8話 勇者セイジ
「ノア!」
リアムお兄様が走ってきた。
リアムお兄様の顔を見たら、なんだか涙が出てきた。
「うわああああん! リアムお兄様ああ!」
俺はリアムお兄様にぎゅーって抱きついた。
「すまないノア! お兄様が手を離してしまったから!」
「怖い思いをさせてごめんね、ノア!」
「俺もいちご飴を見てましたああ! ごめんなさいいい!」
お兄様は俺を抱っこして、ガノンさんたちを見た。
「冒険者諸君、ノアを見つけてくれて本当にありがとう!」
「礼をさせてほしい!」
お兄様が頭を下げた。
「いえ、お礼はいりません。俺たちはノア様から依頼を受けて仕事をしただけです。依頼料もちゃんともらっています」
「依頼料……。そういえばノア。タイのブローチはどうしたんだい?」
「う……。すん……。ガノンさんたちの、いらいりょうにしました」
「護衛の依頼かい?」
俺は首を横にふった。
「エレノアの腕が呪われてたから、シャロンさんに呪いを解いてもらう依頼をしました。ブローチはそのお金にしました」
「エレノア? 誰のことだい?」
「俺の妹です」
すると、男の子が前に出てきた。
「君は? ガノンさんたちの仲間かい?」
「違います」
「俺はセイジと言います」
「リーナさんに背負われているのがエレノアです」
「俺たちは孤児で、家もありませんでした。俺は肺の病気になって、エレノアは呪いをかけられていました」
「もう、死ぬしかないと思っていました」
「そこをノア様が助けてくれましたんです。冒険者ギルドに依頼をして、俺たちを治してくれました」
「本当にありがとうございます。治療のお金は働いて返します」
「ノア様、ありがとうございました」
セイジは頭を下げた。
「ノア、困っている子たちを助けたなんて、偉いね」
「……きぞくのぎむ、ですから」
なんだかちょっと恥ずかしい。
「リアムお兄様……お願いがあります」
「なんだい?」
「俺たちが帰るまでの一週間だけ、セイジとエレノアをこの、ひしょちに置いてあげてください」
「二人には『えいよう』と『きゅうよう』が必要なのです」
「うん。そのことはお兄様に任せなさい」
リアムお兄様は俺の頭をなでた。
「お腹が空いただろう? ご飯を食べて、お風呂に入って、今日はもう寝なさい」
「……はい」
俺はクロエに抱っこされて食堂に行った。
そして、いつもの硬くて切れないお肉と戦った。
「くっ……!」
なかなか切れない。
でも俺は負けなかった。
「勝った!」
お肉を食べて、お風呂に入った。
それから布団にもぐった。
「ふわぁ……。ねむい……」
これで寝ようと思ったら、クロエが布団に顔をつけて、肩をぷるぷるさせていた。
「ノア様……」
クロエが泣いていた。
「ご無事で、本当に……良かったです……」
「申し訳ございません、ノア様……。怖かったでしょう……。不安だったでしょう……」
「クロエのせいでございます……。申し訳ございません……」
クロエがいっぱい泣いている。
クロエが泣いているところを見たのは、初めてだった。
いつも笑ったり泣いたりしないからだ。
俺はクロエの頭をなでた。
「大丈夫だ、クロエ」
「ノア様……」
「俺は強いんだ!」
「こんなことで負けたりしない!」
「だから、しっかりするんだ!」
「はい……!」
それから眠くなるまで、俺はずっとクロエを励ました。
「大丈夫だからな……」
そう言いながら、俺もだんだん眠くなってきた。
「おやすみ……クロエ……」
「おやすみなさいませ、ノア様……」
そして俺は、ぐっすり眠った。
◇◇◇
「はっ!」
俺はびっくりして目をさました。
「セイジって勇者じゃん!!」
そうだった!
セイジは勇者だった。
たしか……。
セイジは、どこかの村で妹のエレノアと暮らしていた。
でも、エレノアが何かの理由で呪いに触れてしまって、二人とも村から追い出される。
そして……エレノアは死んじゃう。
それでセイジは、
「こんな世界、滅びればいい」
って思っているうちに、何かがあって勇者の力に目覚める。
そこでゲームスタートだ。
そのあとは、一人で冒険者になる。
そして仲間が増えていく。
なんか大きなことをして、王都に行く。
そこで、スライムくらいの力しかない俺にいちゃもんつけられて。
セイジは怒って、俺を倒す。
そして、すごく強いアイテムを手に入れる。
それからお城に行って……。
アロアに好きになられる。
でもセイジは断る。
それなのにアロアは、ずっとしつこくする。
振り向かないセイジの態度に不安なアロアは悪魔になってしまう。
そしてセイジに討伐される。
それを見た王様がショックを受けて、なんか魔王に乗っ取られる。
そして、今度は王様をセイジが討伐する。
最後は、仲間の誰かと結婚して――。
ハッピーエンド。
「…………」
「俺達、どうなるんだろう……」
◇◇◇
あれからどんな話をしたのか
なんと!
勇者のセイジとエレノアが、俺の執事とメイドになった。
「今日からノア様の執事になります。セイジと申します」
セイジは執事の服に着替えていた。
きれいになったセイジは、やっぱり勇者みたいだった。
長い黒い髪を後ろでしばっている。
おじぎをしている顔も、かっこいい。
「今日からノア様のメイドになります。エレノアと申します」
エレノアもメイドの服を着ている。
背は俺と同じくらいだ。
でも、エレノアは8歳で俺より2歳もお姉さん。
セイジは10歳だから、俺より4歳もお兄さんだ。
エレノアの髪は、白っぽいピンク色だ。
さらさらしていて、すごくきれいだった。
「うん! よろしく頼む!」
俺は二人に言った。
二人が俺の執事とメイドになるなんて、なんだかすごい。
アロアに二人を見せたら、きっとびっくりするぞ!
「アロア、どんな顔するかな?」
俺はちょっと楽しみになった。




