ちょっとしたデート
自分用のメモとして近いうちに登場人物紹介でも書きます。
10時にミナを迎えに行くことにしたわけだがよりにもよって本日は雨である。
「雨だと移動が面倒なんだよなぁ」
「……まさかご主人様すっぽかしたりなんて
するわけないだろ。なんで憎からず思ってる相手との約束をすっぽかさなきゃならんのだ。俺の呆れた表情で気まずくなったのか咳をして誤魔化してからアイシャが続ける。
「ご主人様なら天候操作とかできるんじゃないの?」
「今の能力じゃ無理だろうな」
神魔法の中にはありそうだが今の魔力だとそこまで干渉できるとは思えない。というわけで俺とミナが濡れない方法を考えるとしよう。流石にデートでずぶ濡れにはなりたくないし出来れば魔法なんて使いたくない。
「というわけでなんかいい方法はないか?」
「傘買ってきたらいいと思うけど」
普通なら正論なのだが今の時間はまだ店が開いてないのである。というかなんか投げやりですねアイシャさん。少しは嫉妬してたりしてくれると内心うれしかったりする。自分からロマンチックな理由でキスしてくれたくらいだし好感度も俺が思っているより高そうだ。
最初の頃は俺への接し方がわかってなかったのか暴走気味だったアイシャだがこっちの方が素なのだろうなー、あの熱い突っ込みも懐かしい。
「マスターあげる」
そんなことを言い出したのは先ほどから黙々と作業をしていたコレットである。彼女の希望により【工作】【鍛冶】といった戦闘系とは関係のないスキルばかり習得している彼女はその分野においてもうかなりの技術を誇る。次は器用をあげて欲しいと言っていたな。
彼女が手渡してきたのは今話題になった傘だ、俺との付き合いは短いのに完全に俺の思考回路が読まれたことに恐ろしさすら感じる。
「違う。マスターがわかりやすいだけ」
そんなにか、もう少し感情を抑えるべきだろうか。
「今のままのマスターでいい」
うれしいことを言ってくれる奴だ。まあここに俺より分かりやすいであろうアイシャもいるわけだしな。彼女は目を吊り上げていて見ている分にはとても面白い。
「まあ、もしご主人様がミナに振られたら慰めてあげるわね」
「ああ、頼む。お前らも留守番よろしくな」
自由にしていいといったのだが彼女たちは留守番しているというので後のことは任せる。ああ見えて家事に関することが天才的なアイシャが掃除をしてくれるらしいので帰ったら部屋もピカピカだろう。それを楽しみにしながら気持ちを切り替えて部屋を出た。
そのままロビーに下りると見たことのない偉そうな男と宿の親父が話をしていた。ここから離れているので他の客には聞こえないようだが俺には筒抜けである。魔法による盗聴防止対策をしたほうがいいと思うのだが。時間にも余裕があるし少し気になったので聞き耳を立てる。
「近いうちに王女様がこの辺りに来られる」
「なんと、どういった理由なのでしょうか」
「勇者たちのお披露目の付き添いだろう。お前も隠居したとはいえ元貴族、気をつけろ」
ここでいう王女様とはティレシア・ミナ・エンデシアのことなのだろうか?だとすればここに既にミナがいることは貴族たちすらも知らないということになるのか。
親父さんが元貴族という衝撃の事実を知ったが別に中身が変わるわけでもない。家名があったので違和感はあったがそういうことだったのなら納得だ。これ以上聞き耳してもしょうがないので宿からも出て傘をさす。
うちのコレット特製傘は大きい、恐らく2人入れても余裕があるようにというコレットなりの気遣いなのだろうがこの大きさだとなかなか邪魔である。それにこれの素材は驚くことにイビルワイバーンの皮だ、正直贅沢な気がしている。
俺が彼女の住むギルドの女性寮までついたわけだがどうやって彼女を呼べばいいのだろうか。待ち合わせまであと10分とちょうどいい時間に来たと自分を褒めたいものだ。
「レンさん、お待たせしました」
彼女の服はいつもギルドの制服ばかり見てきたせいか新鮮である。清楚な印象を抱かせるワンピースは普段からの彼女とよくマッチしていて大変可愛らしい。そういえば変装時は今より少し胸が大きかったな、俺としては今くらいのサイズでもいいと思うぞ、口には出さないが。
「ちょうど30秒前に来たから気にしないでいい」
彼女は冗談だと思ったのか知らんが好感触だ。今思うと彼女とはちょくちょく食事に行ったりするが毎回マナーなどが完璧だった、というよりメンバーのせいで俺だけ守れていなかった。冷静になると恥ずかしいことだが知らないものはしょうがない。
俺がジェスチャーで彼女を傘の中に入るように誘導する。
「えっとその……失礼します」
少し恥ずかしそうだったのだが確かに異性とこれだけ近いと恥ずかしいかもしれないな。彼女の方から誘われたのはよく考えれば初めてなのを思い出すと少しだけ緊張する。
妙に甘酸っぱい空気に俺は耐えかねてとりあえずデートっぽいことをしてみようと決めた。そこからは意外と細かいこと意識せずにいろいろ見て回れたと思う。向こうからの申し出とはいえ家を作らせた申し訳なさがこれでもあったので全部奢っておくことで自分の罪悪感を誤魔化しておいた。
そしていつものように夕食をいつもと違い2人でとる。ミナと2人で行動したことがなかったのが少し不安だったが思ったより会話も弾み彼女も偽りのない笑顔を向けてくれていたので成功だろう。
そして帰り道、彼女はどこか決意したような真剣そうな目でこちらを見て告げる。
「この前はありがとうございます、レンさん」
「なんのことだか」
実際あの時は彼女だと気が付いて助けたわけでもないしはっきりいって気分で動いただけなのである。俺から言わせると感謝されるほうが少し気まずいのだ。
それに彼女もわざわざ自分の正体なんて言ってはこないだろう、そう俺は高をくくっていたのかもしれない。
「レンさんは気づかなかったけどこの前少し用事でレンさん達と同じ方面に出ていた私を助けてくれてありがとうございます。受付嬢ミナとしてでなくエンデシア王国第1王女ティレシア・ミナ・エンデシアとしてお礼を言わせてください」
……なぜ今このタイミングで暴露した?
「レンさんは気づいてないだけじゃなくて本当に何となく助けたみたいですけどそれでもです。それに嘘とかではないですよ」
いたずらに成功した子供のようなその表情は今まで見たミナの表情の中でも上位なくらい可愛らしくて。あと俺が気分で助けたことまでバレてるのがなんだかつらい。
「王女なんて騙るのは不敬罪になりそうだし本当なんだろな、なんで受付嬢なんてやってるんだ」
「その……予言があったと言いますか。レンさんが最初に尋ねてきたときのステータスでこの人だと確信したと言いますか」
なんだか少し顔を赤らめながらよくわからないことを言うミナ。どういうことだろう、俺の疑問が顔に出ていたのか答えてくれる。
「あの、今更なのですが18のヒューマンがレベル1なんてありえないんです」
なんと、つまりあの時の驚きはステータスの高さじゃなくてレベルの低さだったというわけだ。意外と腹芸がうまいのかもしれない。
「それで予言って?」
「我が王家には代々伝わる神の言葉が聞ける宝珠があるのですがそれからお告げがあったのです」
何となく中身が分かった気がする。だがこれは俺のことではないだろう。
「運命神様はおっしゃいました。私の運命の相手がこの街のギルドに現れる。そのものは常識では図ることができないと。本来なら許嫁でも決まってそこに嫁ぐことになったはずなのですが神からの助言ですから」
そりゃ国家での友好なんぞより神からのお告げだろうな。
「それで13歳の頃からギルドで下働きをさせてもらいましてギルドマスター以外はこのことを知らないのですけどね」
「ん?それなら近いうちにこの街にくるっていう王女様は」
「それは私の妹だと思います。この街には私もいますしお父様も気分は軽かったのでしょう」
……もしかしてだが家が完成するころに王女の訪問があるのではなかろうか。ミナが今俺にばらしたということは協力要請が来る可能性もある。
だが美少女に運命の相手だの言われてうれしくないわけがない。
「最初は運命の相手だなんて恥ずかしいなーなんて思っていたのですがなんというか段々本気になってきたと言いますか」
「俺はミナのことも本気だぞ」
笑顔で本心を告げると当然ちょっと怒った顔になるミナ。これはこれで悪くない。
「前から思ってましたがレンさんは女の敵ですね。まだあって2週間たっていないとは思えないくらいです」
そういえばまだその程度か。俺の人生は密度がやたら濃いので違和感がある。それにしても今の会話は思いを伝えあったとみていいんではなかろうか。
「わ、私はレンさんのことが好きみたいです。前から意識はしていましたがこの前助けられたのが決定的でした。例え私のために助けたのではなくてもうれしいものは嬉しいんですよ?」
「そうかよ、ただ一応ミナのために戦ってなくて悪かったな」
「どれだけ居心地悪かったんですか……これからもよろしくお願いしますね」
この日俺に正式な恋人というか許嫁ができた。




