04 ぐだぐだトーク
カリナねーさんは眉根を揉み解してから疲れた声で言う。
「まぁ、お嬢ちゃんがクロノアにとって悪い人間じゃないことはわかった。今後スラムの、アタシたちの言うことを聞く範囲では、手出しさせないと約束するよ」
「それは……ありがとうございます」
「あと、もしマンネリになったらいい薬を――」
「ねーさんそれ以上は言っちゃダメだ!」
どさくさに紛れて何を言おうとしてるのこの人は!?
「うん? つまり薬も要らないくらいに熱い――」
「そもそもどうして私が手を出してる前提で話すの!?」
「え、ヤってないの?」
「発言が直球すぎる! 何もしてない!!」
これだから性に奔放な人たちは……! セクハラという概念もないから言いたい放題だ!!
いや私が身持ちが固い……と言うのもちょっと違うのだけれども……。
ハッとしておそるおそるステラ様の方を見てみれば……ほらー、気まずげに目を逸らしてるー!
その時、ステラ様の隣の手すりに座っていたねーさんが、ひしっとステラ様に抱き着いた。あまりに唐突なことにステラ様は目を丸くしている。
「くろのあー、この子こんなに可愛いのになんでなのー?」
「ねぇ仕事前なのに飲んでる!?」
「なぁにが不満なのよー。好みの顔じゃないってことー?」
「たいへん私好みの顔だけどそうじゃなく!!」
不満とかそれ以前の問題! というかねーさんたち、たまに私の性別忘れてませんかねぇ!?
今度は私の隣の手すりに座ってたねーさんが私にくっついてくる。ちょっと首筋撫でるのやめて……年下趣味のねーさんだから余計に身の危険を感じてしまう……私も中身はともかく外見は十五だから。くっ、襲われそうになった過去がよみがえって頭が痛くなってきた。
「じゃあなんで手を出さないのー?」
「……婚約の段階でのソレは厳に慎めと」
正式に結婚する前に子どもが出来たら継承権に問題が出るとか何とか。
などと、貴族としての建前を適当に述べただけなのはバレバレだったようだ。何を言ったところで通じそうにないんだけどさぁ。
「クロノアちゃんだと関係ないじゃーん。えっちなことに興味ないのー? おねえさんはどうー?」
「ぐ、ないって前々から言ってるじゃん! しないよ!!」
「ぶー。クロノアちゃんならお金なしでも相手してあげられるくらいには好きなのにー」
「高評価ありがとう! でもノーサンキュー!!」
これが狩人が相手だったら女性だろうとグーパン出来るのに、ねーさんたち相手だとどうにもグーで訴えることが出来ない。過去に暴力で抑えつけられてきた人たちなのだから。
何とかやんわりと引きはがしていると……隣のステラ様から何がこめられているのかよくわからない視線が飛んできていた。私が悪いわけじゃないはずなのに、悪いことした気分になってくるんですけどぉ!?
しばらくぎゃーぎゃーと本当にどうでもいい、しょーもないことを言い合っていたら、ステラ様がポツリと。
「クロノア様……大変人気があるのですね」
その言葉に、カリナねーさんはやたら真面目な顔になって。
「そうだよ。お嬢ちゃんは、みんな大好きクロノアを奪おうってわけだ。……泣かせたらただじゃおかないよ?」
低めの声で、まるで脅すように……いや、実際に脅しているのだろう。ステラ様を鋭い目で見ている。……正直、ねーさんたちがここまで過保護だったとは知らなかった。
それに対しステラ様は怯えることもなく、少し首を傾げて。
「それは……どうなのでしょう。少なくとも、泣かせないとお約束は出来ないかもしれません」
「あん?」
ざわりと周囲の空気がざわめくけれど、ステラ様は意に介さない。けれど言いづらいことではあるのか、言葉を濁す。
「あぁ、いえ、悲しい思いをさせたい、という意味ではないのです。ただ……」
……あ゛っ。
私は先日、見っともなくステラ様の前で泣いたことを思い出してしまった。
確かにあれは悲しくて泣いたわけではないのだけども、私の感情を強く揺さぶったという意味では、泣いてしまったことに変わりはない。つまり、別の意味で泣かせてくる可能性はあるってこと……??
妙な気恥ずかしさを覚えて身を固くしたら……それを斜め上に解釈するのがねーさんたちである。ニヤニヤ顔でとんでもないことを言ってくる。
「あぁ、ベッドの上で泣かせるとか?」
「ぶふっ!? なんてことをいうの!?」
「ベ――ち、違います!!」
本当にもうこの人たちは! 変にシリアスになるよりそっち方面で茶化される方がずっと困るっての!!
私とステラ様、二人がかりで否定しても、逆に「仲が良いわねー」なんて言ってくる始末。剣呑な空気があっという間に霧散したのはいいんだけど、どうすればいいんだこんなの。
「……こほん。あー、まぁなんだ。お嬢ちゃんにもお嬢ちゃんなりの覚悟はあるってことだね」
「それは。はい」
「ならいいさ。一緒に……というには出張る場所が違いすぎるんだが、まぁ頑張っていこうじゃないか」
「よろしくお願いいたします」
私が戸惑っている間に話はまとまっているし……いいんだけどさぁ。
「ついでだから仕事――情報収集の方の話なんだが。お嬢ちゃんも聞いておきなさい」
「? はい、何でしょうか」
「最近、帝国訛りの狩人がやけに増えてるね」
帝国出身。
以前から注意はしていたけれど、第二王子の件で色々とキナ臭さが増えているからなぁ。
「どんな話をしてる?」
「ここにしか居ない魔物を狩りにきているとか……ドラゴンを狙っているだとか……。まぁ後者に関しては盛っている可能性もある、と言いたいところだけど、先日クロノアがドラゴンを狩ったばかりだろう? 妙に気になってねぇ」
ドラゴン――アヴィが来たことに関しては、ほぼ私のミスのせいなので関係はおそらくないだろう。
関係ないとしても、別の、普通のドラゴンを狙ってるとして。単に素材が欲しいのか? だとしたら、今回組合長に渡したドラゴン素材に食いつくとして。
そうじゃない場合――たとえば、ドラゴンをあの火喰い鳥のように呪って使役する、とか。ステラ様も同じことに気付いたのか、少し顔色を悪くしていた。
ドラゴンはそれなりに強いので果たして帝国の人間にそのようなことが出来るのか……という感じだけれども、帝国の人間の強さを知っているわけじゃないからなぁ。それこそ私以上の強さを持つ人間が、上手く牙を隠しているかもしれない。私は王国最強を自負していても、世界最強だなんて思ったことはないからね。
うーん、もっと世界書庫を使いこなせればこんな悩む必要もなかったんだろうなぁ。と気が急くと同時に、あまり頼りすぎるのもなぁという懸念もある。後者は単純に私の気持ちの問題でしかないのだけれども。
ともあれ現時点ではわからない。「引き続き何かわかったら教えて」と伝えて、私たちは帰ることにした。
そして帰り道。私は徒歩で、ステラ様はリノサウルに乗って。お互いに無言である。
……ねーさんたちのはっちゃけ会話のせいでたいへんきまずい。ほんのちょっとの道程なのに、とても長く感じてしまう。
けれども、一つ気になることがあったので尋ねてみる。
「ところでステラ様、随分落ち着いてましたね」
「……え?」
「その、あんなとこに連れていって、知らない人たちに囲まれて」
貴族のご令嬢にしては肝が据わっている気がする。……先日のアヴィの件に比べれば全然軽いので、ひょっとして感覚がマヒしてしまったのではないだろうか。
というのは関係なかったようで。
「クロノア様が、わざわざ私を危険な方に会わせるとも思いませんでしたので。問題ないとわかっていたのでしょう?」
「……それは、そう、ですね……?」
『絶対に傷を付けないでね!』と口酸っぱく約束はしていたけれど、それはステラ様にはあずかり知らぬ話であるはず。人の行動なんて早々に制限出来ないのだし、もしものことだってあると思う、のだけれども。
「それに、クロノア様の隣に居て、危険などあるはずもありません」
「……」
……まさか落ち着きの正体が私のせいだったとは。嬉しいような、恥ずかしいような。
うん、今後も頑張ろう。




