67話 100年て長くない!?
「おかえりなさいませ、ノア様。現ドルツ公爵家の当主をしております。シオンと申します。あなた様のお兄様、セレス様の孫の子にあたります」
「…………え?」
当主?
今のドルツ公爵家の当主は、お父様じゃないの?
それに、セレスお兄様の孫の子って……。
何を言ってるの、この人。
俺は、となりにいるクロエを見上げた。
「クロエ……」
「ノア様……」
クロエは、ちょっと悲しそうな顔をした。
「私はクロエではありません。スフィーです」
「…………え?」
「クロエは、私のおじいちゃんのおばあちゃんです」
「…………」
クロエじゃない?
スフィー?
俺は、わけが分からなくなった。
スフィーは俺の前にしゃがんで、目の高さを合わせてくれた。
そして、俺の両手をぎゅっと握った。
「ノア様。ノア様は、あの日から百年後のドルツ公爵家へ帰ってこられたのです」
「ひゃ、百年……?」
百年って、すごく長くない。
そんなに時間がたったの?
「じゃあ……」
声が震える。
「お、お父様も……」
「セレスお兄様も……リアムお兄様も……」
スフィーは何も言わずに、うなずいた。
「クロエも……いないの?」
また、うなずいた。
「アロアのお父様は?」
うなずく。
「お母様も?」
うなずく。
「ジーナお姉様も……?」
うなずく。
「リオーネお姉様も……?」
うなずく。
「レティスお姉様も……?」
また、うなずいた。
「俺たち……だけ?」
スフィーが困ったような顔をした。
その顔を見たら、分かってしまった。
「うっ……」
涙が出てきた。
「嫌だ……」
胸が痛い。
「嫌だ! 嫌だ! 嫌だ!」
俺は床を踏んだ。
「帰る!」
「お父様のところに帰る!」
「お兄様たちのところに帰る!」
「帰りたい!」
「ああああああああ!」
俺は大声で泣いた。
メイドたちが慌ててやってきた。
「ノア様、落ち着いてください!」
「大丈夫ですよ!」
でも、全然大丈夫じゃない。
だって……。
もう、お父様に会えない。
セレスお兄様にも会えない。
リアムお兄様にも会えない。
クロエにも会えない。
ガっちゃんだって、セレスお兄様が誕生日にくれたのに。
フルーツがいっぱい乗ったケーキ。
お父様と一緒に果物狩りに行って、その果物で作ったケーキ。
リアムお兄様が、
『そんなに泣くと、目玉が流れてしまうよ』
って、困った顔で笑ったこと。
全部、もう昔のことになってしまった。
「ああああああ!」
考えれば考えるほど、涙が出てくる。
その時だった。
「泣き止みなさい! ノア!」
「!?」
大きな声が聞こえた。
びっくりして、声のしたほうを見る。
そこには、さっきドルツ公爵家の当主だと言っていた人と、一緒にいる女の人がいた。
女の人は、すごく厳しい顔をしている。
「公爵家の男子たるもの! そんなに取り乱してはいけません!」
「まずは落ち着きなさい。そして、今の自分がどういう状況なのか、ちゃんと考えるのです!」
「…………」
その言葉を聞いて、俺は思い出した。
お父様も、いつも言っていた。
『ノア! 公爵家の、この私の子ならば泣くな! 元気を出せ!』
そうだ。
お父様なら、こんな時に泣いている俺を見たら怒る。
「……はい」
俺は涙をガっちゃんの手で拭いた。
「泣いて、ごめんなさい。ドルツ公爵夫人」
頭を下げる。
それから、スフィーを見る。
「クロエ……じゃなかった。スフィー……」
「はい」
「みんなも……泣いて困らせて、ごめん」
メイドたちにも頭を下げた。
みんなが、びっくりした顔をしている。
俺はガっちゃんをぎゅっと抱きしめる。
「そうか……」
俺は小さな声で言った。
「俺とアロアたちは、百年後の世界に来たんだな……」
百年後。
俺たちの知らない世界。
お父様も、お兄様たちもいない世界。
そう考えると、また泣きそうになった。
「さあ、こちらにいらっしゃい」
ドルツ公爵夫人がソファーに座った。
そして、となりをポンポンと叩いた。
「ここへお座りなさい」
「はい……」
俺はスフィーと一緒にソファーまで行った。
そして、夫人のとなりに座った。
夫人は、俺の頭を優しく撫でてくれた。
「よく泣き止みましたね。ノア様は強い子ですよ」
「……はい」
前のソファーには、今のドルツ公爵が座っていた。
そのとなりには、男の人と女の人がいる。
たぶん、公爵の子どもだ。
「さあ、公爵様のお話を聞きましょう」
「はい。聞きます」
俺はガっちゃんを抱っこしたまま、公爵を見る。
「俺はドルツ公爵家三男のノアです」
それから、前にいる二人を見る。
「おじさんたちは、誰ですか?」
「私は、現ドルツ公爵家当主、シオン・ドルツと申します」
シオン公爵は、俺に頭を下げた。
「あなたのお兄様、セレス様の孫の子供です」
「…………」
やっぱり、よく分からない。
「そちらが私の妻、セリーナです」
「よろしくお願いします、ノア様」
「こちらが息子のセロ。そして娘のカノンです」
「はじめまして、ノア様。ドルツ家長男のセロと申します」
「はじめまして、ノア様。ドルツ家長女のカノンでございます」
二人も頭を下げた。
「はい。よろしくお願いします」
俺も頭を下げた。
それから、公爵がいろいろ教えてくれた。
ここは、本当に百年後の世界だった。
俺たちがいなくなってから、百年もたっていた。
この前までは、俺たちは行方不明になっていて、もう死んだと思われていたらしい。
そして、俺たちが帰ってきた道が本当に安全なのか分かるまでは、そこへ行ってはいけない。
しばらくは、外に出るのもダメ。
そして、今の国王様の許しが出れば、俺たちはみんなに会えるらしい。
でも……。
本当に会えるのかな。
俺はガっちゃんをぎゅっと抱きしめた。
百年後の世界。
俺はここで、生きていくことになった。




