邂逅と種
よく考えると別に勇者だからといって相手を特別扱いする必要もないだろう。先ほど会った美少女さんが言うには別に無理して秘密にしているわけでもなさそうだし普通に接することにする。
ただ異世界から来たばかりであまり道案内役としては役に立たない可能性もあるが。先ほどから何故か彼女は警戒心をむき出しにしてこちらを見てくる。俺はただ道を聞いただけなのに不思議な話だ。
「あれ、もしかして通じてない?この近くにアイテム屋ってないか?」
「あ、えっとそのすみません。私もアイテム屋探してて……」
ああ、やっぱり知らないのか。彼女は俺に申し訳なさそうに告げる。さっきまでやたら警戒してたのはなんだったのかというくらい申し訳なさそうだった。異世界からわざわざ『俺』の企みのせいで召喚されて戦わされるなんて正直申し訳ないのでさっさと他の人に聞いて彼女にも教えてあげよう。
「迷子仲間か、それならとりあえず他の人に聞くとするか……わかったら教える」
とりあえずどことなくボーっとしている彼女をおいて俺は別の人に話しかける。今度はガタイのいい男でこちらは知っていたのかあっさりと教えてくれた。ここから10分のところにあるらしい。
そういえばこういう何気ない普通の街で勇者が神に出会うって中々熱い展開ではないだろうか。隠居中で記憶もないなんちゃって元神様だけど重要イベントには違いないだろう。ここは何かアイテムとかあげた方がいいのかもしれん。
『レン様、適当なことをするくらいなら加護を差し上げたらどうでしょうか。そのくらいなら今のレン様でもできますよ、現に寵愛は付与されていましたからね』
そんなもんどうやったら出来るのだろうか。というよりそんなに闇雲に付与できるものなのか?
『効果自体は寵愛と変わりませんが寵愛は複数に付与できますが加護は人数制限がありまして5人までとなります』
おい、最初からそれ教えておいてくれればパーティーメンバー全員に付与したんだが?俺の怒りに彼女は少し笑って答える。
『いえ、出来るようになったのは初めて寵愛が付いた日からですよ。ちなみに加護持ちが寵愛持ちに変化した場合は加護は消えます』
とりあえず帰ったらコレット、ミナ、ルシエ、ルリアに付与しておこう。これでちょうどいいだろう。
『いえ、コレットとミナは既に寵愛になっています。レン様少しちょろすぎませんか』
自分のスキルにまでチョロイなんて言われるのは少し悲しい。というか寵愛の条件ってもしかして互いの心の問題なのか?流石に俺個人の感情だけでついたりはしないだろうし。
とりあえず俺は自分で言った約束を果たすために彼女の元へと戻る。忘れないうちにと俺は彼女に【創造神の加護】を与える。これで勇者として危機に立たされても彼女は何とかやっていけるだろう。
彼女は可愛いので俺は贔屓するのである。やっぱり俺ちょろいぞ。
「アイテム屋はこの道まっすぐ行ったところにあるらしいけど一緒に行くか?」
流石に嫌がられたら申し訳ないので聞いておくことにする。初対面なので嫌だと思う人も当然いるだろうしそうなれば少し時間をおいてから俺は行くとしよう。
「えっとお願いしてもいいですか?」
「おう、俺はレン。短い間だがよろしくな」
俺の方に名前が筒抜けでも自己紹介くらいしておいた方がいいだろう。王都では流石に俺の名前はまだ有名じゃないだろうしな、はじまりの街の方なら最近は嫉妬を集めている有名人なのだが。
「えっとしの……サツキといいます。よろしくお願いしますね」
どうやら苗字に関しては隠したいらしい。まあ貴族だと勘違いされるからそれが妥当だろう。こうして2人で店へと向かう間に話すとどうやら彼女は勇者であることを隠したいみたいだということがわかった。なにせ冒険者をしているといったのだから、ただ黒髪は目立つのを忘れてはいないだろうか。
俺自身が黒髪だから親近感でもあるのか割とすぐ打ち解けてくれた。冒険者の先輩だから先輩と呼ぶらしいが俺も君たちとこちらに来た時期はほとんど変わらないのだが……。
「へー、ということは先輩は余ったアイテムを売りにわざわざ遠くからやってきたわけですか」
「そうそう、サツキは初めての実践だからその前に準備としてアイテム購入とはマメだな」
割と打ち解けたところで店にたどり着いたので中に入り中を見る。中にいたおばちゃん店員はなんだかいやそうな顔を向けてきた。
「冷やかしなら帰りな!」
なんだこいつ、偉そうだな。なんて一瞬思ったがどっちも今冒険者っぽい服装もしてないので勘違いされたかもしれない。
「俺たちは冒険者だ。必要なアイテムの売買に来ただけだぞ」
「なんだい、最近あんたらみたいな黒髪のカップルがきていちゃついていきやがったからつい過剰反応しちゃったよ。すまないね」
どう考えても勇者だろう。はた迷惑な奴らだ、俺たちもさっさと要件を済ませてしまうとしよう。俺が先に要件を済ませようといらないアイテムたちを次々におばちゃんの前に並べていくとこちらをじっとみてから訪ねてきた。
「これ、どこで手に入れたんだい?」
「たまたま倒したやつから落ちたんだ、場所や相手は秘密だ」
勇者なサツキも当然アイテムの効果などが見えているわけで少し尊敬した目で俺の方を見てくる。こういう感覚久々でなんというかむずかゆい。最近何しても俺だからで済まされるのは納得いかないと少し思っていたのだ。
「うちくらいじゃないと買い取れなかっただろうね。全部で白金貨17枚でいいかい」
「おー、いい小遣いになったな。サンキューおばちゃん」
これで俺の要件は終了だ。後はサツキのアイテム選びだな。今までの俺の冒険なんてたかがしれているのだがその経験でほしいと思ったものを次々と指定していくと予算を超えてしまったようで唸っているのでおごってやることにした。
「なんだい、やっぱりいちゃいちゃしてるじゃないかい。別に買ってくれたから文句なんてないんだけど程ほどにしてくれないかい?」
イチャイチャなんてしてない上に文句を言っているのだが……。とりあえずサツキは俺に感謝していたのでいいとしよう。
「なんで奢ってくれたんですか?私と先輩って今日初対面のはずですよね?」
店を出てから俺は彼女に言われる。確かに少し不自然だったかもしれない。感覚で言えばサツキには失礼だがルシエのようなもので何となく甘やかしてやりたいと思ってしまうのである。
後は彼女にはとても言えないが少しだけ責任を感じているのも原因といったところだ。
「年下の面倒みるのが得意なんだよ」
ルシエも年下なので間違っていない、年齢が1桁なだけだ。そういうとこちらに笑顔でお礼を言ってきた。
「ありがとうございました。また機会があれば会いましょう先輩」
こうして俺の勇者との初遭遇は終わった。だがこれより凶悪なイベントがあることを俺はすっかりと忘れてしまっていたのであった。




