7話 6枚の金貨
冒険者ギルドは、木でできた大きな家だった。
花とか飾りとかはなくて、すごくシンプルだ。
中に入ると、剣や弓や斧を持った人がいっぱい。
魔法使いだって一発で分かるような格好の人もいる。
長い台の向こうには、四人のお姉さんがいて、冒険者とお話をしていた。
「神官の冒険者を雇いたいんですけど、お金はブローチでお願いします」
俺はつま先立ちして、台の上にブローチを置いた。
「かしこまりました。どのようなご依頼でしょうか?」
金髪の優しそうなお姉さんが聞いてくる。
「呪いを治してほしいんです。エレノアっていう孤児です。左腕が紫色になって、すごく腫れてるんです」
「治療のご依頼ですね」
「もうすぐ死ぬらしいので、急いで来てほしいです」
「え? あ……はい。わかりました」
お姉さんが少しびっくりした顔をした。
「では、こちらから推薦させていただきますね。少々お待ちください」
「シャロンさーーん! ご指名でーーす!!」
突然、お姉さんが大きな声で叫んだ。
「はーーい!!」
どこからか大きな声が返ってきた。
「シャロンですぅ。何かご用ですかぁ?」
クネクネした女の人が、ゆっくり走ってきた。
その後ろには、男の人がお肉を食べながら歩いている。
女の人も、木のコップでお酒みたいなものを飲んでいた。
「シャロンさん、こちらの小さな依頼者様が呪いの解呪を希望されています。受けてくださいますか?」
「いいですけど、誰が呪われたんですか?」
「エレノアさんですよ」
「え?」
シャロンさんが目を丸くした。
「エレノアって、この間の子?」
「はい。あの子です」
「あなた、エレノアって子の知り合いなの?」
シャロンさんが俺を見る。
「その格好、お貴族様でしょ? どうしてあの子の呪いを解いてほしいの?」
「なんでって……」
俺は少し考えた。
「何かヤバそうだったから、医者に見せろって言ったんだ。でも、何を言っても何も答えないんだ」
「だから俺が神官を呼びに行ったら、一年後に来いって言われた」
「それで商業ギルドに薬を買いに行ったら、エレノアのは呪いだって言われたんだ」
「冒険者の神官なら、依頼を出せば治してくれるって聞いたから来た」
「そうなんだ……」
シャロンさんは俺の顔をじっと見る。
「でも、あなたとは関係のない子たちでしょ?」
「なんで助けてあげるの?」
「……」
なんでって言われても困る。
「俺がエレノアだったら……」
俺はちょっと考えた。
「俺が死んで、リアムお兄様が泣いたら嫌だなって思ったから」
「……そう」
シャロンさんが少しだけ笑った。
「分かったわ! お姉さん、頑張る!」
「では、解呪の依頼は金貨一枚が相場です」
受付のお姉さんがブローチを返してくれた。
「金貨五枚をお返しします。お確かめください」
「いち、に、さん、し、ご」
俺は金貨を数える。
「ちゃんとあります」
金貨をポケットに入れた。
「私はシャロン。神官よ」
「こっちはガノンとリーナ。剣士と魔法使いよ」
「ガノンだ。元王国騎士で、今は剣士だ。よろしくな」
ガノンさんは背が低い。
でも、なんだかすごく強そうだ。
「私はリーナ。魔法使いよ。得意な魔法は氷! よろしくね」
リーナさんは背が高い。
俺の目線に合わせて、しゃがんでくれた。
優しい人だ。
「ドルツこうしゃくけのノアです。リアムお兄様が迷子になって、じつは困ってる六歳です。よろしくおねがいします」
「「「ドルツ公爵家!?」」」
三人が大きな声を出した。
ギルドの中も、
「えっ!?」
「ドルツ公爵家!?」
「公爵家の子供!?」
と、ザワザワし始めた。
なんで?
俺、変なこと言ったかな?
◇◇◇
「解呪魔法――マレディクティオーニス」
パアアアアッ!
青い光がエレノアの腕を包んだ。
すると、紫色だった腕が、みるみる元に戻っていく。
腫れもどんどん引いていった。
「ついでに回復――サナーティオ」
パアアアアッ!
今度は白い光が男の子とエレノアを包んだ。
そして、ふっと消える。
「はい、これでもう大丈夫!」
シャロンさんが笑った。
「二人とも健康そのものよ。でも、体力はまだ戻ってないから、ちゃんと食べて、ゆっくり休んでね」
シャロンさんが二人の頭を撫でる。
男の子は、自分の腕や体を見ている。
「……なんで」
「治してもらっても、俺、金払えねぇよ」
「金なら俺が払った」
俺が言うと、男の子が驚いた顔をした。
「なんで……?」
「なんで俺たちなんかを助けてくれるんだ……?」
「……」
俺は少し恥ずかしくなった。
「困った奴を助けるのが貴族の義務だって、お父様が言ってたから……」
俺は顔をそらした。
「それに、自分がエレノアちゃんの立場だったら、死んでお兄様を悲しませるのが嫌だから。だそうよ」
シャロンさんが人差し指を立てて、ニコッと笑う。
「言わなくていいよ!」
恥ずかしい!
「……」
男の子が黙って俺を見る。
「あ、ありがとう、ございます」
男の子が地面に頭をつけた。
「おい、やめろよ」
「ありがとう、ございます……!」
「もういいって!」
「ありがとうございます!」
何回も頭を下げている。
俺は困ってしまった。
「あ……」
そうだ。
「うちに来いよ」
「え?」
「エレノアも寝てるし、帰る家ないんだろ?」
「俺が帰るまで、あと一週間あるから……」
「それまで家にいればいい」
男の子が顔を上げた。
「……いいのですか?」
「うん」
「シャロンさん、ガノンさん、リーナさん」
俺は三人を見る。
「俺をこうしゃくけのひしょちまで連れてってください」
「金貨五枚で足りますか?」
俺はポケットから金貨を出した。
「どうする? リーダー」
リーナさんがガノンさんを見る。
「金貨なんていらねえよ」
ガノンさんが腕を組んで笑った。
「ちゃんと送ってやるから安心しな」
「ありがとう、ございます……」
男の子が泣いている。
「ありがとうございます……!」
何度も何度もお礼を言っている。
「もういいってば……」
俺はちょっと困った。
リアムお兄様、もしかしたらもう家に帰ってるかもしれない。
まったく。
心配させるなよな、リアムお兄様!




