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転生少女は灰を継ぐ 〜その婚約破棄令嬢、うちの辺境でもらいます〜  作者: なづきち
神獣? 私の大事なものに手を出すなら、何だろうとぶっ飛ばす

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03 絵に描いたような悪徳商人

 ある日の授業後、夕方前。私はいつも通り転移魔法でステラ様を領主館にお連れして、いつもとは違う応接室へとお通しした。

 今日は件の脱税疑惑(ほぼ確定)のあるゴルドー商会から面会予約が入っていたからだ。私としても、ちゃんと謝って心を入れ替えてくれるなら今後も取引をお願いしたいところであるので、申請を許可した。

 対応するのは私、ステラ様、そしてランである。本日は領主館に詰めていたランがきっちりと応接室を整えてくれていたので、お礼を言ってステラ様と横並びにソファに座る。


「……あれ? 私、ひょっとして時間間違えた?」

「いえ、間違っていません。……先方が遅刻しているようですね」


 しかし、しばらく待ってもゴルドー商会の人たちが来ない。うっかり時間を間違えたのかと思ったけど、そうではないとランが否定する。

 信用第一な商人なら単に遅刻というのは早々ないはずだ(その信用が脱税疑惑で削れているというのは一旦置いておく)。ひょっとしてトラブルにでも遭ったのだろうか。残念なことに領都の治安は良いとまでは言えないからね……。

 もうしばらく待って来ないようなら何か事件が起こってないか確認するかな……と考えたところで、開いたままの扉の向こうからどやどやと足音が響いてくる。ランが入口まで出迎えに行くと、門番くんに連れられたゴルドー商会の二人と、顔見知りの狩人ハンターの青年――ガレスがやって来た。道中の護衛かな?

 ここまでの案内ありがとうと門番くんに手を振ってからガレスにチラと視線を向けると、彼は小さく手を上げるだけだった。……特に報告がないってことはトラブルがあったわけじゃないのか?


 ゴルドー商会の二人、片方は背が低く小太り、着ている服は煌びやかでアクセがジャラジャラと、成金という言葉を体現したような姿だった。もう片方は背が高くガタイも良いが人相が悪い。正直、商人よりチンピラと言われそう。

 二人は応接室に入るなり、私に一言もなくどっかと大きな音を立ててソファーへと座り込んだ。ガレスは眉根を手で揉み解してから後ろに立つ。その顔はとても迷惑そうだった。


 ……あ、こいつら駄目だ。ステラ様を見て目がギラついた。今にも舌なめずりすら始めそうな表情だ。横でステラ様が小さく身じろぎしたけれど、それ以上の反応は見せない。

 同席を願ったことを内心で詫びながら、この時間がさっさと終わるよう願いながら、ぐっと飲み込んで表面上は穏やかに、より偉そうな方の小太りさんに語り掛ける。


「えぇと……ゴルドー商会、アッシュフィールド辺境伯領支店の支店長さん……ですよね?」

「そうに決まっているだろう。領主のくせにワシの顔も知らんのか」

「就任の折にお店に挨拶に行ったことはありますけど、不在でしたからね」

「ワシは平民と違って忙しいんだ。一月前から予約を取ってくれんと困るでな」


 ……これ、私を元平民と舐めているパターンだな。どう考えても、養女とはいえ貴族家の当主で領主に対する態度じゃないぞ。遅刻もわざとではないにしても、守る必要はないくらいに思われてそうだ。


「そもそも本当に会いたいなら再予約の一つでも入れるべきじゃないのかね? んん?」

「私も平民と違って忙しいですからね。会わなくても物流は回っていたので失念してしまいました」

「……そうやって人と人の繋がりを甘く見ると痛い目に遭うぞ?」


 人の繋がりが重要なのはわかるよ。でも私と会わないことを決めたのはそちらなんだけどな。不在じゃなく居留守を使っていたのは知ってるんだぞ。

 ……とはいえ、ちゃんと話をして良い関係を築けていたらこの結末も変わったのかもしれない。お店の売り子さんたちとは仲良くしていたから大丈夫かと思ったのはさすがに甘かったな。

 しかし元平民ではあっても今は貴族であるのも事実。過剰に相手を持ち上げるのもよろしくない。この調子なら賄賂とか要求されていそうだし、結局のところ早いか遅いかくらいしか違いはないのかな。

 この面会は謝罪のためではないと確定したようなものだけど、一応、気が変わるかもしれないので話を切り出す。ランがスッと問題の書類(念のため写し)を机の上に置いた。


「で、支店長さん。今回は納税ミスについての件だと聞いていますよね?」

「聞いてはいる。しかしどういうことだね? この計算はどう見ても正しいだろう? まさかアンタのところは数字すら読めないのかね? はっ、孤児を雇うからそんなことになるんだ」

「そういうアナタのところは汚い字を書きますね。王都で中堅にまで育った商会でありながら、きちんとした教育をされてないんですか?」

「なっ――」


 ランの作った写しは完璧で、悪筆も再現されている。汚い字であることは、文字を習ったことのある人間であれば一目瞭然だ。

 ちなみに、レンもランも、ステラ様ほどではないにしても綺麗な文字を書く。そうやって教育してきましたからね、ふふん。


「……文字はどうあれ、計算は間違っていないだろう。一体何の問題があるというのだ」

「えぇまぁ、数字だけ見ればあってますね。では、この損金……倉庫の焼失とのことですが、詳しく説明してください」

「は? そんなもの、魔災被害に決まっているだろう! ここの領主でありながらそれくらい想像付かんのか!」

「ですから、その魔災被害にいつ遭いましたか? 昨年下半期にここまで大きな被害記録はありませんよ」

「し、資料など焼けたわ! 記録していないことにして、被害者から毟ろうとはなんて奴だ!」


 ……んあー、もう面倒になってきたぞぅ。

 どうしたものかと悩む私に、ステラ様が横から口を挟む。


「魔災被害を受けたのは大変でしたね。金額から察しますに、結構な規模で焼けたみたいですね」

「……お、おぉ、そうだ。大事な商品が大量に失われたわ!」

「では、倉庫の立て直しをどこの工房にご依頼しましたか?」

「……なん……?」

「領都内の全工房と、建材の取り扱いのある商会に問い合わせ済みですが、ゴルドー商会とそのような取引はないと回答をいただいています」


 ……えっ。いつの間にそんなことを?

 ランは知っていたのか、ステラ様の発言に合わせてまた別の資料を置いていく。私にも渡されたので流し見してみると、見覚えのある名前がずらっと『否』の回答と共に並んでいた。


「そ、そんなもの、我がゴルドー商会で用意すればないに決まってるだろう!」

「そちらからいただいた経費報告書にそれらしき金額は記載されておりませんでした。あと、王都の本店とやり取りさせていただきましたが、該当期間に辺境伯領支店が被害に遭った記録はないと回答をいただいています」


 いつの間にそんなことを??

 お兄さんに協力してもらったにしても……執務室の大量の書類の山を片付けて、学院の授業もしっかり出て、最近は訓練(というか体力作りの段階)もしてて、どこにそんな時間あったんです……? わかってましたけど、ステラ様めちゃくちゃ有能ですね……?

 ゴルドー商会の紋章が入った書類まで用意されて、支店長は顔色を赤くさせたり青くさせたりと忙しい。まぁこれ以上は言い逃れ出来ないだろう。

 ……そういう時、悪党が取る手段は一つなわけでありまして。


「こんな物、こうすりゃなーんの証拠にもならんぜ」


 ずっと黙って聞いていたもう一人の男が、言葉と共に書類を全て破り捨てた。これ見よがしにバラまいてから立ち上がり、凄むように身を乗り出す。


「支店長よう。こんなまどろっこしいこと時間の無駄だろ? とっととぶちのめそうぜ」

「……そ、そうだな。ふん、ワシらに尻尾を振っておけば甘い目を見させてやったのにな。……いや、そっちの銀髪の女、今からでも遅くないぞ?」


 色欲と暴力の気配を隠さなくなった支店長に、私が拳を振り上げ――る前に。


「この痴れ者が」


 ランの綺麗に腰の入ったグーパンが支店長の顔に炸裂、応接室の壁まで吹っ飛んでいった。


「……えっ?」

「き、貴様っ!?」


 突然のことに呆けるステラ様と、さすがに暴力に慣れているのかすぐに反応した男。

 しかしランは飛び掛かろうとする男の懐に入ってそのままスポンと放り投げ、頭から床に打ち付ける。鳩尾を踵で踏み抜くのもセットだ。

 二人が戦闘不能になるまであっという間だった。


「……え? え??」

「ステラ様にお見せする機会がありませんでしたが……実はランは結構強いんですよね」

「お目汚し、失礼しました」


 だから執務室に詰めっきりのレンとは違い、外部との折衝をやってもらっていることが多い。……悲しいことに武力が必要な場面もあるので。レンはまぁ(辺境伯領民としての)一般人よりちょっと強い程度だ。

 この間もずっと置物だったガレスが今になって口を開く。


「……まぁそうなるな、って感じの結果だな。しかしこいつ、クロノア相手に腕力持ち出すとか、商人のくせに情報収集能力ねぇな」

「ガレスは護衛じゃなかったの?」

「表向きはな。組合ギルドにもこいつらの不正の話が流れてきたから、実際は逃げないように見張りってとこさ」

「なるほど?」


 それだけ税金(防衛費)の着服は重いからねぇ……。

 この件をもって、ゴルドー商会の支店は取り潰しとなりましたとさ。本部から謝罪が来ていたけど、住民が許さなかったからどうしようもない。

 しばらくは私がフォローするとして、早めに代わりの商会の選定をしないとなぁ……。

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