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悪役令息のほしいものリスト  作者: ボアの本棚


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68話 屋敷探検



「テレビがあるーー!」


俺は今、セリーナお母様とカノンお姉様と一緒に、屋敷探検をしていた。


シオン様が、


「これからは家族だと思って、お父様、お母様、セロお兄様、カノンお姉様と呼んでいいですよ」


と言ってくれた。


だから俺も、もう「お母様」と呼んでいる。


ちょっと変な感じだけど、うれしい。


そして、談話室に入ったときだった。


長いチェストの上に、ドームみたいな小物が置いてあった。


そこから、ぴかーっと大きな画面が浮かんでいる。


「テレビだーー!」


「テレビ……?」


カノンお姉様が首をかしげる。


「これは『放送魔導具』ですよ」


お母様が教えてくれた。


すごい!


画面の中では、子供向けの番組をやっていた。


歌っている人もいる。


ドラマもある。


「すごい! なんでも見られる!」


俺は画面に釘付けになった。


でも、前世のテレビと違うところがあった。


「……あれ?」


リモコンがない。


「リモコンは?」


「何ですか、それ?」


お母様が不思議そうな顔をする。


「えっと……テレビを動かすやつ!」


「では、局を変えて頂戴」


お母様は近くにいたメイドに言った。


「はい」


メイドが放送魔導具のところへ行く。


そして、ドームについているボタンをポチッと押した。


画面が変わった。


「おお!」


勇者が魔王を倒す人形劇だった。


「これ、面白そう!」


俺は夢中になった。


勇者が剣を振る。


魔王が笑う。


「いけー! 勇者ー!」


気がついたら、俺はテレビの前から動かなくなっていた。


◇◇◇


「トイレに蛇口まであるーー!!」


次に案内されたのはトイレだった。


百年前のドルツ公爵家のトイレは、今と比べると、とても使いにくかった。


公爵家だから、普通の家よりはずっときれいだった。


でも……。


石でできた小さな部屋。


冬は寒い。


夏はちょっと臭い。


そして、使ったあとも、今みたいにボタンを押したら全部きれいになるわけじゃない。


古い魔導具で、地下の汚物槽に送るらしい。


でも、魔力が弱いと、うまく流れないこともある。


掃除をするのは使用人だ。


だから俺は、百年前のトイレが好きじゃなかった。


「……ここ、嫌だな」


そう思っていた。


できれば、二度と使いたくない。


でも!


百年後のトイレは全然違った。


部屋に入ると、明かりがパッとつく。


便座はぽかぽか。


「うわぁ……」


用を足して立ち上がる。


すると、


シャーッ!


魔導具が勝手に水を流してくれた。


しかも、ちゃんときれいになる。


嫌な臭いもない。


消臭の魔法が動いているらしい。


最後には乾燥までしてくれる。


「…………」


俺はしばらく動けなかった。


「すごい……」


これがトイレなのか。


百年前のトイレと、ぜんぜん違う。


百年ってすごい。


魔導具って、こんなところまで便利になってるんだ。


「ノア様、どうかなさいましたか?」


外からスフィーの声がした。


「……スフィー」


「はい」


「百年ってすごいんだな!」


「はい?」


「トイレまで便利になってる!」


俺が言うと、スフィーがくすくす笑った。


ほかのメイドたちも笑っている。


「ふふ。良かったですね、ノア様」


「うん!」


「さあ、探検はまだ始まったばかりですよ。カノンが用意していますから、外へ出ましょう」


「はい! お母様!」


◇◇◇


「自転車だーー!」


玄関を出ると、そこには自転車が置いてあった。


大人用と子供用がある。


馬車じゃない!


自転車だ!


しかも、後ろの荷台には箱がついている。


箱の中には青い魔石が入っていた。


「これ、何?」


「魔導自転車の動力になる魔石よ」


「これに魔力を込めると自動で足台を漕いでくれるの」


カノンお姉様が教えてくれた。


お姉様は、もう自転車に乗っていた。


「本当は女性が自転車なんて物に乗るなんてと思いますが、今回は特別ですよ、カノン!」


お母様が言った。


「はーい! 分かってますよ、お母様」


お姉様は笑っている。


「では、ノア。魔導自転車に乗る練習をしてみましょう!」


カノンお姉様が自転車から降りた。


「はい!」


俺は自転車にまたがった。


「俺、乗れます!」


「え?」


カノンお姉様が目を丸くした。


「見ててください、カノンお姉様!」


俺はペダルをこいだ。


最初はちょっとふらふらした。


でも、すぐに慣れた。


スイスイ進む。


「乗れた!」


前世で乗ったことがあるからだ。


前世の記憶って、すげぇ!


「す、すごい!」


カノンお姉様がびっくりしている。


「私なんて、乗れるようになるまで一週間くらいかかったのよ!」


「え?」


「しかも、何回も転んで、体中を怪我したの!」


「うわぁ……」


俺は自転車から降りた。


そして、いいことを思いついた。


「カノンお姉様!」


「なあに?」


「俺、行きたいところがあります!」


「どこ?」


「森の礼拝堂です!」


お母様とカノンお姉様の顔が変わった。


「礼拝堂?」


「はい!」


俺は北の森を指さした。


「あっちの森に、古くて小さい礼拝堂がありますよね?」


「そんなのあったかしら……」


カノンお姉様がお母様を見る。


「見たことはありません」


お母様も首を横に振った。


「でも、そこにあったんです!」


俺は急いで説明した。


「ステンドグラスの下に階段があったんです! その階段を通れば、元の時代に帰れるかもしれません!」


「……」


カノンお姉様が考えている。


「分かったわ。その礼拝堂に案内してくれる?」


「はい!」


俺とカノンお姉様。


それから護衛の騎士が二人。


スフィー。


みんなで自転車に乗った。


お母様はあとから馬車で来るらしい。


自転車は速い。


びゅーん!


あっという間に森に着いた。


そして。


「あった!」


あの礼拝堂だ。


前と同じ。


古くて、小さい。


「……本当にあったなんて」


護衛の騎士が、ちょっと怖そうに言った。


騎士が扉を開ける。


ギィィィ……。


中には長椅子がいっぱい並んでいた。


奥には小さな台がある。


そして、ステンドグラスから光が入っていた。


床には、赤。


みどり。


青。


いろんな色の光が落ちている。


「きれい……」


俺は思わず見上げた。


でも、俺が見たいのはステンドグラスじゃない。


「ここです!」


俺はステンドグラスの下を指さした。


護衛の騎士が床板を外す。


すると。


「……あった」


石でできた階段が出てきた。


やっぱりだ。


「あの階段です!」


俺はうれしくなった。


「ここを降りれば、元の時代に帰れるかもしれません!」


「ノア達は、この階段を降りて通路に出たのね?」


「はい!」


「降りてみていいですか?」


俺が聞くと、


「ダメよ」


カノンお姉様がすぐに言った。


「えー!」


「危ないでしょう。勝手に入ったらダメです」


「……はい」


俺はしょんぼりした。


騎士が床板を戻す。


「お母様に知らせなきゃ」


カノンお姉様が言った。


「はい……」


俺たちは礼拝堂から出た。


扉を開ける。


すると。


「え?」


外が騎士だらけだった。


いっぱい。


本当にいっぱい。


「カノンお嬢様!」


ヒゲを生やした大きな騎士が走ってきた。


「お二人とも、ご無事でしたか!」


「?」


俺とカノンお姉様は顔を見合わせた。


「どういうこと?」


カノンお姉様が聞く。


すると騎士は、ものすごく心配そうな顔をした。


「この一週間、お二人の行方が分からず、皆でずっと探していたのです!」


「……一週間?」


俺は首をかしげた。


「でも……」


カノンお姉様も困った顔をする。


「冗談でしょ?さっきお母様と別れてからまだ十五分くらいしか経っていないわ」


お姉様が左手に嵌めた腕時計をみる。


「いいえ!」


騎士が大きな声で言った。


「お二人は森の礼拝堂へ向かわれたあと、行方不明になったのです!」


「……え?」


俺の胸がドキッとした。


「森を全部探しました!」


騎士は続けた。


「ですが、お二人の手がかりは何も見つかりませんでした!」


一週間。


俺たちは十五分しか経っていないと思っていた。


でも、外では一週間も経っていた。


「……なんで?」


怖い。


どうして時間が違うの?


「お嬢様……ノア様……」


大きな騎士が深く頭を下げた。


「本当に、ご無事で何よりです」


俺はカノンお姉様を見る。


お姉様も、俺を見ている。


二人とも、何も言えなかった。





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