依頼完了
『おはようございますレン様』
俺はよく聞いたことのある声で目を覚ます。この世界に生まれて初めて聞いた声、以前の俺も世話になったというもっとも俺のことを知る存在。
それが初めて姿をもって俺の前にいる。だがどんなに目を凝らして彼女を見てもあくまで表情しかわからない。
もしかして俺は死んで天界に戻されたとかそんなんじゃなかろうか。
『勘違いしてますね、レン様は気絶したままです。ここは夢みたいなもの、私が存在できる時点で現世ではございません』
そういやユニはスキルであって天使ではなかったな。一番調子に乗っていたのは俺だったという間抜けな展開のダメージは想像以上ということか。俺が気絶してどのくらい経過してるんだ。
『安心してください、確かに間抜けでダメージが大きかったのは本当ですがあれから時間は殆ど立っていません』
なるほど、助かったな。うちの奴隷たちやあの運転手騎士も心配してしまうだろうし早く目覚めたいもんだ。そうするとユニはなぜかくすくすと笑いながら笑顔で告げた。
『ここの体感時間であと5分待てばレン様に面白いことが起きますよ?それでも早くいかれますか』
こいつの言う面白いことって奴には何となく心当たりがある。思ったより俺自身重傷だったらしい、それなら流石に待たせすぎるわけにもいかないだろう。
『奴隷思いですね、それもまたいいと思います……それではまた機会があればお会いしましょうマスター』
いつでも話しかけてきていいからな、そう返して俺は現世に意識を戻した。
「おはよう」
俺の頭を膝に乗せている少女と鼻が当たるまで俺に顔を近づけている少女に声をかける。人工呼吸って呼吸が止まってないといらないんだぞ。
「キスで眠りについた人は目覚めるって聞くし……」
顔を真っ赤にしながら俺から離れて唇に触れながら俯くアイシャ。別に呼吸が止まってたとかじゃなくてただ俺が気絶していただけかよ!
反応が完全にした後なんだがこの娘未遂の癖に反応が愉快だな、一応感謝くらいはしておいた方がいいだろう。
「そうか、わざわざキスで起こそうとしてくれるなんてな。これからは毎朝してくれてもいいぞ?」
からかい混じりにそう告げる、というか全く記憶になくても俺も恥ずかしさくらいはあるので照れているのだろう。今の俺たちは1つのベッドに3人で寝るという狭苦しい状況をやっていたりするがそれは予断というものだろう。
「私も…心配した」
よく見ると彼女は少し目が赤くなっている。まさかそこまで俺に懐いてくれているとは思っていなかった。彼女の枕は相変わらず気持ちがよく、そのままもう一度寝たい気分になるので体を起こすことにする。
「あーその悪かった。一番油断してたのが俺だったな」
正直ちょっとばつが悪いので苦笑しながら言うと2人は安心したように笑みを浮かべた。少々誤解はあったものの無事ワイバーンも討伐できたことだし帰るとするか。まだ体は重たいが苦戦しましたと言わんばかりの態度で帰ると折角のお偉いさんとのコネが切れる可能性もあるのでなるべく自然に見える態度をとることにする。
今回の一件で武器だけでなく動きやすく耐久のある防具も欲しいと思うようになったがこれは鍛冶向きではないだろうな。そのうちアイシャにでもそれ用のスキルを覚えさせるか自作しよう。
俺たちが森の入り口に戻ると魔導車の運転手は魔導車から外に出てたって出迎えてくれた。もしかして俺たちが行ったときからずっと立っていたのかもしれない。
「お待ちしておりました、一応依頼完了の確認がしたいので冒険者カードの掲示をお願いいたします」
運転手ことライアンが取り出したのはあのギルドで使われているカード読み取り機の小型版だ。これだけでも随分高いだろうに流石名高い貴族の側近である。
俺の渡したカードを突っ込んで情報を見ていた彼が突然目を見開いた。いったいどうしたというのだろうか。俺が疑問に思っていると横から答えが聞こえてくる。
「多分マスターのステータス」
あーそういやミナ以外にカードを読み取らせたのは初めてだったな。ただ俺のレベルが低いこともバレるのは少し悲しい。
「申し訳ありません。ワイバーンの討伐記録がないのですが……」
「ああ、それに関してだが」
俺は先ほど強化ワイバーンとの戦闘になったことを口にする、それを聞いて確認が取れたのか俺にカードを返してくれた。
「失礼しました。討伐の確認が取れたのでこれから街まで送りましょう」
結果的に家を貰うクラスの仕事とは言わないまでもかなりの大仕事になったわけで俺としても心苦しさがなくなってよかったものだ。俺のドジ以外そこまで苦戦していないのであまりそうは見えないがそこはご愛敬である。
『元から心苦しさなんて感じずに歓喜だけでしたけどね』
余計な突っ込みが聞こえるがそんな事実は記憶にございません。
「マスター、次の時は私がしてあげる」
横にいたコレットが彼女なりの精一杯の笑顔で俺に向けて言う。
「俺個人としては嬉しいがアイシャみたいに照れて無口になったりしないでくれよ」
いつまでも顔の赤さが抜けず普段は騒がしいほどなのに静かな少女を見ながら言うがやはり反応がない。明日には治ってくれているといいがその前に言っておくことがある。
「あー追い打ちかけるようで悪いんだが……ありがとなアイシャ」
全く関係ない可能性の方が高いが彼女のおかげで目を覚ませた可能性もあるわけでこれでもあのロマンチックな思考回路に感謝しているのである。
「ど、どうせいつかはご主人様とキスくらいするわけだしはやいか遅いかの違いだからいいわ」
最初に噛んでなければ言い回しだけは気にしてなさそうなのに。真っ赤になる彼女に俺は心地よさを感じ、この素晴らしい日常に感謝した。
これからものんびりと楽しくやっていけたらいいな、と。




