46 元妹の末路 ①
「長くお話ししてしまいました。これ以上、王妃陛下にお時間をとっていただくわけにはいきませんので、お暇させていただきます」
「このお茶、とても美味しいのよ。飲んでいきなさい。冷めたものが嫌だと言うなら、メイドに淹れ直させるわ」
王妃陛下は辞去することを告げた私の言葉など聞こえていないかのように言った。
「いえ、これ以上、お時間をとらせるわけにはいきませんので」
「お茶くらい飲んでいきなさいと言っているの」
「お気持ちはとてもありがたいのですが、イライアス様を待たせているのです」
王妃陛下は頑なにお茶を飲もうとしない私に「相手が誰であっても警戒することはいいことだわ」と満足そうに微笑んで続ける。
「念のため確認しておくけれど、ソレイユへの処罰は私に任せてもらえるのかしら」
「もちろんでございます」
「彼女が辛い目に遭ってもいいのね?」
「辛い目に遭ってもいいと言ってしまえば、あまりにも冷たい人間でしょう。ですが、彼女が犯した罪に対する罰であるのならば、仕方のないことだと思います」
「わかったわ。教えてくれてありがとう。それから……」
少しだけ間を空けて、王妃陛下は口を開く。
「あなたは女性が男性よりも劣っていると思う?」
「いいえ。個人差があるのは当たり前です。一般的に男性のほうが女性よりも腕力があると言われていますが、非力な男性もいますし、私が学園に通っていた頃、学年のトップはいつも女子生徒でした」
躊躇いなく答えると、王妃陛下はなぜか安堵したような表情になった。
「そうね、そうよね。ありがとう」
その後は、王妃陛下が私を引き留めることもなかったため、何事もなくその場を後にすることができたのだった。
イライアス様と合流すると、ソレイユがまだ正門の前にいると教えてくれたので、裏門から出て帰路につくことになった。
イライアス様に馬車の中で王妃陛下との話をするつもりだったのに、眠ってしまって無理だった。
眠ってはいけないと思っていたのに、いつの間にか眠っていたらしい。目を覚ましたのは、イライアス様に抱きかかえられて馬車を降りた時だった。
馬車の揺れの心地好さと、ベェとルピの温かさとイライアス様と一緒だという安心感が重なって気が抜けたのだろう。
謝る私に、イライアス様は「気にしなくていいよ。本当にお疲れ様」と笑ってくれた。
公爵邸に帰り着いた頃には夜になっていて、夕食の時間もとっくに過ぎていた。あまりお腹は減っていなかったので、イライアス様と共に私の部屋で軽食を取りながら、父のことなど、王妃陛下とした話をイライアス様に伝えた。
「ソレイユ嬢以外の話もしたから、思ったよりも長くなったんだね」
「そうなんです。それから少し気になったのですが、王妃陛下が女性蔑視について認めることを、迷っているように見えたんです」
「……それは驚きだね」
隣に座るイライアス様が目を大きく見開いて首を傾げる。
「何か心境の変化でもあったのかな」
「良いことではあるのかと思うのですが、何をきっかけに、そう思うようになったのか気になりますよね」
野菜とハムのサンドイッチを一口食べて咀嚼していると、パンナが部屋にやって来た。彼女の手には白い封筒が握られており、王妃陛下から私宛の手紙だと教えてくれた。
封を切ってもらい、イライアス様と二人で確認すると、ソレイユの罰について書かれていた。
私たちが城を出て数時間後、ソレイユは王妃陛下を唆し、悪事の片棒を担がせようとした罪で捕まっていた。
王妃陛下が勝手に罰を決められるわけではないが、候補があるので書き出しておくとのことだった。
候補の一つ目は、無期限で強制労働をさせること。
二つ目は貧民街で女性なりのボランティアをすること。
貧民街というのは、その名の通りお金に困っている人たちが住む場所で、王都からはかなり離れた場所にある。病気で働けなくなったなど、理由がある場合は国から補助金が出て、貧民街に暮らすことなどない。
貧民街にいる人の多くは働くことが嫌になった人や、ギャンブルなどで手元にある財産を全て使って、お金がなくて困っているといった感じだ。
そのため、子供は一人もいない。
幼い時に親と引き離されるのは可哀想ではあるが、貧民街は治安が悪く、子供が生きていくことは難しい。国も環境を改善しようとしているが、相手側のリーダーが受け入れようとしない。
「貧民街でボランティアというのは、どんなことをするのでしょうか」
「望まれていることは色々とあるからね。だけど、強制労働させられるよりも辛いかもしれない」
眉尻を下げるイライアス様を見て、私たちが考えるボランティアとは、違う意味合いを持つのではないかと思った。
だから私は【もし、私に選ぶ権利があるのだとしたら、一つ目を選ぶでしょう】と返事をすることにした。
そして、数日後、ソレイユの処罰は私が希望した通り、無期限の強制労働に決まったと知らせがあったのだった。




