45 父が考えていたこと ②
王妃陛下がほしい答えはわかっている。
嘘をついて、魔法使いはこの世に必要ないものだと言うべきなんだろうか。
いや、まずは探りを入れてみましょうか。
「どう思うとは、どのような意味でしょうか」
「わかりにくい尋ね方だったかしら。じゃあ言い直すわ」
王妃陛下は冷ややかな表情のまま、私に問いかける。
「魔法使いはこの世に必要だと思う?」
この質問がくる覚悟はしていたが、いざとなるとやはり緊張する。
本当なら自分のこともあるし、素直に魔法使いは必要だと答えたいが、魔法使いであることを知られたら、魔法が使えなくなってしまう。私の時戻しの魔法は、これからも誰かのために役立てることができるはず。力を失うわけにはいかない。
魔法使いの立場ではなく、一般人の視線からの答えならばどうするか。まずは、質問に戸惑う様子を見せることにする。
「魔法使いが必要か。今まで考えたことがなかったので、急に問われますと、すぐに答えを出すのは難しいところです」
曖昧な答えを返したからか、王妃陛下は眉根を寄せた。
「どうしてすぐに答えられないの? 今の世の中は魔法がなくてもうまく回っているわ。異端な人物なんて必要ないでしょう」
「おっしゃる通り、世の中はうまく回っているかもしれませんが、魔法があれば便利なのではないかと思うのです」
「便利かもしれないけれど、敵に回った時は厄介だと思わない?」
「それはもちろんそう思いますが、善良な魔法使いもいるかもしれません。全てを否定するのはどうかと思ったのです」
私の答えが気に入らないようで、王妃陛下の眉間のシワはどんどん深くなっていく。
ああ。喧嘩を売るつもりはなかったのに、嘘をつかないことを優先したら、危うい立場になってしまった。まあ、予想はしていたことだけど。
「本気でそう思っているの?」
「ご期待の答えを返すことができず、申し訳ございません」
「信じられないわ」
大きなため息を吐き、わざとらしく首を横に振った王妃陛下は、私を睨みつけながら尋ねてくる。
「確認するけれど、魔法使いはこの世に必要な存在だと思うのね?」
やっぱり、必要ないと嘘をついたほうがいいのかしら。
イライアス様たちも仕方がないことだと考えて、王妃陛下に真実を話していないんだもの。
国王陛下は自分が国王でいる間は、魔法を使えたほうがいいと考えているそうだ。
存命中にラックス殿下に王位を渡したあと、王妃陛下に自分が魔法使いなのだと打ち明けるつもりらしい。
私はイライアス様が魔法使いだから、隠し事なく結婚できた。
国王陛下は、いつか打ち明けるつもりとはいえ、秘密を明かせずに結婚することは、心苦しかったでしょうね。
王妃陛下は、国王陛下に打ち明けられた時、どんな反応をするのだろう。ショックを受けるでしょうけど、私が相手なら、嘘をつかれてもどうとも思わないわよね。
……と、魔法使い側の気持ちしか考えていないのは良くないわ。というよりか、こんなことを呑気に考えている場合でもない。
「ねぇ、どうなの?」
王妃陛下から答えを急かされた私が、口を開こうとした時だった。
「ベェー」
頭上から、ベェの寂しそうな鳴き声が聞こえてきた。
私が魔法使いは必要ないと答えたら、自分の存在も否定されたような気になるのかもしれない。
そうよ。私にはベェが付いている。それに、嘘をつく必要もないわ。
「個人的な意見になりますが、魔法使いは存在してもいいと思います。善良な魔法使いであれば、恩恵を受ける人もいるでしょう。人を傷つけるような魔法使いなら必要ないと思います」
王妃陛下は私の答えを聞いて鼻で笑った。
「先代のレイハート公爵が、あなたを愛せなかった理由がわかったわ」
「……どういう意味でしょうか」
「彼は魔法使いの存在を嫌っていた。魔女狩りを決定した、昔の王子のようにね」
「昔の王子、ですか?」
魔女狩りの話が出てきたことや、昔の王子という言葉に引っかかって聞き返した。
すると、王妃陛下は流通している歴史書には載っていない話を始めた。
「魔法によって自分の地位が危うくなるかもしれないと考えた当時の王子が、魔法を使えない貴族と結託して、魔女狩りを決めたのよ」
「それは知りませんでしたわ。では、父も魔法使いに怯えていたということですか?」
「そうよ。魔法使いは人間ではなく、化け物だと言っていたわ」
魔法を使えない人にしてみれば、恐怖の存在であることは理解できる。
ただ、そこまで嫌う理由が私には理解できない。
そう思ってしまうのは、置かれた立場が違うからだろうか。
「リットも魔法使いに怯えている。ああ、可哀想なリット。私以外の家族には理解してもらえていないのよ」
家族でいえば3対2だから、偏りすぎているとは思えないが、そこは何も言わないでおく。
「どうして私にそんな話をされるのですか?」
「正直に言うけれど、味方が欲しかったのよ」
どうして私を?
そう聞きたかったが、詳しく聞いても意味がない。期待に応えられないことを詫びるため頭を下げる。
「申し訳ございませんが、お力になれそうにありません」
「そのようね」
王妃陛下はうなずくと、突然「一口も飲んでいないじゃない」と言って、私のために淹れられたティーカップを指差した。
緊張もあり、喉がカラカラだった。
けれど、どうしても飲む気になれず、今度こそ辞去すると王妃陛下に伝えた。




