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転生少女は灰を継ぐ 〜その婚約破棄令嬢、うちの辺境でもらいます〜  作者: なづきち
勇者? 人違いです、他を当たってください

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04 小動物系聖女

 談話室に入った私は、まず真っ先にこっそりと遮音結界を張っておいた。ステラ様と聖女様の組み合わせは道すがら見られており、野次馬が盗み聞きしないとも限らないからだ。

 テーブルを挟み、ステラ様と聖女様が向かい合って座る。私は影のように存在感を消して後ろで立っていようかと思ったけど、ステラ様に手招きされたので隣に座った。侍女でもないのに突っ立っていられたら落ち着いて話も出来ないか。

 うーん、前世であれば缶やらペットボトルやらで飲み物が用意出来るのだけども、今世ではそのような物はない。水筒ならあるけど場にそぐわない。……などと余計なことを考えている間に話は始まる。


「まず初めにですが、わたくしは宰相であるお父様からいただいた情報により、ルミナリエ様があのパーティの日の騒動に無関係だと知っています。そこはご安心ください」

「は、はいっ、ありがとうございます……っ。私が何を言っても信じてもらえなくて……シルバーレイン様にそう言ってもらえて、本当に助かります……」


 世知辛いことだけど、犯人と思われている人が『自分はやってない!』と主張したところでなかなか信じてもらえないよねぇ。

 これだけで話が終わるならわざわざ談話室まで移動していない。ステラ様は少しだけ考えるように言い淀んでから切り出す。


「……ルミナリエ様は学院へ転入してきたのですよね?」

「はい、その通りです」

「転入する際……教会の方から何か言い含められましたか?」


 第二王子は野心があり、聖女様と教会の権威を得て王位を狙おうとした、という話だ。

 けれども、これが逆、教会側から後押しがあって第二王子が決心したのであれば、少しばかり話は変わってくるだろう。まぁ帝国の手を引き入れたことにより継承権剥奪は決定しているのだが。

 聖女様はステラ様の質問に何を思うでもなく、素直に答えていく。


「えぇと、将来の王国を担う方々と人脈を築いた方が良いと言われました。そのぅ、私は、準男爵からの養子縁組による成り上がりですので……」


 すぐ目の前に『平民から辺境伯家当主に成り上がった人物が居ます』と言ったらどんな顔をするだろうか。言わないけど。

 まぁうん、コネは大事よね……。


「なるほど。それは頷ける話です。それで……ディオ王子殿下にお声がけしたのですか?」

「ち、ちちちち違います、滅相もありませんっ!」


 聖女様はオーバーリアクション気味に手を振って否定する。……これも素っぽいな。


「わ、私は子爵令嬢にはなりましたが、それも神様のご加護のおかげですし、聖女となってからも何も成せていません。私自身には何もないのに、そんな不敬なことは出来ません……っ」


 ふむ、神の加護を得ながらも、聖女の称号を得ながらも、増長するでもない偉ぶるでもない謙虚さ。納得のしろだな。私なんてめちゃくちゃ個人的なことに加護を利用してるのにねぇ。


「ディオ王子殿下は、その、あちらから話しかけてきたのです。正直王族相手で緊張で吐きそうでしたけど……逃げるのは、もっと不敬でしょうし……」


 私だったら逃げてる。ちゃんと相手してエライ。しかし、吐きそうだなんて、めっちゃ正直というか明け透けというか。


「ディオ王子殿下とはどのような話をされましたか?」

「えぇと……世間話程度でしょうか。『俺はこの前指南役に勝ったんだ』とか『俺は魔法の腕も大したものでな』とか」


 ……それ、世間話じゃなく自慢話では? 自分のことばかり話すのは私よりコミュ弱では? それとも気になる子にアピールしたかったパターン?

 ステラ様も似たようなことを考えたのか、やや苦笑を貼り付けている。……彼女は第二王子とどんな話をしてきたのだろう? ちょっと気にはなったけど、ここで聞くことは出来ない。

 次第に聖女様は俯いていく。


「本当に、何も大それたことは話していないのです。あの、その、ちょっとした嫌がらせを受けて困っていると相談したことはあるのですが……誓って、シルバーレイン様のせいだなんて、一言も言っていませんっ」

「貴女に疑いをかけているわけではありませんので大丈夫ですよ。……本当に、ディオ王子殿下は……」


 あの第二王子アホボン、聖女様の心を全く掴めてないじゃないですかぁ。いかにも代弁者な空気を出して糾弾してたけど、単に聖女様の評判下げただけじゃないですかぁ。しかも嫌がらせされたのは多分第二王子(アホボン)が絡んでたからでしょ? 酷いマッチポンプじゃないですかぁ。こんなのステラ様でなくても頭痛くなりますよぉ。


「今後、この件で困ったことがあったらわたくしに相談してください。対処いたしますので」

「……え? いいのですか……?」


 処世術が上手そうには見えないし、良くも悪くも聖女の称号が仕事をしていない。翻弄される子爵令嬢(なりたて)に手を貸したくなる気持ちは否定出来ない。

 ……のだけれども。


「ステラ様、それ大丈夫です? 『今度は王子殿下から侯爵家にすり寄ったのか』ってなりません?」

「ひえっ!?」


 私の指摘に聖女様が悲鳴を上げる。

 これは別に脅しではないし、十分にありえる未来だ。

 しかしステラ様は、私などが考えていることには十分思い至っているようで。


「確かにそのような可能性もありえるでしょう。けれども、わたくしにルミナリエ様を見捨てることは出来ません。現在ルミナリエ様が受けている嫌がらせのいくつかは、わたくしが原因のものもあるでしょうから」

「し、シルバーレインさまぁ……」


 ついさっきの女子学生もそうだったしねぇ。第二王子が撒いた種でステラ様が原因とまでは言えないと思うのだけれども、ステラ様の名前が使われている以上放っておけないってことかな。

 聖女様は感激して拝むような姿勢にまでなっている。神の加護持ちなのに、立場が逆では? ……こうやってステラ様信者が増えることで過激派が増えたり……いやうん、それもステラ様のせいとは言えない……。

 ともあれ、聖女様にまつわるあれこれは第二王子側の問題であり、彼女や教会が何か企んでいたわけでもない、と。彼女の色は善人しろのままなので出まかせの嘘でもない。そもそもそんな嫌な人間だったら癒しの女神の加護も得られない……と思ったけど私という利己的人間が得られた例が……いや、夜の女神は破壊神でもあったな。私のことは置いておこう。

 そうやって私が神の加護について考えていたのがきっかけになった、わけでもないはずだけども。


「……そういえば、もう一つ教会の人たちから言われていることがありました」

「? それは何でしょうか?」

「あまり大事にするなとも言われていますので、他言無用でお願いできますか?」

「もちろんです」


 私も一緒になって頷くと、聖女様は。

 今までの様相が別人だったかのように背筋を伸ばし。驚愕の一言を放つ。


「神様のお告げがありました。――勇者様を探せ、と」


 これには私だけでなくステラ様も息を呑んだ。

 私は前世で勇者の物語(もちろん創作の世界でだが)をいくつも読んできた。勇気のある者、魔王を倒す者、様々な役割を負っていたけど、皆世界にとって重要な人物だった。……反転して悪事を行うパターンもあったけどそれはさておき。

 今世においての定義は知らない――そもそも初耳だけれども、神が存在する世界において、そして教会関係者が勇者について言及するからにはただごとではないのだろう。

 どれほど重要なことなのか、固唾を飲んで待っていると……聖女様は、何故か、私の方を見て。



「……アッシュフィールド様。あなたが、勇者様ではありませんか?」



 ……はい?


 勇者? 私が?

 …………………………。



「人違いです、他を当たってください」

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