茶番
決闘が始まってから俺は常に防戦一方となっている。どうも俺より実際の能力が高い……というより俺のパフォーマンスだけやたらと下がっている感覚がある。他のメンバーと俺の違う点は種族が進化しているわけでもないのに特殊なことにあるだろう。
後は、既に俺以外の誰よりも俺のレベルが低いということくらいか。
「なあ」
「戦闘中に会話とは余裕だねえ」
「ここってレベルだけしか補正がなかったりするのか」
一瞬ディートの眉が動く、どうやらビンゴらしい。普段世界のルールとやらでレベル以外に種族の補正やセンスの補正がかかっているのだがどうも俺の種族は元が元なだけに異様な補正が掛かっているらしい。そのせいでレベルが上がるのも遅いのだが他のメンバーより素の能力はいまだに高い。
つまりここではレベルがそのまま実力になる、俺のあほみたいなステータスも今回ばかりは飾りってわけだ。道理で動きが鈍いわけである。他のメンバーも当然ステータス的には普段より落ちているはずなのだが俺のように露骨に変わるほどではないということなのだろう。
「やっぱり君はレベルが低いんだ、交代してもいいんじゃないかい?」
「一応俺の勝利を期待してくれてる奴がいるんでな」
重い体にも慣れてはきたが能力差が埋まるものでもない。ただスキルは無効になっているわけではないようで剣の腕自体はスキル補正で俺の方が上らしく何とかなっているがこのままでは体力が尽きるのはこちらだ。
ちらりと観客席を見るとなんだかんだであいつらも楽しんでくれているようだがどうせなら勝って俺の株をあげておきたいところだ。俺は自分に強化魔法を使ってスタミナ消費が激しくなる代わりに普段と変わらない程度まで自分の能力を引き上げる。こっからは俺のターンって奴って奴だ。
「しっ!」
「君強化魔法も使えるのかい?ちょっと盛りすぎじゃないかなぁ」
言葉だけ見ると余裕そうに見えるが実際にはディート王も焦っているのが声色で分かる。俺が思った以上に多芸で驚いているようだ。それも全部高レベルだから普通なら疑問に思うだろうな。実際には特殊スキルを持っている我が仲間たちの方が局所では俺を超えているせいであまり普段はそう感じないのも大きい。
ただ当然強化魔法使ってる間は普通に魔力を消費する。うちの妹は全く使わない規格外だがアレが例外なだけである。魔力が減ると眠気が来るので早期決着しかなくなったがどうも俺が強化魔法を使えば強化幅の大きさのおかげで能力も超えられるようである。
それにしても折角の進化という利点をこのレベルとスキル以外のステータスを無視するこの謎空間で潰している王様の考え方に違和感を覚える。進化しているということはレベル以外のアドバンテージの方が大きく、一般的な冒険者なぞ比にならないだろう。
『まあ実際Sランクの冒険者ですら進化してない人たちの方がずっと多いですから。レン様はちなみに進化もしないですね』
なんだろう、完成されてると聞くと聞こえはいいがなんだか寂しい。もし経験値リセットされてなかったらどんな日常を俺は送っていたのだろうか。
普通に考えるとこの決闘はかなり俺に優遇されていると考えることができる。だが娘を取り返したいならそんなことするだろうか、もっとも今回の場合それが完全に仇となって俺のパフォーマンスが悪かったのが皮肉である。
「強化魔法かけてるくせに情けないわよご主人様!お父様なんてサッサと倒しちゃって適当に街でも見て回りましょう」
気軽に言ってくれるな……。それにもう少し押せば金属音から察するに相手の剣をへし折って降参させられるはずだから待ってくれ。俺がそんな気持ちを込めて振り下ろした剣は見事に王の剣を砕き、彼に驚きの表情を浮かべさせた。
「あちゃー……降参。それにしてもこれオルハリコンで出来てるのにその剣ダメージ1つないってどうなってるんだい」
負けたのにやたら軽い調子で言うディート王。何か考えでもあるのだろうか、そういえばこの決闘が始まるときなにやら言っていたような気が。
「流石アイシャが選んだだけはあるね……。あの子ステータスはからっきしだったけど人を見る目だけはあったから」
「何の話だ?」
俺だけじゃなくどうも観客席にいる他のメンバーもどこか困惑している、というよりアイシャ自身もだ。
「あのお父様何の話?」
「ん?だってアイシャがうちを出たのって相手探しの儀だって聞いてるけど……。まさか奴隷になるのが愛の形だったなんてお父さん少し複雑だったよ」
なんだその相手探しの儀って、聞いたことがないのだが。混乱の中にいるアイシャを除いてエルフのことに詳しそうなコレットに視線を向ける。
「相手探しの儀はエルフ族の婚活。エルフは結婚相手の妥協を絶対にしないから年頃になると相手探しをする」
「そうなのですか?エンデシア王宮でもそのような話は聞いたことがないのですが」
「そりゃエンデシアとはまだ交流し始めたばかりだから。エルフのことに詳しくないのもしょうがないと思うな」
「もしかして僕のお店にエルフの女の人が毎日来るのって……まさかね」
……おっさんが奥さんにあんな話を娘たちにされるのはそういった理由があったのかもしれない。そしてこの変な誤解は報告した奴が適当な嘘を言ったとかそんなところだろう。実際にふらりといなくなるエルフが数多くいるせいで信憑性があるということだ。
そして娘を探し出してみれば冒険者の男の奴隷になっているときて実際に相手と会ってみようと考えになったらしい。
「アイシャのパートナーは気が多いみたいだけど僕としては早く孫の顔が見たかったりするんだ。頑張るんだよ」
この世界の王族は身分違いとかにうるさく無いのがデフォルトなのだろうと思わされる会話だった。なんだか気が抜ける結末である。俺はアイシャのリンゴ顔を見ながらふぅっと息を吐いた。




