誤解の陰で
「ほら、やっぱりご主人様はやらかしてきたでしょ?」
「でもアイシャさん、今回はレンさんが悪かったわけでもなさそうですし……」
「マスターがやらかしたわけじゃないからこの勝負は無効」
「負け惜しみはやめてよね。僕たちの勝ちでしょ」
「いやーほら先輩が悪いって先入観があるじゃないですかー。知り合ってからの期間が一番短い私でもそう思っちゃいますよ」
こいつらは何を言っているのだろうか。人がやらかすかやらかさないかに何か賭けていたなんて失礼なことこの上ないと思うのだが。参加してなかったらしいルシエとイリスが俺を慰めてくれるのが癒しだ。
俺が帰ってこいつらに決闘についての話をするとこんな会話をし始めたのである。せめてのちに遺恨を残すようなものだけは賭けないでほしいと思っていたのだがどうも関係ないらしいが俺には内緒だとか。
「それよりお兄様、実は初めて国外を観光したのですが面白いものがいっぱいあったんです!」
「むールシエの買ってきたのも見てみてー」
イリスはエルフ族のお守りを、ルシエは金食い虫なんて名前の虫が入った籠を見せてきた。このお守りは世界樹の葉で出来ているので本当に不運回避の効果があるようである。それだけじゃちょっと怖いので借りた時に創造神的な力でお守りとしての能力をあげて返した。
ルシエの持っている虫はそのふざけた名前からは想像もつかないかっこいいフォルムなのだが名前の通り金を食べるらしい。かねではなくきんである、ぜいたくな虫けらである。
「それでご主人様は勝てるの?もう今更誤魔化さないけどうちのお父様強いわよ?」
「ハイエルフってのがどの程度凄いのかわからんからな。そもそもアレだ、お前はどうしたいとかあるのか?」
「どうせ私の意見なんて関係ないなんて言うんでしょ?奴隷だもの」
いい笑顔で言いやがって、普段奴隷っぽい態度なんて見たことないんだけどな。突然のカミングアウトにコレット以外は一瞬驚いたがそこまで過剰な反応でもなかったので慣れというのは大きいらしい。
「あー俺のステータスってちょっと常識外だからな、これでも既に規格外なつもりだ」
一応普段忙しいはずの王族がそこまで能力が高いとも思えないしな。気がかりはあの体の重さがあの城から出たらさっぱりなくなったことだ、ちょっと聞いてみるか。
「なあ、あの城ってエルフ以外の能力が落ちるとかそんな仕掛けないよな?」
「そんなものないはずだけど……。私は少なくとも聞いたことないわ」
なら気のせいか?だが何もないとは思えないのだが分からない以上仕方がないと俺は割り切ることに決めた。
なんだかもやもやとしたままその日は終わり当日。この城に入った時俺以外やはり誰も違和感を感じなかったらしく今回も重くなった体を何とか動かしながら案内された闘技場へと足を運ぶ。
もうバレてるならとアイシャも含めて全員がいるので最悪交代ルールを使ってでも勝つつもりでいる。全員局所では俺より強いメンバーなので確実に勝とうと思えばプライドなんて捨ててやる。
『なんだか妙に張り切ってますね。今回は事情があって私はアドバイスできません、ただ期待はしています』
相変わらず思わせぶりなことを言うやつだ。一応準備も整って前で体操しているエルフ王を見る。エルフらしい軽装に剣と弓がある以外目立った武器はない。つまり一回サクッと当てたら俺の勝ちだ。
もっともこっちもロクな鎧を付けていないので当たらないように気を付けないといけない。仲間からのバフなどは当然禁止されているためいつものように超強化も期待できないのが痛い。イリスの有難みを感じる一幕だ。
「可能な限りお互い相手を殺さないでくれると助かります。一応エリクサーも用意してはありますが勿体ないので」
悪いがそんな余裕はなさそうだ、なにせ向こうはあんなことを言っておきながら余裕綽々な態度をとっているのだから。
「では、これよりアイシャ姫を賭けた婿選定の儀を開始します」
「は?」
「はじめ!」
なんだかおかしな掛け声だった気がしたがそれどころではない、こうしてこの決闘は開始された。




