48 元婚約者の執着
ロガンとリット殿下が連絡を取り合っているという情報は、オウガ侯爵代理から教えてもらった。
ワシやクロが監視をしてくれてはいるけれど、手を打つにしても、どうやってその情報を知ったのかと尋ねられたら答えられない。
ロガンを監視している人たちは、彼が誰かと連絡を取っていることはわかっても、相手が特定できなかったので、この情報はありがたかった。
「僕は少し休憩したあとに着替えて眠るから、先に寝てていいよ」
ソファにもたれかかり、イライアス様はそう言うと、大きなため息を吐いた。
夜ももう遅い時間で、そろそろ眠らなければ美容に良くないが、横になっても眠れそうにない。
寝間着姿で横になっていた私は、ベッドから下りて、イライアス様の隣に座った。
「お疲れのようなので心配です。よろしければ仕事をお手伝いさせていただけませんか」
「……ありがとう。疲れているのは、仕事のことじゃないんだ。だから、気持ちだけありがたく受け取っておくね」
「では、どうしてそんなに辛い顔をしておられるのですか?」
「そうか。顔に出てるのか。心配かけてごめんね」
いつも、私は助けてもらっているもの。こんな時に何もできないのは嫌だった。
苦笑するイライアス様に訴える。
「夫婦になったのですから、辛いことも嬉しいことも分かち合いたいんです! どうしても話したくないことなら無理には聞きませんが……」
「ウォフッ!」
「ベェェー!」
ルピとベェがイライアス様の顔の前で、私の言葉に同意するように鳴いた。
「ありがとう。気持ちだけでも十分嬉しいんだけど、お言葉に甘えて話をしてもいいかな」
「もちろんです!」
サイドテーブルの上に置かれていた水差しとカップを持ってきて、イライアス様の前に置いた。
話している途中で喉が渇いたら飲んでもらおうと、コップの中に水を注ぐ。コポコポと音を立てて、コップの中に水が満たされると、ルピたちが水を飲もうと飛んできた。
慌てて手で制止し、私用のコップに水を入れると、二匹は顔を突き合わせて、ぺろぺろと舌で飲み始めた。
この二匹用の水入れを持ち歩かなくちゃいけないわ。……どんなものだったら違和感なく持ち歩けるかしら。
二匹を眺めながら考えていると、イライアス様はコップの水を一口飲んでから話し始める。
「ロガン氏はリット兄さんと結託して、僕を陥れるつもりのようだ」
「イライアス様を陥れても、リット殿下やロガンにメリットはないはずです。それなのにどうしてそんなことをするのでしょうか」
「兄上はただの嫌がらせだろう。彼は僕のことが嫌いだからね。ロガン氏については……何とも言えないかな」
わからない。
と言わないことは、ある程度の予想はできているんでしょうね。
もしかしたら、私に気を遣ってくれているのかもしれない。
「ロガンの目的は私を取り戻すためでしょうか」
「ソラリアはそう思うのかい?」
「自分で言うのもなんですが、彼は私に執着しています。イライアス様がいなければ、自分の所に戻ってくるだろうと思い込んでいる気がするんです」
「そうだね。君が彼の気持ちを受け入れないのは、僕が指示しているからだと思い込んでいるみたいだ」
「自分が私にしたことを忘れてしまっているんでしょうか」
ソレイユとの浮気を悪いと思っているのなら、そんな気持ちには絶対にならないはず。
「都合のいいことしか思い出せないのかもしれないね」
「ロガンのことをオウガ侯爵夫妻が止めないのも不思議です。ロガンが私とよりを戻せば、自分たちも楽な暮らしができるとでも思っているのかしら」
「その可能性が高いだろう。彼らにとっては僕が悪者だ。リット兄さんはそれを楽しんでいる」
イライアス様は私に笑顔を見せて、話を続ける。
「リット兄さんの嫌がらせに負けるつもりもないし、ロガン氏に負けるつもりもないから心配しないで」
「信じています」
うなずいてから、疑問を口にする。
「リット殿下だって、ソレイユが王妃陛下を唆そうとして捕まったことは知っているはずです。それなのに手を貸すのですか?」
「いざとなれば切り捨てればいいと思っているんだろう。そうはさせないけどね」
いつも優しい目をしているイライアス様の目つきが鋭くなり、意思の強さが見えた気がした。 私ももう、ロガンのことで、これ以上誰かに迷惑をかけたくない。
「私にとっては、ロガンにイライアス様よりも優れているところはありませんし、彼とよりを戻すつもりはありません。事の発端は私です。ロガンが二度と私に執着できないようにしようと思います」
ロガンにはもううんざり。こんな状況に陥ってしまったのは、さっさと手を打たなかった自分にも非はある。
放っておけば何とかなると思っていた自分が腹立たしい。
今度こそ決着をつけるわ。




