12 思いがけない王命
「浮気をしただけでなく、反省もしていな。そんな人間に公爵が務まるわけがない」
「ベェェー!」
「ウォフッ!」
イライアス殿下の話を聞いたベェとルピは、そうだそうだと言わんばかりに鳴いた。
「本人には正式に書状を渡すけれど、連れて帰ってもらわなければならないから、先にあなたたちに伝えておこう」
イライアス殿下は、侯爵夫妻を見つめて話を続ける。
「父上は国王の権限で、今回のレイハート公爵代理とオウガ侯爵令息の婚姻を無効にすると決めた」
「「そんなっ!」」
侯爵夫妻は目を見開き、同時に悲痛の声を上げた。
国王陛下も魔法を使える方だったとしたら、私とロガンたちの話をイライアス殿下から聞いたのでしょう。人を殺めるような人物を公爵にすべきではない。そう考えてくださったのかもしれないわね。
「異議申し立てがあるのなら、本人にさせればいい。……できるものならね」
イライアス殿下が浮かべた笑みは、氷のように冷たく見えた。
「国王陛下からの書状があるのでしょうか」
「もちろん」
「どのような内容なのでしょうか」
侯爵夫妻は陛下からの書状の内容を確認したがったが、イライアス殿下は断った。
「国王からの書状だよ? 王子だからって勝手に他の人間に見せられるもんじゃない。どうしても見たいのなら、本人から見せてもらうといい」
「……承知いたしました」
口に出した言葉とは違い、侯爵夫妻の表情は納得していないように見えた。
そんな二人の様子など気にせず、イライアス殿下は私に尋ねる。
「彼は今、どこにいるのかな」
「離れにいます。呼んでまいりますので、中でお待ちいただけますか?」
「いや。僕のほうから行くよ」
「承知いたしました。ご案内いたします」
パンナに先導してもらい、イライアス殿下を離れにあるロガンの部屋まで案内した。
私が付いていくと、公爵夫妻も無言で私の後ろを歩いていた。
ロガンを閉じ込めていた部屋に到着し、イライアス殿下がロガンに国王陛下からの手紙を渡す。
ロガンは急いで書状の内容を確認し、へなへなと床に崩れ落ちた。
「そんな……酷すぎる!」
酷いことをしておいてよく言うわ。
彼を見ているのも嫌になって、背を向けた時、ロガンが叫んだ。
「ソラリア! 嫌だ! 離婚したくない! お願いだから助けてほしい!」
王命だというのにも拘らず、ロガンは書状を床に投げ捨て、泣きながら私に訴えた。
もう、私に彼への情なんてないし、彼のために王命に逆らうつもりもない。
「助けろってどういうこと? 無理に決まっているじゃない。大体、あなたは王命を無視するつもりなの?」
「そういうわけじゃない! 君が許してくれるなら、国王陛下も婚姻を無効にするというありえないことをおっしゃらないと思うんだ!」
「あなたは公爵にふさわしくないとおっしゃっているの。私があなたを許すかどうかは関係ないわ」
冷たい口調で答えると、ロガンは顔を両手で覆い、大きなため息を吐いた。なぜか、彼が偉そうにしているように見えて、少しだけ苛立ちを覚える。暫しの沈黙のあと、ロガンは手を下ろして話し始めた。
「……わかった。公爵の座はあきらめる! だからせめて、離婚はしないでくれ!」
「いい加減にして! 私に言っても無駄だって言っているでしょう! それに私はあなたとの関係を続けるつもりはないわ!」
「わかった! なら、やり直そうよ!」
「はい?」
あまりの驚きに、聞き返す声が裏返ってしまった。
これ以上、話をしても無駄だわ。
そう判断した私は、呆れた顔をしてロガンを見つめているイライアス殿下に軽く頭を下げて、この場を立ち去ろうとした。
だが、ロガンはそんなことはおかまいなしに両手を広げ、私にしつこく訴える。
「ソラリア!君と離婚するなんて、僕には耐えられない! 僕が自暴自棄になって死んでもいいのか?」
「浮気をしたあなたを私がどう思うか、私のことが好きならわかるでしょう? それなのに浮気をしていたのよ。こうなることは覚悟していたはずだわ」
「何回も言っているけど、君の父上に頼まれたんだよ! そうしなければ、僕と君との結婚を許さないって言われたんだ! ソレイユと何度も密会はしていたし、体の関係もあった。だけど、浮気はしていない!」
彼の話を聞いた侯爵夫妻は頭を抱えるしかなかった。




