つかの間の危険
ゴブリン狩り、それは人型モンスターの基本を真の意味で初心者が学ぶいい場所である。前回のスライム以外モンスターとの戦いを経験したことのないイリスもしっかりと練習してほしいものだ。
ただ能力成長がちょっと大きすぎる補正が掛かっているせいですぐ弱い者いじめにしか見えなくなるので注意が必要である。幸いここなら馬車でいけば1日かからない程度で依頼を完了できる距離なので助かった。
どうも普段とは違い、縄張りから大きく外れて人里にゴブリンが攻撃しに来たらしい。幸い死者や行方不明者は出ていないが既にけが人は多く出ているようだ。
「わかった。今はそのゴブリンたちは森の中にいるわけか」
「え、ええ。どうかお願いします」
今俺たちは厄介ごとに遭遇していた。この依頼をしてきた主さんと話をしているのだが実は面白いものが視界にうつっている。彼はドッペルゲンガーらしい、この依頼そのものが罠だったのかそれともこれが化けているだけなのかは知らないがこれ以上話に付き合う必要もあるまい。
この辺りにゴブリンがいること自体は本当なのだろうか。
『はい、先ほど彼の示した方向に確かにゴブリンの群れがいますね。ただ普通のゴブリンではないようですが』
ふーん、ジェネラルやキングでもいるのか?それなら正直レアアイテムゲットのチャンスくらいに思えるんだが、その場合は勇者2人には待機してもらうことになるのでどうかと思うところもある。
『それもありますが……前のワイバーンみたいなものだといえばわかりますか?』
あの時の森だけじゃなかったのか、あれ一回怪我したから苦手意識があるんだよな。
『完全にレン様の意識の問題でしたけどね。あれがきっかけでアイシャさんと深い仲になったのだから結果的にプラスだと思っておくべきですよ』
懐かしい話だ、なんて昔を思ってるだけじゃだめだな。とりあえずその強化ゴブリン軍団がこの奥にいるわけか。他に罠もなさそうだしこの場でこのドッペルさんは始末してしまおう。
剣に手を伸ばしてさっくりと目の前で油断しているドッペルゲンガーを真っ二つにしようと試みるが躱されてしまった。
「ちょっ、ご主人様今までで一番びっくりしたけどなんでいきなり切りつけたの!?」
アイシャが面白いくらい慌てている。そう言えば彼女には見えていないのだろうから当然と言えるな。他の皆も俺のことをドン引きした目で見てくるのはなぜだろうか。鑑定系のスキルは飾りではないのだからさっさと使って欲しい。
「もしかしてマスターには私たちに見えてないものが見えるの?」
コレットの疑問に俺は勇者スキルの鑑定でもこのドッペルゲンガーの正体が見抜けないことを理解する。彼女は俺のことを疑っていないようで何故攻撃したのか理由を考えていたようだ。
「まあな、俺のスキルを誤魔化せるスキルは多分ないだろうし間違いないと思うぞ。あの男ドッペルゲンガーの偽装らしい」
他の皆は俺の正体を知っているからかなるほどという顔を浮かべるが新入り達には理解しがたい事だろう。それにしても殺す気で攻撃したのだがああもあっさりと避けられると正直腹立たしい。
「どうなってやがる、この『幻惑のトリステラ』が見破られるとは。魔王様から与えられたスキルより上位の能力とはアイツ何者なんだ」
魔王の関係者……なんでこんな時に関わり合いになりたくない奴が表れたんだか。正直魔王からスキルを直々に与えられるような奴に勝てる気がしない。勝とうと思ったらワイバーンの時みたいに神魔法使うくらいしか思いつかないがそこまで隙が作れるとも思えない。
そんなことを考えていると向こうも警戒して少し逃げる姿勢になっている、このまま逃がしてしまうのがベストだろう。
「せいっ!」
「は?」
敵どころか味方も反応が遅れる速度でルリアがドッペルゲンガーの後ろに回り込み反応される前に首を切り裂いた。あまりの躊躇のなさだが斬ったところからからは血が噴き出すこともなく首がくるくると回り地面転がりアイテムをドロップした。どうやら魔王の部下だろうと魔物に関しては世界のルール通りらしい。
それにしても魔物特効があるとはいえあっさりと魔王の仲間を倒すとは思っている以上に身体能力が上がっているようで少し安心する。これで前のように絶体絶命のピンチなんて状況にはならないだろう。
「さ、流石に見た目人間だからちょっと怖かったけど索敵のスキルにも反応があったから思い切ってよかったよ。僕としてもこんなにあっさり倒せるとは思わなかったけど」
正直俺は倒せなかった相手をああもあっさりと倒されると個人的に少し悔しかったりするがあの笑顔を見ると俺もうれしくなってくる。いまだに何人か困惑しているみたいだがそこまで気にするような相手ではなかったということにしてしまおう。アイテムが落ちた時点で人殺しだと勘違いされることがないのがこの世界の親切設計だ。
「レンさん、それでゴブリンはいるのですか?」
「ああ、この先にいるみたいだ。たださっきのが魔物だったことから分かるとは思うが罠らしい」
「お兄様、らしいとは?」
そういえばうちのナビゲーターユニのことは彼女には伝えてなかったな。後で伝えておくことにしよう。
『どうも皆さま。私はレン様のナビゲーターでユニと申します。これからよろしくお願いしますね』
だからそんなこと言っても聞こえるわけがないんだから。俺が呆れた表情を浮かべたが周りは驚いている、まさか聞こえるのか?
『使えば使うほど成長するんですよ、一応。ちょっと便利になったりレン様が望むことが少しできるようになったり程度の学習機能なのですが』
へー、創造神なんて大層な存在だったくせに未完成だったのかよ。他のスキルも何か変わっていたりしないのだろうか。
『いえ、この私ユニだけですね。そもそもこの人格だってレン様の願望によって生まれてたりするんですよ……。つまりレン様の理想が私というわけでして』
なんで全員の聞こえる回線でそんなこと言うかな。この言い方だと俺が妄想の相手を頭に飼っているようにも聞こえてしまう。現にさっき一瞬危険な状況になったとは思えないほどいつも通りな空気が発生していた。
そんな中でも相変わらず反応を変えず手持無沙汰な腕で俺にしがみつくイリスは天使だと思う今日この頃であった。




