69話 今と昔
「カノン! ノア!」
「お母様!」
玄関に、お母様たちがいた。
俺たちを見ると、みんな走ってくる。
「お前達、一体どこにいたんだ!?」
お父様もお兄様も、すごく心配そうな顔をしている。
「お父様、お兄様。あの礼拝堂は、ただの礼拝堂ではありません」
カノンお姉様が説明する。
「時間魔法と隠匿魔法が掛けられていました」
「なんだって!?」
お父様がびっくりする。
時間魔法。
隠匿魔法。
やっぱり、あの礼拝堂は普通じゃなかったんだ。
俺たちは十五分くらいしかいなかった。
なのに、外では一週間も経っていた。
怖い。
スフィーに連れられて、俺は部屋に戻った。
ベッドに入っても、ずっと考えていた。
あの礼拝堂。
中に入っただけで、時間がすごく進んでしまったんだ……。
どうしてあんなものがあるんだろう。
◇◇◇
次の日。
俺とカノンお姉様とシオンお父様は、今の国王様に呼ばれた。
これからお城へ行くらしい。
玄関に行くと、魔導馬車が待っていた。
俺は馬車を見て、目を丸くした。
「……あれ?」
「どうしたんだい、ノア?」
「シオンお父様……馬は?」
馬車なのに、馬がいない。
「これは魔導馬車だからね」
「魔導馬車?」
「そう。外見は昔の馬車と似ているけれど、車体の下に魔石を使った魔導機関があるんだよ」
「魔石で動くの?」
「そうだよ。魔力で車輪を動かすから、馬も御者もいらないんだ」
「馬もいらないの!?」
俺は馬車の前をもう一度見る。
やっぱり馬はいない。
なのに動くらしい。
「すごい……」
「それだけじゃないよ」
シオンお父様が嬉しそうに話し始めた。
「車の中には揺れを小さくする魔導具があるし、暑い日は涼しく、寒い日は暖かくできる。明かりもつくし、外の音が聞こえにくくなる魔導具もある。空気をきれいにすることもできるんだ」
「そんなに!?」
「それに、公爵家の魔導馬車なら、行き先を決めるだけで自動的に走ってくれる」
「自動運転!?」
「道路に何かあったら魔導具が見つけて、止まったり、ゆっくり走ったりするんだよ」
「すげぇ……」
まだある。
「窓も特別なガラスでできていて、明るくしたり暗くしたりできるんだ」
「…………」
俺は口を開けたまま、馬車を見た。
シオンお父様は、聞かれて嬉しかったのかな?
俺が聞いてないことまで、いっぱい教えてくれた。
でも、俺も聞いていて楽しかった。
百年後って、すげぇ。
◇◇◇
馬車に乗って、お城へ向かう。
窓から外を見る。
「…………」
俺はびっくりした。
街が全然違う。
百年前は、石の道を馬車が走っていた。
道の横には、お店がいっぱいあった。
夜になると暗くなって、魔導灯やランタンが明かりだった。
建物も、二階とか三階くらいが多かった。
でも。
今は違う。
道路がきれいになっている。
馬車の代わりに、魔導車が走っている。
その横には、魔導自転車が走っている。
人が歩く場所もちゃんと分かれている。
「すげぇ……」
道路の端には魔導灯がいっぱい並んでいる。
しかも、人や乗り物が近づくと、
パッ。
明るくなる。
「明かりまで勝手につくの!?」
俺は窓に顔を近づけた。
夜なのに、こんなに明るい。
百年前なら、もっと暗かった。
街の建物も大きい。
二階や三階だけじゃない。
五階くらいある建物もある。
王都の真ん中には、十階くらいありそうな建物まであった。
窓も大きい。
ガラスがいっぱい使われている。
「高い……」
俺は上を見た。
首が痛くなりそうだ。
でも、変わっていないものもあった。
古い教会。
昔の貴族の屋敷。
ずっと昔からある石造りの建物。
新しい大きな建物の間に、古い建物が残っている。
百年前のものも、壊さずに大切にしているらしい。
「なんだか変な街……」
新しいものと、古いものが一緒にある。
なんだか不思議だ。
それに、お店に行かなくても買い物ができるらしい。
魔導通信で注文すると、魔導配送車が家まで持ってきてくれる。
「えっ!?」
俺はびっくりした。
「店に行かなくても買えるの!?」
「はい。便利ですよ」
スフィーが笑う。
「すげぇ……」
百年前の俺がこれを見たら、絶対に驚く。
『ネットショップ』だーー!
って叫んでると思う。
でも、街の外れまで行くと、少しずつ景色が変わるらしい。
大きな建物が少なくなる。
昔みたいな家が増えてくる。
石の家。
木の家。
畑。
牧場。
そして、その向こうには森がある。
「あまり変わってない所もあるんだな」
「そうですね」
スフィーがうなずいた。
「百年前から残っている場所も多いですよ」
そうなんだ。
街全部が新しくなったわけじゃない。
古いものを残して、新しいものも使っている。
百年って、すげぇ。
俺が知っていた街は、もう昔の街になっている。
俺が歩いていた道も。
俺が遊んでいた場所も。
俺が暮らしていた屋敷も。
今の人たちにとっては、ずっと昔のものなんだ。
「……なんか、不思議だな」
俺は窓の外を見ながら、小さくつぶやいた。
百年前と同じところもある。
でも、知らないものもいっぱいある。
俺はこれから、この世界で暮らす。
だったら。
もっといっぱい見てみたい。
「百年後って、面白いな」
俺は少しだけ笑った。




