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転生少女は灰を継ぐ 〜その婚約破棄令嬢、うちの辺境でもらいます〜  作者: なづきち
神獣? 私の大事なものに手を出すなら、何だろうとぶっ飛ばす

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05 トラブルの芽

「行方不明者の捜索?」

「あぁ。ちょっと気になってな……出来ればおまえさんに頼みたい」


 今日は学院に行かずに(ステラ様に朝の挨拶だけはして)、執務を片付けて午後になったところで狩人組合ハンターギルドを訪れた。理由は組合長ギルマスに呼ばれていたからなのだが……顔を出すなり捕まってからのこれだ。

 狩人ハンターは基本的に自己責任である。怪我をしようが、最悪死のうが、それは彼ら自身の選択によるものである。たとえ依頼の遂行中に魔災に巻き込まれたとしても、だ。

 とはいえ私だって無駄に狩人ハンターの数を減らしたいわけでもない。領軍だけでは足りていない間引きを行ってくれている狩人ハンターたちを見捨てるのは領地を見捨てるのに等しい。なので救援――この場合はおそらく手遅れだけど――依頼があれば受ける。可能であればその原因も究明して、被害の拡大を防ぐ。


「りょーかい。行方不明者のリストをくれる?」

「あぁ、これだ」


 組合長ギルマスも慣れたもので(慣れるほどあるのも問題だろうけど、無くそうにも無くせないものだからね……)、行方不明者それぞれの名前と特徴が書かれたリストを準備済だった。

 ……私は五年間狩人(ハンター)を続けてきただけあって、一部新人を除いてほぼ顔見知りである。当然ながらそのリストの名前も知ったものばかりで、親しいというほどではないにしても思わず眉をしかめてしまった。


「そいつらの想定進出先が似通っているのがどうにも気になってな。……どいつも中堅どころだから、引き際は心得ているはずだったんだがなぁ」

「確かにブロックが近いね」


 魔の領域で泊まり込みで活動することもよくあるのだが……組合長ギルマスが言うからには何かあるのだろう。彼の勘は侮れないのだから。

 狩人ハンターたちは自己責任だけあって、自分たちの身を守ることを最優先に考える。目先のお金に囚われるのは新人の間だけだ。それも初心者講習時に徹底して忠告を叩き込むように特級の権限を使ってねじ込んだので、減った……はず、である。

 その新人ならともかく中堅となると、この近辺で何か非常事態が発生し、揃ってあるいは別々に巻き込まれた可能性がある。


「まぁ、とりあえず現場に行ってみるよ」

「頼んだ」


 私は早速転移魔法を使い、ひとまずの予想地点まで飛ぶ。組合長ギルマスは知っているから見られても問題はない。

 転移魔法は一度行ったことのある場所でないと飛べないという制約がある。過去の自分の座標を元に転移先を設定しているらしい。まぁそうでもないと、かの有名なワードである『いしのなかにいる』が発生してしまうのだろう。それを言えば偶然その場所を通りかかった人と合体事故を起こすのでは……と思わないでもないけど、実際に発生していたらしい。こわぁ。だから遺失前の転移魔法は転移専用のスペースを指定して運用されていたとか。それでも事故はゼロにならなかったので、遺失する原因の一つとなったのだろう。

 私は転移先設定部分を魔法創造で改変して、先に周辺を漂う魔素の情報を取得、安全とわかったらそこにマーカーを設置、飛ぶ。というプロセスにした。これなら知らない場所でも飛べるし、それこそ帝国の厳重に警備されている国庫にでも潜り込めそうだけど、当然ながらそんな面倒なことはしない。余計な火種を作りたくないからそこまで出来るとも言わない。

 飛んだ先は森の中であり、この時点で特に異変は見当たらない。実際の失踪地点から外れてるだろうし、そんなものだろう。だからここから絞り込みである。


「さて、検索するか。名前はベック、二十八歳。辺境伯領在住の四級ハンター。この十日間の魔の領域内での座標のみを、一時間ごと時系列順に」


 検索魔法は便利な反面、アバウトな条件だと余計な情報まで寄越してくることがある。私の場合はうっかりでやらかしかねないので、特に人が検索対象の時は使いたくない。

 今回は座標のみの指定なので余計な情報はなかった……のだけれども。


「……五日前の夜の時点で途切れている。わかっちゃいたけど死んでいたか……」


 自己責任の狩人ハンターであろうと領民は領民だ。ましてや顔見知りである。何とも言えない感情を飲み干しながら、ひとまず残り全員の座標を検索していく。

 その結果……時間にバラつきはあるものの、全員途切れ(しぼうし)ていることが判明した。しかし座標の方は、どれも比較的近かった。


「……次に、彼らを殺害した魔物を検索」


 結果は……少々意外な魔物であった。

 犯人はドレッドコング。凶悪な巨猿である。こいつを相手にするには最低限二級相当の能力が必要となる。

 そんな相手であれば意外でも何でもないと思われるが、こいつの生息域は山であって、森は縄張りの外なのだ。しかし座標はどれも森の中腹――人間であれば山から四日はかかる位置を示しており、ふらっと迷い込んだにしては距離がありすぎる。


「とりあえず現場に飛ぶか……色々と回収しないとだし」


 『死んでました』、だけではあまりに薄情だろう。遺体が残っているならちゃんと埋葬もしてやりたい。軍人と違って遺族給付金はないけど、残された家族には遺品を持って帰ってやるべきだ。

 少々胃が重たくなるのを感じながら、まず一組目のパーティの最終座標へと飛ぶ。

 座標通りの場所に遺体はあった。死んでから日が経っていたせいかかなり食い荒らされていて、残っているのはほぼ骨とぼろぼろの装備だけだった。近くにあった他のパーティメンバーの遺体も似たようなありさまだ。さすがにこの状態で遺体を持ち帰るのは無理なので焼いて残った骨と、認識票ドッグタグを回収する。二組目、三組目も繰り返し。

 最後の四組目で、少し違いがあった。


「……血の跡はあるけど遺体が足りない。死んでから引きずられていったか?」


 ありえない話ではない。魔物の肉は人間の食料となるように、人間の肉は魔物の食料となる。ここまで食い荒らされていたのもそれが原因だ。そして場合によっては同族のために巣に持ち帰ったり、単に後で食べるなどもある。

 どうも世界書庫アカシックレコードは、死んだ後の肉体を検索した当人と見なさなかったらしい。……どこまでがその人なのか、魂云々とかは一旦置いておこう。


「ここまで来たら普通に魔法で探すか……この血を対象に――追跡トラッキング


 点々と続く血の跡がわかりやすく明滅する。私はそれを道しるべに森の奥に向かって歩みを進めていった。

 小一時間もせず、足りなかった遺体――やはりほぼ骨と対面する。そして同時に、下手人であるドレッドコングにも。


 ギギッ!


 ドレッドコングは一体だけでなく、三体。新たに現れた私を『食料が増えた』と喜びでもしたのか、醜悪な顔で笑いながら私を取り囲む。

 こいつらは強力な個体だ。場違いなこともあり、この近辺であれば最強と言ってもいいのかもしれない。自身でそれを自覚しているのか、とても楽しそうである。

 私も、笑顔を向け――


「逃げないでくれてありがとう。これで仇が取れるよ。――風刃ウインドリッパー


 ドレッドコングたちが顔に戸惑いの色を浮かべたのは一瞬。

 周囲に展開した複数の風の刃は、狙い違わず三体のドレッドコングの首を刈り取る。

 それだけに飽き足らず、風の刃はその後ろの太い木々も切り倒していった。……魔力を籠めすぎたらしい。まぁ人が巻き込まれたわけでもないからよし。


 もう少し周辺を探索してみると、ドレッドコングたちが作ったと思われる巣があった。作られたのも最近のようで、元からここで生まれ育った個体でもないようだ。

 何故本来の住処ではなく、こんなところに移動して住み始めたのかまではわからない。検索で調べればわかるのかもしれないけど……なんだか今日はもうやる気にならない。ステラ様を迎えにいく時間も近付いていることだし、また後日にしよう。




「クロノア様、どうかされましたか?」

「え?」


 開口一番、ステラ様にそのようなことを言われ、思わず目を瞬く。


「どこかお疲れのように見えましたので……」


 ……肉体的な疲れはない。

 のだけれども、自分が思ってたよりは精神的に疲れていたのだろうか。人の死なんて、辺境伯領ではよくあることなのだけど……。

 こちらを見詰めてくるステラ様を見詰め返して……ゆるゆると、体の強張りが抜けていった。


「……ありがとうございます」

「……え?」


 生きている彼女を見て、私はホッとしたのだ。

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