
私は距離も数も種類もわかっているけど、あえて言わずに指示だけを出す。この辺りはうちの新人たちは慣れたものか、素早く武器を構えた。狩人たちもやや遅れて構えだす。
しばらくすると他のメンバーも気付いたようでごくりと息を呑み、がさがさと茂みを搔き分ける音と共にそいつらは姿を現した。
「ゴブリン……!」
「こいつら群れで来るぞ! 気を付けろ!」
小さな鬼、ゴブリン。ファンタジー世界における弱い魔物、あるいはある点において鬼畜な魔物として知られているが、この世界においては単体はそこまで強くないものの必ず群れを形成している厄介な魔物という位置づけである。エロいことはしてこない。
こちらは十一人居て全員武装しているのだが、やつらはそれ以上居るので躊躇うことなく突っ込んできた。
「隊列崩さず! やるぞ!」
「「「おう!!」」」
トーイの指示で(どうやら先日強化チェックに一人参戦したことで一目置かれたらしい)向かって右側でうちの新人たちが固まり、左側で狩人たちがばらついている。私は後方腕組見学面で、この程度の魔物相手に手を出す気はないし、手を出さないとも言ってある。お手並み拝見だ。
「せいっ!」
「更に右に回り込んでくる! 頼んだ!」
「こっちは任せろ!」
新人たちは血気盛んに突撃するでもなく、どっしり構えて向かってきたゴブリンを一匹一匹斬り伏せている。声を掛け合って、死角から突かれることも防いでいる。堅実で安心して見ていられる動きだ。
一方の狩人たちは、男三人のパーティーと女二人のパーティーで違うのだろう、バラバラに動いているが、それ自体は大した問題ではない。ただ、戦い方は上手とは言えない。
「おらおらおらっ!」
「この程度なら敵じゃないな!」
「はあああっ!」
男三人が突撃をする。確かに言う通り、目の前に居たゴブリンたちは斬り捨てられていくが……数はまだまだ居るのだ。大丈夫だろうか。
女二人の方、レミは剣を構えながら、もう片方のエイリの護衛に付いているようだ。そのエイリは魔法使いで風矢をいくつも飛ばしている。ただロットたちが縦横無尽に動くせいでやりづらそうだ。
案の定というべきだろうか、わっさわっさと増えたゴブリンたちにロットたちが飲み込まれそうになっている。
「うっ……!? おいおまえら、後ろ下がってないで前出て手伝えよ!」
「勝手に突撃しておいて勝手なこと言わないで!!」
助けてやろうにも、囲まれた状態ではフレンドリーファイアが起きるので魔法では手が出せない。団子状態から外れたゴブリンをちまちま倒しているが、レミまで前に出てはエイリがピンチになるので駆けつけられないだろう。
そんな状態でまだ新人の狩人が持ちこたえることなど出来るはずもなく。
「ぐああああっ!」
「いってえええっ!?」
男たちの内、コランとトルクが小さくない怪我を負った。ゴブリンはそこで別の標的に向かいもせず、倒れた二人に執拗に攻撃をする。小さくとも鬼だけあって残虐性は高い。ロットは救出に向かおうとしているけれど、ゴブリンが多すぎて目の前のを片付けるだけで精一杯だった。
私はそれを手助けせずに見ている。薄情というなかれ、『彼ら』だけで対処出来ると思ったからだ。
「俺たちが突破する! サムとネスは負傷者を引っ張りだしてくれ!」
「「了解!」」
すでに右側では戦いは終わっていた。転進したトーイたち三人がゴブリンを蹴散らし、サムとネスが二人を救助し、それからほどなくして戦闘は終了となった。




