1人ぶらり旅
というわけで翌日、俺は単独行動することを伝える。正直俺自身特に一人でやりたいこともないのだがあの脅しは想像以上に俺に効いているようだ。
そもそも街にいたらそこそこ広いとはいえ遭遇する可能性が高くなるのでもう安全となった頃にユニが教えてくれるらしい。カンニングしているようなもんだがもし知らなくて大失敗をするよりは個人的にいいとも思っている。人生にやり直しはないのだから。
「ご主人様が単独行動なんて私と会って初めてじゃないかしら……気を付けてね」
「私たちはマスターの言う通りに歓迎用の品を買い揃えておく」
「私としても折角妹を歓迎するのならしっかりしたいと思っていたので買い出しに関しては賛成です。神様スキルはそんなことも分かるんですね」
どうやら皆何か訳ありなのは理解したようだが細かいことまで聞かないでくれるらしい。ちなみに俺は今日初めて王都に行ってみようと考えている。普通に考えたら間に合わないが俺は視界内の範囲を転移できるので他に魔力を使わないなら問題ないだろう。
「もし夕方までに帰れそうになかったらこのボタンを押して欲しい」
コレットが自分の収納からごそごそと何かを取り出す。形だけ見ると卵型で変なボタンが付いているよくわからないものだ。いったい何に使うものなのだろうかと俺が疑問に思っていると説明をしてくれる。
「これを押すと私がポケットに入れているこの道具に記録が残る。そうしたら帰りが遅くても変な心配をしないでいい」
そこまで心配されなくてもただ観光に行ってくるだけなのだが。あえて彼女達に伝えていないのは余計な詮索をされたくないからである。俺はその道具を自身の魔法で仕舞いこんでから彼女達より先に家を出た。
そういえば今日はもう遅くまで街に戻らないし今のうちにルシエに会っておこうかと思ったが王都に行ってそちらで買った方が喜ぶかと考え直す。別に毎日会っているわけじゃないしな、3日に2回くらいだ。
俺は街を出て誰も周りにいないことを確認してから長距離転移を行う。行先はもっとも今まで行った中で王都に近い鉱山都市への道だ。
「!?」
転移先は何かの馬車で目の前には人がいる。ボーっとしている彼女はどこか見たことのある顔を幼くしたような感じで拙いと俺の頭が警鐘を鳴らしていた。選択を間違えれば俺の首が物理的に飛ばされかねない。
俺は自分の目から入ってくる情報を見ないようにして現実から目をそらしつつ弁解をしておくことにする。何故今すぐ逃げないか、答えは簡単明後日にはまた会うからだ。
「あの……どちら様でしょうか。もしかすると暗殺者の方でしょうか」
仮に暗殺者にそんなことを聞いて素直に名乗って貰えるなんて彼女は思っているのだろうか。ただどのみちこのまま黙っていても状況がよくなるとは思えないので一応答えておく。
彼女はこの一言目を見るに世間知らずというか天然っぽいので突然現れることもさぞ当然のように言えば問題ないかもしれない。
「通りすがりの冒険者だ。間違えてこの馬車に乗ってしまってな」
「あら冒険者さんなのですか。私は一度見てみたいと思っていたのです」
こういう箱入り娘さんは確かにそういった存在には興味津々だろうな。ただそういうわけにもいかないのでさりげなく断ろうとすると交換条件を出してきた。
「それなら私は最近こちらにやってきました勇者様たちについての情報を提供しましょう。ギブ&テイク、やってみたかったのです!」
そういえばミナの時もだったが護衛は少ないのだな。彼女以外はどうやら後ろの車両に乗っているらしい。護衛として成立するのかそれと少しどうでもいいことを思ったが転移ができるのは俺くらいだったのを思い出した。
異世界から来た勇者というのは全部で10人いるらしく皆黒目と性別ごとに同じ服を着ていたらしい。今は戦闘用に王家が用意した防具を付けているが普段はその服でうろうろするらしくとても目立つそうだ。つまりあまり勇者という存在は王都では隠されていないということだろう。
彼らは平和な世界に住んでいたらしく召喚当時はろくに武器も使えなかったらしいが持ち前の成長速度で今はDランククラスの実力があるらしい。俺たちの10倍よりは遅いがそれでも異常な速さと言っていいだろう。普通はそこまで行くのに1年近くかかるものだ。
成長率が増えてレベルが上がりやすくなると倒す敵も強くなりより経験値が貰える。文字通りの倍速で進むわけではないのだ。ちなみに勇者スキルでの経験値増加率は2倍である。
なかなか彼女との会話は楽しく、明後日の訪問が少し楽しみになってきた俺であった。別れ際に彼女が「ではまた後日お会いしましょう」と口を動かしていたのが見えたが……まさかな。
彼女に別れを告げてから帰り分の魔力を除いたギリギリまで使ったところで俺はなんとか王都にたどり着く。前までと違いこっちには新しい剣もあるので魔力がなくても十分に戦えるのである。
実は王都を選んだのに1つ目的がある。ちょっと小遣い稼ぎをしようと考えていたのだ。最近何かと金を使う機会も多いので保険をかけとくに越したことはない。かなり余っているエリクサーを売るのかと言われるとそれは違う。今大量に売ってしまうと価格崩壊してしまいおっさんに私多分が金にならなくなるのだ。
というわけで今回は他の素材でコレットに使わないと言われたものを売ることを第一目標としよう。
門番に冒険者カードで身分証明を行って中に入る。流石に王都だけあってうちの街よりかなり広い。あそこも広いのだが桁が違うと言っていいだろう。当然俺はここに来たことがないので既に迷子になりかけている、内心ユニが助けてくれないかなと期待していたのだが彼女はうんともすんとも言わない。自力でなるべく行動すると言ったのは俺自身なのでしょうがないと言えばしょうがないのだが。
アイテム屋が見つからないどころか完全に迷ってしまったので近くにいた人に聞いてみる事にした。
「すまん、この近くにアイテム屋ってないか?」
「え?」
突然見知らぬ男こと俺に話しかけられて困惑しているようでなんだかテンパっている。彼女の服装は一度も見たことのない新鮮なものだった。黒い肩口くらいの髪と目という俺と同じく珍しい容姿をしている。流石にコレットほどではないがミナより少し幼く見えるが年は俺より1つ下で名前は四宮皐というらしい。変わった名前だな、どこ出身だよ。そんなことを思っていたのだがスキルが目に入って理解する。またユニの奴に嵌められたと。
すると今まで我慢をしていたのが限界に達したのか頭の中に腹立たしい笑い声が聞こえてくる。
『どうですかレン様、私の巧みな話術に嵌められた感想は。いやー真剣な振りをするの結構大変でしたよ。勇者に会うだけなんて言っても絶対行かないでしょうし我ながら完璧な作戦でしたね。もうレン様ったらちょろいんですからー』
こいつそのうち体が実体化するなんてイベントが起きないだろうか、一度思い切りお仕置きをしてやりたい。
こうして初めて俺は勇者と遭遇した。




