兄妹喧嘩
翌日、昼の間はルシエは家に帰っているとのことなので依頼に行ってくることになった。幸い依頼に関しては提出を遅らせたらいいだけなので転移魔法を使えば距離なんて無視である。最悪魔導車を借りたと言えばいいのだ。
ギルドに向かうと中で勇者の一人とサツキが何やら口論になっていた。そういや勇者たちには一切許可取らずにその場で決めちゃったもんな。でも文句があるなら正直その場で言って欲しかった。
「だから皐はあの男に騙されてるんだ」
「確かに先輩はただの女好きに見えますけど兄さんには関係ないじゃないですか」
うん?苗字が同じ勇者がいるなと思っていたが実の兄かよ。それならなんで浮いてたんだろうか。そんな疑問を思っている俺にティアが語り掛ける。
「異性の兄妹なんてそんなものだと聞いています。ただ……私の兄は例外みたいなのですが」
そういえばティアとイリスは兄がいるからこそこれだけ婚姻に関して自由が効くのだそうな。一度も話に聞いたことはなかったがどうも兄妹仲は文脈からして悪くはないようだ、何故か言いづらそうというか恥ずかしそうな雰囲気があるのは気のせいだろう。なにやら嫌な予感が俺の体を駆け回るがそんなことは言ってられない。
それに目の前の兄妹喧嘩みたいなもん見てると別に兄の方も妹の方もあんまり仲が悪いようには見えないのだが。
「大体兄さんは前から勝手なんです。私が先輩とどんな関係になろうといいじゃないですかー!」
「な!?」
まあ細かい事情なんて知らないがこれ以上この寸劇見ていてもしょうがないな。ちょっと面白くなってきたがさっさと向かいたいところなのである。
「あーそろそろいいか?」
「せ、先輩……いつからそこに……」
「ご主人様なら『だから皐はあの男に騙されてるんだ』ってとこからずっと楽しそうに見てたわ」
おい、誤魔化す時間くらいくれよ。男の方こと勇者ユウトの俺に対する目がゴミを見るそれと変わらなくなっている。そりゃあそこで助けてあげる奴の方が男らしいよね。
「な?こんな悪趣味な野郎はやめとけって。こういうやつはちょっとかっこいいから調子に乗ってるだけなんだから」
客観的に見るといつぞやのルリアを思い出すな。まだちょっと俺に対して甘くなる前は似たような扱いだった気がする。俺の思っていることと同じことを思っていたのか彼女の方に視線を向けると完全に目が合って気まずそうに逸らされた。あれはお姉ちゃんとしては正しい行動だから気にしないでほしい。
俺の腕に今日はじゃんけんで勝ったと張り付いているイリスは俺のことを悪く言われたせいか頬を膨らませて私怒ってるんですって顔をしている。正直可愛いだけなので意味がないと思う威嚇だ。そういえば彼女は実の兄がいるのに俺のことをお兄様と呼ぶのか、混ざらないのだろうか。
「兄さんよりはいい男だと思いますよ先輩は。女の子の扱いも上手みたいですし少なくともこの前振られた兄さんよりは甲斐性があると思います」
「おい!今それ関係ねーだろ!大体あれは振られたんじゃなくて振ったんだ!」
結局また2人で喧嘩を始めているがなんだか2人とも楽しそうなのでこのままでいい気もしてきた。俺の考えを読むことに定評のあるコレットが近づいてきて俺の埋まっていない方の腕を引っ張る。
「これきっといつまでも終わらない。いっそこの男も連れて行くといい」
「それなら行先の難易度は下げておこう。というかこいつがサツキの実兄なら死なれるわけにもいかないしパワーレベリングしとくべきか」
アイシャのスキルはパーティーにさえ組み込まれていれば効果を発揮する。ただ一定以上距離が離れているとパーティー扱いされなかったりするのでその場にいないものを強引に上げることはできない。それができたらルシエを今のうちにあげられるだけあげておきたいくらいだ。近いうちにちょっとだけスライムあたりでレベル上げをする予定ではあるが今日ではない。
「分かった。今日はユウトも一緒にきてくれ。時間がもったいないからな」
異世界の勇者なら多少転移魔法を見せたところでそういう魔法もあると勘違いしてくれるっぽいことがサツキで分かっている。恐らくそんな細かい常識についてまで教えていないのだろう。
「ちっうちの妹に変な事したら承知しねーからな」
「先輩、うちの兄がすいません……」
というわけで保護者付きクエストの開幕といこうじゃないか。今回はまだ慣れていないであろう2人が一緒なのでゴブリンに行くことにした、どうにも馬鹿にされていると勘違いしたようで余計にユウトに嫌われたが死なれるよりはマシである。スライムさんはこの前狩りすぎて自重令が出されていたりする。少しうちの義妹が恥ずかしそうだった。
イリスの無限に出来る回復魔法補助魔法、ティアの破壊力抜群な魔法攻撃、アイシャの誤射のない完璧な援護狙撃、異常な瞬間火力を出せるルリア、コレットの作った高性能武器に俺という例外中の例外。完璧な布陣と言っていいだろう、俺が意気揚々とゴブリンの依頼を貰うと程ほどにしてくださいねと言われてしまった。




