旅路と定番
仲間が増えたからと言って特に俺たちのやることが変わるわけではない。新しい仲間コレットを含めた3人でクエストを受けた。俺が新しい奴隷を連れて行ったときギルドの空気が最悪だったが嫉妬も選ばれし者の特権というやつだ。
ミナは溜息をついてジト目になって対応がいつもより冷たかったこと以外はしっかりと対応してくれた。よく考えたらクエストに行ってクリア報告もせずしていたことが奴隷の物色である。冒険に出ている間もし彼女が俺のことを心配していたのだとしたら怒る権利くらいあるだろうな。
俺も苦笑しながらコレットの冒険者登録を行ってもらう。今回はステータスも俺とアイシャに比べたらまともでスキル欄も少し凄いくらいなのでほっと息をついていた。真実は知らない方が彼女のためだろう。
「相変わらず偉い数倒してきますね……。とりあえず今日も依頼を受けられますか?」
もうなんて答えるかはわかっているのだろう、そういう信頼は心地いいものだ。2日に1回くらいマメに食事に誘っているので好印象なのかもしれない。
「ご主人様がメインアタッカーで彼女のレベリングをしようと思って」
「アイシャさんも大変ですね」
「本当にね」
おい、奴隷の癖に生意気だぞ。ミナも日に日に俺に対しての扱いが雑になっている気がする。どちらかといえば距離が近づいたからこそだと喜ぶべきなのだろうが素直になれないなこれだと。
「マスターだもの」
なんでまだスキル変更しか見てないのにそんな扱いなんだよ、アイシャがなんか吹き込んだか?ちなみにコレットもスキル変更の時に俺の正体は話してある。奴隷だと裏切られないと信じられるからいいな、小市民の俺にはいい制度だ。彼女は表情が薄いなりにこちらに微笑みかけているが可哀そうなものを見る目があるせいで喜びでないことが分かる。
俺は鉱石採集も兼ねて鉱山に行くことにする、一度も行ったことがないのでいつもみたいに日帰りは厳しいだろう。帰りは一瞬と言っても行きだけで2日弱かかる距離だ。
「レンさんが遠出なんて珍しいですね、武器の素材集めも兼ねているということでしょうか」
察しが早くて助かる、俺の剣見るからに安物だったし今日所持してないから分りやすかったかもしれない。
「あまり女の子の気持ちを弄んではダメですよレンさん」
「一応私たちが気を付けておくわ」
「節操なしだから期待しないで」
忠告が命の危険でないのは信頼の証だ、喜べ、喜ぶんだ俺。そんなことを考えている少し俺の視界はにじんでいたような気がした。それにアプローチしたりはしているが正式に付き合っている相手はいないので別に浮気とかでもない。俺は複数同時に愛せる人間なのでどのみち問題なんてないのだ。
馬車に揺られてのらりくらりと1日移動したがまだ先は長い。俺が範囲警戒魔法を張って道中で車中泊していたわけだが眠りが浅く、物音で目が覚めてしまう。周りを見ると2人は幸せそうに仲良く寝ていて俺だけ仲間外れの気分を味わった。
「ちょっとだけぶらつくか」
少しだけ歩いてから寝よう、そう思い外に出る。後から思い返せばこれも運命の分岐点の1つだったのだろう。だが今の俺は知る由もない。何も考えず少しだけ離れたところに散歩してそろそろ帰ろうかと思った時遠くから声が聞こえる。
「今の俺は機嫌が悪いんだ……」
結界に引っかからないギリギリの範囲にいたようだ、俺が起きていなかったらこの事件は防がれなかっただろう。とりあえず音声だけで状況判断をしていく。もし勝てない相手なら容赦なく見捨てるとしよう。
「ティレシア様……お逃げください」
「まだ、やれます!」
「へっ、悪く思うなよ……。これも依頼だ」
このまま聞いているとくっころが見られそうだが高貴なる女性のようなので助けて恩を売ることにしよう。運が良ければ更に惚れられたりするかもしれないしな!
『流石はマスター。素晴らしい考え方だと思います』
俺を茶化す時だけ使うマスターという言い方をしている時点でちっとも褒められていないことが分かる。どこも褒める点がないからしょうがないといえばしょうがない。
「よっと」
俺は『テレポート』で敵対者と思われるほうの目の前に転移して頭をぶん殴る。ついでに辺りをざっとみて敵の能力を大体把握したがこのくらいならば今の俺で十分勝てるだろう。
仮にこれで実は高貴な女の人が悪かったとしても別に俺は正義の味方じゃないのでセーフだ。もし悪役じゃなかったときのために生かして捕らえるとしよう。範囲催眠魔法『スリープホール』であっさりと敵の大将以外を夢にいざなう。
大将だけは状態異常を防ぐアイテムを持っていたようなので動けない程度にぼこぼこにしておいた。さぞ俺が素晴らしい魔法使いに見えたことだろう。きっと尊敬されたに違いない。
「ふわぁ」
魔力を使ったので一気に眠気が訪れる。そこからも色々と彼女らと適当な話をしたがあまり覚えてない。これだけ聞くと無責任だが一応嘘見抜きの魔法を使っておいたのでいい人確認でも取れたのだろう、覚えてないが。彼らはあの暗殺者たちを次の街で衛兵に引き渡すとか言っていた気がする。折角綺麗な女の人だったのに眠いからと適当にかっこつけて転移で戻ったのは失敗だったかもしれん。
戻ってもまだ奴隷たちは夢の中だった。人が仕事している間も幸せな奴らである。
『自分で勝手に首を突っ込んだだけなんですがね、レン様好みだったのにあっさり帰ってきちゃいましたし』
いや、尋常じゃないほど眠かったんだよ、流石に路上で眠るわけにもいかないだろう?そう思いながら横になる。
『それもそうですね、転移魔法なんて使うからです。短距離転移は燃費が悪いですから』
かっこいいからいいだろ。俺はそう返したところで意識を失った。




