03 頭の痛い報告会
宰相閣下に『国王陛下を交えて内密でお話ししたいです(意訳)』とお手紙を送ったら、二日後の夜なら時間が取れると返ってきた。思ったより時間空いてるんだな……というわけではなく、わざわざ空けてくれたのだろう。普通のご令嬢なら夜などありえないけど、まぁ私だからなぁ……。
あまり良いことではないと思うけれど、訪れるのが慣れてしまった王城のプライベートサロン(ほぼ王族使用)へと招かれ、お二人の前でここ数日で起こった聖獣からの神獣の話まで、噓偽り誇張なくお話しさせていただいたら。
「「……」」
揃って頭を抱えられました。比喩じゃなく。ズーンという効果音が付きそうな重さで。
復活するのは宰相閣下の方が早かった。おそらく、ある程度はステラ様からすでに報告されていたのだろう。検閲とかしてないのでどこまで報告したのかは知らないけど、彼女であれば悪いようには書かないだろうという信頼はある。
「……アッシュフィールド辺境伯殿。神獣、というのは……やはり事実なのか?」
「鑑定が弾かれるので私が調べたわけじゃなく相手の自称ですけど、神の加護持ちであると偽れないのはおそらく聖獣も同じなので、ほぼ神獣で間違いないでしょうね」
世界書庫でも調べられるだろうけど……ぶっちゃけそこまで興味がないのよね。アヴィが本当は神獣ではなく実は聖獣だったのだとしても、私の対応は変わらない。いや、嘘を吐いてたなら私の視線の温度を数度下げるくらいはするかもしれない。
あぁ、私が加護持ちとアヴィがわかったように、加護持ち同士なら察知出来るんだっけ。……ちゃんと確認してないのでどのみち知らないんだけど。
「……神獣様は、どのような理由でそこに居たのだね?」
「それは先ほどお話しした通り、力を分けて生んだ聖獣が――」
「ではなくて、魔の領域で何をしていたか、の方だよ」
「……何も聞いていないですね」
あ、なんか微妙に呆れられたような。でもマジで興味ないのよねぇ……。
「多分ですけど、特別用事なんてないと思います」
「何故だね?」
「そうでもなければ、うちに居付くことなんてしないでしょう。人間への攻撃以外は制限していないのですから、どこぞへと用事を済ませに去ったはずです」
「ふむ、一理ある」
同じく神の加護を持っている私だって、神からの指令を受けているわけではないのだ。神獣がヒマであっても驚くことではない。……指令といえば、聖女様の言ってた『勇者を探せ』ってのはどうなったんだろうな。またこっちに矛先向けられたくないから聞かないけど。
遅まきながら復活された国王陛下が、大きな大きな溜息を吐きながら、心底疲れたように背もたれへと体重を預ける。
「……アッシュフィールドに野心がなくて本当に良かった」
「ですな」
「神獣様が現れたことも、その神獣様と契約をしたのも……アッシュフィールドが神獣様を下せるほどの力を持っているのも、本来ならどれも国を揺るがしかねない大問題であったぞ……」
「……ですな……」
私が正直に全部報告しているのは、まさに野心があると思われたくないからである。王国と敵対する気はないと神紋契約を結んでいるけど、王都をぶっ壊せる戦力を(非常に不本意だけど)持っておきながら報告しないのはさすがによろしくない。まぁちゃんと話すのは国王陛下が為政者として真っ当かつ私に色々と配慮してくれているからというのもある。これが野心たっぷりの帝国皇帝だったりしたら、私に他国に攻め込めと命令したことだろう。んなこと言われた日には『おまえの命取ってやろうか?』とかやってしまいそうだ。
国王陛下は金髪碧眼の美丈夫で、第二王子をそのまま順当に年を取らせて口髭を生やした見た目だ。宰相閣下は実年齢よりずっと若く見えるけど、国王陛下は年相応の貫禄が備わっている。……この親からどうしてあの子どもが出来てしまったのか……教育の問題らしいけど。
その渋い顔の眉根を揉み解しながら、国王陛下は私へと問う。
「それで、その神獣様は現在、アッシュフィールドの領地に滞在中なのだな?」
「……そうですね。帰ってくれないので」
「……帰ってくれなどと言えるのはアッシュフィールドくらいだろうよ……」
領地の防衛力が上がったという点では喜ばしいのだけども……経緯が経緯なせいで、私のアヴィへの印象が悪いですからね……。いくらかは自業自得であると判明したのだけども、それを踏まえても八つ当たりも入っていると思う。心が狭い自覚はある。
「……神獣様が帰らない理由の一つに、娘が関わっていると聞いているのだが」
「命を救われたことで、ステラ様のことが気に入ったみたいですね。直々に護衛すると言ってきたくらいですし」
「……光栄というべきなのだろうな」
宰相閣下も複雑そうである。それだけ『神獣』という存在が大きいのだろう。これはさすがに口にしないけど、聖獣も神獣も、人間と魂の根源を同じくするせいで、私はその辺りにあまり信仰心を持ってないのよねぇ……。私自身、神の加護を持っているから、ってのもあるかもだけど……ただの傲慢にならないよう気を付けないとなぁ。
「とはいえ、大っぴらに口には出来ないがな」
「……まぁ、神獣の話をされたら大騒ぎになりそうですね」
「それもあるが、立場を弁えぬ有象無象がステラに手を出しかねん。アッシュフィールド辺境伯殿とで手を煩わせたくないだろう」
……なるほど。それはモヤっとくるものがある。
アヴィには『人間を傷付けるな』と言ってはあるけど、ステラ様の害になる者への死なない程度の攻撃を許可しておくか。
などと心の声で呟いたつもりだったのだけど、どうやら言葉として漏らしていたらしい。宰相閣下が口元を引きつらせていた。娘さんの無事は全力でお守りしますよ? ……命を危険に晒した身ではあるので、二度と起こらないように気合いを入れ直さなければ。
「さておき。アヴィにはステラ様の護衛と、辺境伯領の防衛以上のことをやらせる気は一切ありませんので、ご安心ください。ここでこうして宣言しているのは、どこかから話が漏れて伝言ゲームで尾びれ背びれが付いたとしても、私が言った以上のことはないと知っておいていただきたかったからです」
「……承知した」
ここで『王国全体の防衛はしてくれないのか』とか言ってこないのが、この国王陛下のいいところである。現在の王国がそこそこ平和で危機に陥ってるわけじゃないから、ってのもあるかもしれないけどね。
それに、人間の領地は人間の手で守るべきである。辺境伯領の防衛自体も最低限にしてもらう予定だ。住人が育たないとこの先やっていけないからね……まさかアヴィが生きている間ずっと面倒を見てもらうわけにもいくまい。神獣の寿命がどれくらいあるのかしらんけど。
「今まで通り、他国への侵攻などに力を供出させることも当然ありませんが……人の手ではどうしようもない災害に対応させることはあるかもしれません」
「……災厄の話か?」
国王陛下なら当然聞いてますよね。
私が勇者云々については違うと主張するけど、本当に災厄なんてものが襲い掛かってくるのだとしたら、もちろん対応する気はありますよ。辺境伯領が最優先なことに変わりはないけど、王国にどうこうなってほしいわけでもないのだから。今の国王陛下の治世が私にとって都合が良いってのもある。まかり間違って第二王子みたいなのに交代してしまったらキレる自信がありますよ。
……そういえば、第二王子の調査の件もどうなったのだろう。気にならないでもないけど……私の方から首を突っ込むのはやめておこう。
まぁそんな感じの、お二人の頭が痛くなる報告会でしたとさ。




