勇者遠征
あれから数日勇者のやってくる予定日になった。彼らは国の持つ大型魔導車によってくるため恐らく彼女達は昨日まで王都にいたのだろう。
「いつの間にかご主人様が作っていた現地妻がいたら教えてね」
いや、あの子はそういうのじゃないんだけど。俺本当に信用ないな、イリスだって妹なんだしそろそろ信用してくれてもいいと思う。そんな俺たちだが家から出て街の入り口で他の一般人たちと一緒に野次馬となっている。
一応関係者が2名ほどいるのだがどうも王女としての交流は後回しらしく一般人として接するのだとか。
「正直お兄様がサツキさんと知り合いだとは思いませんでした。サツキさんはちょっと勇者様たちの中でも少し浮いていたのでお兄様との出会いがいいきっかけになっているといいのですが」
そもそもイリスは当初の予定だと俺の性格を見てミナが騙されていないかを調べて、もしいい人間であると判断できたならサツキとコミュニケーションを取るように頼むつもりだったらしい。もしかしたらあの位置に転移したのは俺にとっては結果的によかったことなのかもしれないな。
本人も言っていたが自分がここまで懐くことになるとは思わなかったらしい、俺の何がそんなに気に入ってくれたのかはお兄様でも秘密です!とのことだが美少女に懐かれるのはいいことだ。
「それよりレンさん来ましたよ!」
どうやらミナは一度も勇者たちを見たことがないらしい。そんなにテンション上げなくても見た目に関しては完全にただの人間だぞ。そんなことを思っていたのだがやけに強そうな装備に身を包んだ少年少女が10人やってきた。
「マスター、勇者ってそうでもない?」
「こっちが余計にずるいだけだ」
そりゃレベルで見たらこっちの方がずっとドーピングしてるからなぁ。結局番外の特殊スキルの方が勇者なんて救世を任された連中より強いのはよくわからない。
最初特殊スキルについて聞いた時は誰もがそんなもの聞いたこともないと驚いたが、その後に俺の正体を思い出して納得する。ついでに俺のスキルはステータス以外の詳細なデータも見られるという話をしたのだがアイシャがその日から食事量を気にし始めたのはちょっと面白かった。そういうプライバシー情報は見ないことにしているから安心してほしいが口に出す必要もないので何も言わないでおく。
勇者は男7女3と偏っていてこれは色々といざこざが起きそうな予感がするなーなんて他人事ながら思う。個人的にはこういう状況に陥った場合は身内に手を出すのはやめた方がいいような気がするが少なくとも1組は勇者同士で付き合っているみたいなことを王都の店主が言ってたな。よく見ると勇者も黒一色ではなく茶髪もいるので勇者=黒髪黒目と考えるのは違うのかもしれない。
「へー、勇者って結構整ってる外見の人多いね。僕もっとムキムキボディーな人ばかりだと思ってたよ」
「ルシエもルシエもー!パパより凄い人ばっかりだと思ってたの」
何故か俺は彼ら彼女らが勇者と聞いても特に違和感はなかった。それは消えた記憶からかもしれないし先に出会っていたサツキによるものかもしれない。というか魔王を倒す英雄と聞いたら勝手に美化するものだと思っていたのだがそうでもないらしい。
彼らは少し幼さもあるものの皆容姿も整っている、勇者の選別条件に実は容姿も入っているのかもしれないな。
『そんなものはないので安心して下さい。男には』
おい、最後のは何だ最後のは。最近昔の俺の情報がちらっと聞こえるたびに尊敬できない創造神像になるのをどうにかしてほしい。これはきっとユニなりのブラックジョークに違いない、今もクスクスと聞こえるのできっとそうだ。
「あ、お兄様サツキさんです!なんだか前より雰囲気が明るくなってます!」
「本当だな、俺と初めて会ったときより前を見られてる目をしてるな。ところでこの後王族として会う時は俺たちはどうするんだ?」
そうなると俺たちの関係についても話さなければならなくなる可能性が高い。それとも冒険者の護衛として紹介されるのだろうか。
「それについては安心してください。レンさん達との関係については王族の間で隠すことのない情報ということになっています」
ミナがうれしそうに語る。もしかして情報解禁がこの勇者遠征に合わせてということになっていたのだろうか。自分の指にある指輪に手を置きながら彼女は続ける。もしかして勇者が来た時にやたらテンションが高かったのはそれが理由なのだろうか。
「えっと、それでですね……。もう隠す必要もなくなったわけで、私としてはその……名前で呼んで欲しいと言いますか。愛称で呼んで欲しいといいますか」
そういえばミナってのはミドルネームなんだよな。彼女の名前はティレシアだから愛称で呼ぶとしたら……。
「あーそれじゃこれからはティアでいいか?」
「はい!」
嬉しそうな反応に少し照れて目線を逸らす。
「こんな公衆の面前でそんなにイチャイチャしちゃうの!?……ちょっとだけ羨ましいなんて思った僕もどうなんだろ」
最後のはよくわからなかったが前半は前からなにも俺、というか俺たちが何も学んでなかったのを思い知る結果となるわけで。勇者たちがまだギルドに向かっている途中なのに半分くらいが関心をこちらに移して冷やかしてくる。目で助けを求めてもだれも助けてくれなかった。
「おい、レンの奴調子に乗ってるぞ」
「奴は普段から羨ましいと思ってたんだ、綺麗どころ沢山囲いやがって」
「お前みたいな奴が独占するから俺たちにまで回ってこないんだ、たまには八つ当たりさせろ」
数名の男冒険者と俺は俺が用意した木刀でくだらない決闘を開始したあたりで前のようにティアが囲まれて質問攻めにあっている。女性たちはティアからその辺りを聞き出し、理解してもなお今まで通り根掘り葉掘りと聞いていた。コネでいい相手を紹介してだの給料を上げてだのこの街の女性たちは王女と分かっても気軽に接していて一安心である。
こうして勇者が来るという一大イベント以上に何故か俺たちが目立ってしまうという事故が起きてしまったのである。




