44 父が考えていたこと ①
ソレイユのことが気になりはしたが、今は自分のことに集中することにした。イライアス様と別れ、メイドに案内されたのは、応接室ではなく、王妃陛下の自室だった。
壁には風景画が多く飾られており、私が興味を示すと、故郷の景色だと教えてくれた。
ワインレッド色のカーペットと同じ色をした二人掛けのソファに座るように促され、腰を下ろすと、メイドがお茶を淹れ始めた。
メイドが部屋を出ていくと、向かいに座った王妃陛下は、小さく息を吐いてから話し始める。
「ソレイユの件だけれど、連絡がきたのは確かよ。あなたのお父様から、ソレイユはよくできた子だと教えられていたので、どんな話をしてきたのか気になって手紙は読んだわ。もちろん、手を貸す気はなかった」
それは私に気づかれたからでしょう?
そう問いかけたかったが、今の私は、ソレイユが手紙を送ったことは知っていたが、そこに何が書かれていたのかは知らないことになっている。
「内容は知りませんが、ろくでもないことが書かれていたのでしょうね」
「そうよ。だから、ちゃんと手を打つようにするわ」
「手を打つ、ですか?」
「ええ。私に悪事の片棒を担がせようとしたのだもの。それ相応の覚悟をしているでしょう」
王妃陛下は冷たい笑みを浮かべて言った。
パーティーでお会いした時は、国王陛下の隣で控えめな印象だったのに、本性を隠していたってところかしら。いや、周りに男性がいたから大人しかったのだろうか。
とにかく、私の目的は果たしたので、もうここに長居する必要はない。イライアス様も待っているし、これで話を終わらせましょう。
そう考え、私は大きく深呼吸して口を開く。
「ソレイユとは家族の縁を切りましたが、妙な動きをしていることがわかった以上、知らないふりをしているわけにもいきませんでしたのでご連絡させていただいたのです。ですが、余計なお世話だったようですね。お時間を取らせてしまい申し訳ございませんでした」
立ち上がろうとすると、王妃陛下は「待ちなさい」と言って険しい目を私に向けた。
「まだ話は終わっていないわよ」
私からはもう何もないんですが、とはさすがに言えるわけがない。
「失礼いたしました」
謝罪して腰を下ろすと、王妃陛下は張り付いたような笑みを浮かべる。
「怖がらなくてもいいわ。あなたをどうこうしようなんて思っていないから。どちらかというと、今となってはあなたに感謝しているのよ」
「感謝……ですか?」
「ええ。ソレイユとリットを結婚させてもいいと思っていたから」
王妃陛下は失笑したあと、青い花が描かれたティーカップを手に取り、のどを潤した。
二人を結婚させようとしていたなんて驚きだわ。それは、感謝してもらってもいいかもしれない。ただ、どうして、そこまでソレイユを評価していたのかしら。
「王妃陛下にとってソレイユはどんな存在だったのでしょうか」
「そうね。さっきも言ったけれど、あなたのお父様がソレイユはよくできた娘で、私の息子たちにふさわしいとよく言っていたからよ」
「殿下たちと……ですか?」
「ええ。あなたに婚約者ができるまでは、リットかイライアスの妻にしてほしいとお願いされていたの」
お父様はレイハート公爵をリット殿下かイライアス様に継がせたかったのね。自分の可愛い娘と王子の血なら、良い跡継ぎができると思ったのでしょう。
もともとは私に婚約者を作らせないつもりだったのね。だけど、ロガンが現れてそうもいかなくなった。どうしても跡継ぎをソレイユの子供にしたかったお父様は、ロガンに私との子供を作らせないようにしたんだわ。
「父は私のことを憎んでいたのですね」
ぽつりと呟くように言うと、王妃陛下は苦笑する。
「慰めになるかはわからないけれど、憎んでいたとまではいかないと思うわ。愛そうと努力はしていたけれど、愛せなかったんじゃないかしら」
「愛せなかった?」
「ええ、そうよ」
王妃陛下の言葉をどう受け止めればいいのだろうか。父に憎まれていなかったことを素直に喜ぶべきなのか。それとも、愛してもらえていなかったことを嘆くべきなのか。
黙っている私を見て、王妃陛下はなぜか微笑む。
「話は変わるのだけど、あなたに聞きたいことがあるの」
「……なんでしょうか」
「あなたは魔法使いのことをどう思う?」
王妃陛下は射るような視線を私に向けて尋ねた。




