指名依頼
鉱山都市での依頼から2日後、俺たちが依頼の完了報告をしに行くとミナの様子がおかしいことに気が付く。どうかしたのだろうか、その俺の疑問はすぐに解決されることとなる。彼女は依頼の完了手続きと報酬の受け渡しをいつも通りに終えるといつもと違う質問をしてきた。
「レンさん、あなたに指名依頼がきています」
「……指名依頼?わざわざまだCランク冒険者の俺を?」
指名依頼については聞いたことがある。基本的にAランクやSランクの冒険者のみに来るものだと思っていたのだが。横を見るとアイシャはなんだいつものかみたいな顔をしており、コレットはどうでもよさそうに口元を隠して欠伸をしていた。
「依頼人は匿名です。ただし依頼が不正なものでないことは間違いありません」
この言い方だとさぞ身分の高いお方からの指名ということだ。どこかの貴族が俺の噂を聞いて試してみたいとか思ったに違いない。依頼人が匿名になるような身分の人間だ、根無し草の俺では断ることは不可能だと思っていいだろう。
「依頼内容を聞いても?」
「依頼内容はワイバーンの討伐、本来Aランク相当の依頼です」
確か指名依頼は相手がこなせるものでない場合はギルド側が断るはず、つまり俺は出来ると判断されたわけだ。俺は思ったよりも目立っていたということらしい。
「すみません……」
別に謝る必要はないと思うのだが、もしかすると俺が目立つのを隠せなかったことへの謝罪なのかもしれない。どう考えても俺が悪いのでむしろ申し訳ない気分になる。
「まあAランクくらいならなんとかなるから問題ない」
実際に3人どころか1人でAランク相当のゴールドアントをぼこぼこにしたアイシャもいるのである、アイテム的にもこのクラスの敵と戦っておきたかったことだしな。
「私はレンさんたちの戦闘をみたわけではないから心配ですけどね」
ちょっとだけ調子を取り戻したミナがこちらに微笑みかけてくる。彼女はその高貴な何者かに直接依頼を持ってこられたのかもしれない、一般市民がそんな位の高い人と話すのは正直しんどいかもな。また今度愚痴でも聞いてやろう。
「依頼の場所は?」
「ここから馬車で4日かかるラーゲスの森です。今回は依頼主様が魔導車を用意してくださっていますので1日もかからずに到着することでしょう」
「え?魔導車?」
アイシャが驚きの声を上げる。確か魔力を使って動く乗り物だったな、つい最近発明されたばかりで一般人はおろか貴族もろくに手が出せない代物らしい。もしかして公爵級の存在だろうか、下手に逆鱗に触れると存在を消されかねないな。
気を取り直して他に必要な情報も聞こう。
「後は報酬だ、流石に何もなしなんてことはないだろう」
俺のこの質問に何故か今までで一番微妙な顔をするミナ。ギルドが指名依頼で不当な報酬を認めるなんてことないと思うが。
「……家だそうです、この街の端にあるあの広い空き地に2週間で家を建てると」
俺が家を持っていないってことくらいは知っているわけか。正直この報酬は願ったりかなったりである、今から作るということはある程度自由が利くと考えていいし欲張って鍛冶場を作ってもらうこともできるだろう。ただ問題としては
「報酬が高すぎますよね、でもこれでいいそうです」
ここだけ聞くと胡散臭い話だからこそ最初に依頼の正当性を話したのだろう、この依頼の本質はワイバーンを倒すことではなくその人物が俺に家を作ってやりたいと思っていることだ。つまりこの依頼主は……。
「ったく。どこで掴んだのやら」
俺がぼそりと呟くとアイシャには聞こえていたようでわかったの?とこちらにアイコンタクトを飛ばしてくるが後でなと返しておく。
「ああ、今から早速この依頼を受けさせてもらう」
元から答えは一択だったのだが相手が誰だか推測が付いたので俺としては断る理由もない。人助けは結果として自分のためになるものって奴だな。
「わかりました、今回は本当に危険ですので頑張ってください……我らに創造主の加護があらんことを」
ミナは笑顔で神への祈りをささげてくれるが、その創造主は俺なわけで正直内心複雑である。アイシャは必死に笑いをこらえてコレットも少しうつむいている、そりゃ俺の正体知ってたらさぞ滑稽だろうな。なので俺は神への祈りではなくこの彼女のほほえみにかけて無事帰ってくるとしよう。
というわけで俺たちが指定の場所に行くと先の話に出てきた魔導車が泊まっており運転手の案内で車内に乗り込む。目的地に着いた頃には俺はあること思っていた。
魔導車快適過ぎる……家よりこれが欲しくなるレベルだ。前回の馬車の旅の何倍も速く移動するうえにこちらの方が揺れが少ないのである。ちなみに運転手はどこかで見た騎士と同じ顔である、どうやって俺の住んでいる場所などを特定したのかは知らないがそんなことはどうでもいいだろう。
「ご主人様?今の騎士さんと知り合いみたいだけどいつ知り合ったの?」
「まあちょっとな」
こちらは相手側の正体が分かっていないので本当に顔見知り程度でしかない。前回のお礼の意味と俺の実力チェックを兼ねているであろうこの依頼、ドロップアイテムも俺が貰っていいらしいのでとどめは俺が刺すことにしよう。
今までCランクまでのモンスターを倒してきたがAランクで俺の運があればもしかしたら相当なものが落ちる可能性もあるわけだ。間違ってもアイシャにだけは倒させるわけにはいかない。
「そ、そんな目で見なくてもいいでしょ」
俺の視線に少しふくれっ面になりながら文句を言うアイシャだったが横からコレットに服を引っ張られて動きを止める。今日で魔導士スタイルも卒業なわけで使ったことのないものをやってみようかな。
「アイシャは駄目」
慰めるのかと思ったらとどめだった。少しずつコレットの表情も見分けがつくようになったので今のはわざとだ、なかなか恐ろしい。アイシャが出会った頃を思い出すような目をしていたので懐かしい気分になった。
少し和んでいたが強烈な敵意が俺のスキルに引っかかる。アリの時と違い向こうの攻撃が届く距離での戦闘開始となるわけだ。俺はソレのいる方向に目を向けてそれを疑った。
「ちょっとまずい、撤退だ」
イビルワイバーン、更には能力がやたら高い上に黒い、ワイバーンは白のはずなのだが。……嵌められたか?
『安心してください、騙されたわけではないです』
お、助言タイムか。敵意がこちらを突き刺す中俺は警戒しながらもユニの言葉に耳を傾ける。
『この森は邪気の溢れる穴が存在します。たまたまあのワイバーンがその穴の上を通過したときに邪気が噴き出したのでしょう』
ユニが答えてくれる辺りやっぱりきついってことだろうな。ただ戦いの助言はする気がないようで引っ込んでしまった。これは出し惜しみしてる場合じゃないだろうな。
既にAランク冒険者級の能力があるアイシャと俺、そして昨日でBランクくらいまで跳ね上がったコレット。だがこのワイバーンはSクラス級だろうな。
「いいか、よく聞け。アレはSクラスだ……残念ながら俺に今回逃げるって選択肢はない」
「家くらい後回しにしたらいいのに」
勘違いされたぞ、逆にコレットはこちらをじーっと見ているので察しているらしい。これからは逃げられないって意味で使ったのだと。
「奴は俺たちに一応気が付いているが警戒はしていない。力が突然跳ね上がって調子に乗ってるんだろうさ」
中途半端に強い奴ほど調子に乗りやすいのである。つまりこの慢心をつけば沈められる可能性があるわけだ。
彼女たちに作戦を伝えて準備が整ったことを確認した俺は自分の残り魔力すべてを使った魔法の準備を開始する。まだ一度も俺が使ったことのない神属性魔法その初級である『ジャッジメント』今の魔力量だとこれが精いっぱいだがこいつを倒すのには十分だろう。
「意味は分かってないだろうが、かかってこいよトカゲ野郎」
俺の魔力に危機を感じたのかワイバーンは警戒心を俺にのみ高める。翼にある棘を逆立ててこちらに向かって威嚇行動をとり始めた。わざわざ威嚇でビビる必要もないのでそのまま魔力を溜めていく。今までの魔法より魔力を使うのでやたら制御に時間がかかるのが難点だ。
俺が何も反応しないことを理解した相手は撤退か敵対かを決めなければいけない。だがこいつは今調子に乗っているわけだ、つまり取る行動は敵対。あくまで強化ワイバーンなのであいつはブレスを使うことはないのが救いだろう。
自身の攻撃が届く範囲まで移動するためにこちらに全速力で突っ込んでくるワイバーンだがこちらの仕掛けた罠が当然あるわけだ。……それにしてもこいつ思ったより飛ぶの速いな。
俺の危機感には全く気が付いていない2人はそれぞれ俺の指示通りに行動していく。まずはアイシャの光魔法で視力を奪い、コレットは炎魔法を使って爆音を鳴らす。感覚を失って斜めに墜落したワイバーンだが当然誰かさんの定めた世界のルールに従って慣性によって俺の方に突っ込んでくる。慢心してたのは俺の方だったなー。そんなことを思いながら俺は魔法を解き放ち、破壊に身を投げ出した。




