01 後片付け・裏
「解体、からの壁作成」
詠唱により、まずボロボロだった壁が解体され、砂のように崩れていく。次に、足元に置いてあった石材が変形し、上まで伸び、新たな壁となった。少々力を篭めて壁を叩くけど穴は空かない。とりあえずこれで大丈夫かな。砂は周辺の瓦礫ともどもひとまずまとめて空間収納へと突っ込んでおく。
私の壁修復作業を見学していたアヴィ(変わらずメイド服姿)が感心を篭めて呟く。
「作成の手際も素晴らしいな。これで従者使いが荒くなければもっと良かったのだが」
「そんなの罰に決まってんでしょうが」
使用した石材はアヴィに山から取ってこさせたものだ。もちろん私は手伝っていない。壊したけど直せないっていうから、私が代わりにやってあげてるだけでもありがたいと思いなさいよ。私は子どもたちほど寛大じゃないから、まだ怒ってんですよ??
そもそも従者になることを選択しておきながら、労働に対して文句を付けるのは何なんだ。キリキリ働け。
「いや、これでも神獣なのだから、もっと大層なことをやらされると思っていたのだ」
「うっさいよ。巣に帰ってほしいくらいなのに、大層なことなんてやらせるわけないでしょ」
一般的に石材の運搬は重労働では、って? 街の商店でも買える物を、半分嫌がらせにやらせただけなのでいいんです。まぁさすがに採掘してもらった物の方が質は良いのだけども。
私の嫌そうな声にアヴィは目を瞬かせた。くそ、本当に人間らしいことを……人間形態になられると余計に人間みたいに見えるじゃないか……。
「驚いた。ご主人は無欲だな」
「は? ……これでも欲望だらけだよ。けど、神獣にさせるのは何か違うからやらせない」
そもそもが、私という個が存在していなくても辺境伯領が回るように改革していきたいのだ。それで神獣なんて特別すぎる個の力を頼るなんてバカでしょう。……私情が混じっているのは否めないけどさ。ただでさえ厄介ネタなのに、余計なことして方々から睨まれるのはごめんだよ。これでも私は平穏を望んでいるんだ。
ハァと溜息を吐いてから腕を組み、出来たばかりの壁へと体重を預ける。
「で、何か話がありそうだけど?」
「そうだな……どう切り出したものか」
アヴィは少し言い淀んでから、自分の胸元を押さえる。
「思考を大きく乱し、ご主人たちに攻撃したのは申し訳ないと思っている。言い訳でしかないが……我の魂に、少しばかり母親としての記憶が残っていたようだ」
「……」
魂に記憶が残っている。
すなわち、前世の記憶。
「ご主人は知っているのだろう? 我らの魂の根源のことを」
「……まぁ、そうね」
……私は以前、世界書庫で調べものをしたことがある。
『前世の記憶を持つ人間は居るのか?』と。
答えは……イエスだった。それには、この世界における魂の輪廻の仕組みが関わってくる。
とは言ってもそう難しいことではない。死した魂は一度、全ての魂が集まる場所、根源へと還る。そこで記憶やらなんやらを洗い流して、真っ白になった後でまた別の命へと宿る。言うなれば全員が前世持ちだ。ただ、記憶が残るのが稀なので、あまり世間に浸透していない話でもある。
その次の宿主は、人間だったり……霊獣や聖獣だったり。
つまり、器が異なるだけで、アヴィのような神獣(神の加護を持つ聖獣というだけなのだが)であっても、人間の魂と同じとも言える。器そのものが違うだけで大きく変わるし、育つまでの環境によって性格や在り方はやっぱり変わってくるけども。私が霊獣や聖獣をあまり倒したくないのは、言葉が通じるからというのもあるけれど、この点によるものも大きい。
まぁこの事実については、『そういうものなのか』、くらいの感想でしかない。
「おかげさまで、アヴィがアホだった理由もわかりますよ」
「ぐぬ。どうにも、子どもを奪われた母だったようでな……過剰であったのは今ならわかる……」
「それが子どもに手を出す理由になるとでも?」
「……とにかく報復したいという気持ちが前に出すぎていたようだ……」
舌打ちをしそうになったけど堪える。大きな力を持つ者が視野狭窄でどうするんだと文句を言いたい気持ちはあるけど、ブーメランになって返ってきそうだったから。あまり責める前に、まず自分を省みなければいけない。
「あともう一つ、これも言い訳にしかならないが……一応、警告と言うか、忠告と言うか」
「警告ぅ?」
「ご主人よ、何故神の加護を隠匿していたのだ。その気配が事前にわかっていれば、我ももう少しは冷静になれたと思うのだが」
……そういえば、教会関係者に悟られたくないからと隠蔽を強化したんだっけか。え、まさか、神獣相手にも効果あったの?
「……隠してなければ話を聞いたの?」
「聞いただろうな。ご主人は、王と平民に同じ態度を取るのか?」
「口調と姿勢は変えるけど、少なくとも話くらいは聞く。聞かないのは明らかにクズな犯罪者くらい」
「ぐぬ。その、我から見れば、子を攫った挙句に契約を強要した犯罪者にしか見えなかったのだ」
「……それでも、神の加護持ちとわかれば話を聞きはした、と?」
頷くアヴィに、私は頭を抱えた。……私のミスがまた一つ重なった……。アヴィに言い訳ばかりと責めていられないよこれは……。
とりあえず、人間以外にはわかるように改変を加えておこう……。魔法改変はこういう時に大変都合がよろしい……。
「もう一つついでに、ご主人の体について聞いておきたいのだが」
「体って……これのこと?」
私は組んでいた腕をほどいて持ち上げ……腕から、黒鱗を生やした。おまけに黒炎も纏わせる。
「……我の魔力を直接喰らったから影響が出るとは思っていたが……問題ないのか?」
「今のところ特には。偶に違和感を覚えるけど」
黒炎を消して、鱗も消す。これが消せないのだったら問題だけど、自在であれば問題ない……とは思うんだけど。
ドラゴンの力を取り込んだ、と言えばすごいことに聞こえるかもしれないけど……わざわざ黒炎を使わずとも火魔法は使えるし、鱗は硬いけど絶対防御の方が硬い。でもどちらも魔力消費量はめちゃくちゃ少ないので、メリットが全くないわけでもない。
私の回答にアヴィは鼻を鳴らす。
「おかしいとは思っていたが……ご主人、本当に人間か?」
「……それディアンにも言われたんだけど。親子ともども失礼な。切られれば血を流すし、肉も骨も内臓もある人間だよ」
「しかし、ご主人が腕を再生した時のアレは、我らの再生方法に近かったぞ」
……アヴィたちの再生方法。魔力で肉体を形成すること。
私の体には確かに、肉も、骨も、内臓も、血もあるけれど……それを、魔力で作り出しているということ?
「でもそれ、普通の再生魔法と何が違うの? あれも魔力で生やしてるようなもんだよね?」
「……いや、わからん。ただ何となく、そう思っただけだ」
わからんのかい! 思わせぶりなことを言うんじゃないよ!
「まぁ、我にとってはどちらでもいいことだったな。ご主人が人間であろうと、そうでなかろうと」
「はいはい、そりゃどーも」
そろそろステラ様を迎えに行く時間なので、「適当に軍部で訓練の相手でもしてろ。訓練の範囲なら傷付けても不問にするから」とシッシと手を振ってアヴィを行かせた。
その場に一人になり……ポロリと零してしまう。
「人間じゃないかもしれないなんて、勘弁してほしいんだけどなぁ……」
ただでさえ、私は異物だというのに。
……世界書庫で調べた結果、『他の世界の前世の記憶を持つ人間』は一人も居なかった。
私だけだったのだ。
おそらく、再生方法の違いについても調べれば答えを出してくれるだろう。でも……私には、調べられなかった。




