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転生少女は灰を継ぐ 〜その婚約破棄令嬢、うちの辺境でもらいます〜  作者: なづきち
章間二

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02 魔素中毒

「……お忙しいクロノア様の手を煩わせてしまって、申し訳ありません……」

「いえ、ステラ様が謝る必要はありません。むしろ謝るべきは、王都と辺境伯領の違いを知っていながら軽く見ていた私の方です」


 辺境伯領の私の屋敷、ステラ様のために用意した客室にて……ステラ様が横になっている。

 原因は、魔素中毒。

 王都と辺境伯領の違いとは、周囲に漂う魔素の濃度だ。辺境伯領の方が高い。魔の領域に比べれば低いけど、王都に比べればかなり高い。その人自身の耐性にもよるけど、王都暮らしの人が辺境伯領に長期滞在すれば魔素中毒になる人だってそれなりに居る。

 ステラ様は休日こそ泊まりがけで滞在する予定だけど、長期ではないので大丈夫だと思っていたら……霊獣であるシルクが側に待機することになり、魔素濃度が局所的に上がってしまったのだ。これが辺境伯領の住民であれば日々の暮らしで耐性が付いていたのだけど、彼女を責めるわけにもいかず。

 すでに魔素自体は魔道具で抜き、解熱剤で熱も下げている。顔色は良くなっているが、崩した体調を戻すには時間が必要なので休んでもらっている状態だ。これが自分だった栄養剤を飲んで済ますけど、ステラ様にそんな無理をさせるわけにはいかない。まぁそもそも体調不良になったのがもう五年以上ないのだけど。


「……違うのです……」

「違う? 何がですか?」

「これは……わたくしに素質がないせいです」


 素質? 耐性のことかな?

 でもこれは育った環境にも依る。確かに生まれながらに耐性の高い人だって居るけれど、そんな人ばかりのわけがない。


わたくしは侯爵家の娘として生まれながら……優れた魔法使いだった母の血を引きながら、魔法の素質がないのです……」


 ……確かに魔法使いであれば、普段から魔法を使っている影響で魔素耐性も高い傾向にある。そして貴族は優秀な人同士で結婚するので、遺伝で体内の魔素――魔力保有量が多い傾向にもある。

 その貴族の娘、それも侯爵家ほどの地位であれば必然的に魔力保有量が多く、練習もより多く重ねられるので、魔法使いとして優秀に……とはいかず、素質がない、と?


「んー、素質がないと判断した理由は何です?」

「……通常であれば、練習を通じて魔力保有量が増えますよね?」

「まぁ、無限とはいかないけど増えますね」

わたくしは……ほとんど増えませんでした。その影響で使える魔法が非常に少ないのです」


 頭打ちになることは当然あるけど、そのレベルでストップになるのは確かに珍しいな?


「お医者様は先天性魔力経路障害と仰っていましたが……治せずに、ここまで来てしまいました」

「魔力経路障害ですか……」


 魔力経路障害とは、その名前の通り魔力の経路とおりみちに何らかの問題があり、正常に魔力が流れなくなる症状だ。そのような障害を持っていれば、練習すらままならなず鍛えることも難しいだろう。ちなみに、無理な魔法の使用により経路が壊れる後天性もある。

 ……ふむ。


「一度、診断ダイアグノシスの魔法を掛けてみていいですか?」

「え? ……構いませんけれども……」


 診断ダイアグノシスは人の状態を診断する魔法である。第二王子の呪いもこれでわかった。

 私の主な使用用途は健康診断だ。……病気が隠れていてもすぐにわかるようにね。専業医者の診断を信じないわけじゃないけど……まぁ念のため。


診断ダイアグノシス

「……んっ」


 私の魔力がステラ様の体内に浸透していくと同時に、ステラ様が呻き声を上げた。……魔素中毒直後にやることじゃなかったか? いやこの魔法は通り抜けるだけで蓄積しないので害はない……はずだけど。

 診断結果は魔力経路障害。ここは間違いない。では本当に治せない症状なのかどうか……結果を元に世界書庫アカシックレコードさんから知識を引き出して……ふむふむ。


「確かに魔力経路障害のようですね。でもこれ、治せますよ?」

「そうですか、治せますか…………えっ? 治せるの、ですか?」

「治せます。が、いきなりやると体がビックリするので、少しずつになりますね」


 十五年ずっと使用していなかった器官を使用することになるのだ。慣らしは必要だろう。

 私の答えにステラ様は呆然としている。……今の今まで治せなかったものをあっさり治せると言われればそりゃ驚きもするか。


「……ありがとう、ございます、クロノア様。……何とお礼を申せば、よろしいでしょうか……」

「いえいえ、これも世界書庫アカシックレコードの知識のおかげですので」

「それでもです。貴女が居なければ、知ることも出来なかったでしょう」

「……ま、まぁ、ステラ様には辺境伯領ごとお世話になってますからね。その貴女のためになれるなら、ってところでしょうか」


 私のおかげといえばそうなんだろうけど、結局は神の加護のおかげだから、あまりお礼を言われるとむずがゆい。

 泣かれそうな感じになってきたし、話を逸らそう。


「それはそれとして、慣れるまでは魔素中毒対策は必要になるので、この魔道具はそのままお渡ししますね」


 私は先ほど魔素抜きに使用した腕輪と、その付属品である魔石をじゃらじゃらと取り出す。


「……こんなに、ですか?」

「こまめに交換が必要なんです、すみません。その魔道具は単に魔素を吸収して魔石に貯めるだけの物ですが、満タンになったらその魔石部分が光ります。その時に魔石を空の物と交換してください」


 なお、この魔石は後に他の魔道具の動力源となる。空になったらまた吸収させる。充電式電池のようなものだ。


「なるほど。……クロノア様は色々な物を持っているのですね」

「……この魔道具ですが、二年前に私が開発しました」

「? そうなのですか」


 ここでステラ様の役に立って良かったけれど……経緯を考えると苦いものだ。


「開発した理由は、辺境伯領の幼児の死亡原因の多くを占めるのが魔素中毒だからです」

「――」

「辺境伯領は魔の領域に隣接している影響か、他の地域に比べて魔素濃度が高いです。……幼い子どもでは、耐えられないくらいに」


 辺境伯領の子どもは遺伝的に魔素耐性は高いし、低かったとしても栄養状態が良ければ乗り越えられる。

 逆に言えば、栄養状態が悪ければ、乗り越えられない。

 ただでさえ人手の足りない辺境伯領において、それは、手痛い損失となる。気分的にも非常によろしくなくて、めちゃくちゃ不愉快だ。

 どうして今まで積極的に対策を練っていなかったのか……というか小さい子がかかる流行り病のようなものとして、それで死ぬのはどうしようもないとされていた。対処すれば生き残った子も居ただろうに。……まぁどれもこれも人手不足が悪い。

 ……おっと、空気が悪くなりかけた。戻すために私はあえておどけて肩をすくめる。


「なので効果は実証済みです。安心してお使いください」

「……ありがたく使わせていただきます」


 ステラ様が「ふあ……」と小さくあくびをする。休ませなければいけないのに話しすぎてしまったようだ。


「長々と失礼しました。ゆっくりお休みください」

「……はい。……それにしても、この寝具はどれも柔らかくて気持ちが良いですね。侯爵家の物より良いかもしれません」

「あぁ、それは――」


 前世知識にあるマットレスを参考に開発した……と言いかけて止める。

 代わりに、事実だけを述べておいた。


「魔の領域のある樹木から採取できる樹脂を素材として開発しました。体の形に添うように形状変化して体を支えつつ、衝撃吸収と体温調整をしてくれるのですよ」

「……なる、ほど……」


 目がうつらうつらとしている。本格的に寝そうなので退散しよう。

 私は「お休みなさい、よい夢を」と最後に一言だけ残してから、屋敷内の清掃をしてくれていた侍女さんに声を掛け諸々必要そうな物資を渡し、仕事へと戻った。

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