66話 100年後
『アロア第二王女が怪我をした!』
あの子供は、確かにそう口にした。
彼らは、百年前に行方不明となっていた王女と、その友人たちだ。
鑑定の結果も出ている。
間違いない。
なぜ今になって、私の部屋の本棚から姿を現したのか。
なぜ、百年の時を経ても年を取っていないのか。
そして、これまでどこを彷徨っていたのか。
いまだ、何一つ分かっていない。
今後のことを考えれば、王女の帰還を手放しで喜ぶことはできないが、王女が生きていたことを心から嬉しく思う。
それでも、王太子としては、この不可思議な出来事を無視するわけにはいかない。
……それが、ひどく心苦しかった。
◇◇◇
目が覚めると、知ってる天井だった。
いつの間にか、家に帰ってきたみたいだ。
ベッドから体を起こす。
横を見ると、クロエが椅子に座って寝ていた。
起こしたら怒るだろうな……。
「夜に出歩くなんて!」
って。
でも、俺が悪いからなぁ……。
俺はクロエの肩をゆっくり揺らした。
「ん……」
クロエが目を開ける。
「………」
「ごめん、クロエ。勝手に夜に外に出てごめん」
クロエは何も言わない。
俺はベッドの上でしゃがんで、頭を下げた。
「お」
お?
「おかーさーん!!」
「!?」
クロエはそう叫ぶと、部屋から走って出ていった。
そして、すぐにたくさんの人が部屋に入ってきた。
知らない執事が、ベッドのそばまで来る。
「ノア様、お目覚めになられましたか」
「え、うん……」
「お加減はいかがですか。頭痛や吐き気などはございませんか?」
「大丈夫……」
「事情をお聞きしたいところではございますが、まずはお身体の確認をいたしましょう」
執事はそう言って、メイドに何か指示をした。
それから、みんなに言った。
「皆、落ち着きなさい。ノア様がお目覚めになったことを旦那様と奥様へ伝えなさい」
みんながバタバタと動き出した。
おばさまのメイドもやってきた。
汗をかいていないか見たり、布団を直したり、水を持ってきたりしてくれた。
「クロエは?」
すると、おばさまのメイドが言った。
「ノア様、申し訳ございません。あれはスフィーと申しまして、私の娘でございます。そしてクロエは、私の曾祖母でございます」
「ん? どういうこと?」
俺は、他のメイドたちと並んで立っているクロエを指差した。
「クロエ、そこにいるよな?」
クロエは困った顔をしている。
執事が頭を下げた。
「ノア様、詳しくは、現ドルツ公爵のお話をお聞きください」
現ドルツ公爵?
「あ! そうだ!」
「お父様は!?セレスお兄様とリアムお兄様は!?」
「帰って来ちゃったんじゃないの!? 俺たち、いなくなっちゃったから!」
「それは……」
クロエのお母様が、執事にこっそり耳打ちをした。
すると執事が俺を見る。
「ノア様。現ドルツ公爵ご一家が揃われました。お着替えいたしましょう」
「うん」
服を見て、俺はびっくりした。
服が簡単になってる。
シャツを着て、ズボンを履くだけだ。
昨日までは、あれを着て、これを着てって、いっぱいあったのに。
着替えが終わったら、お父様たちとご挨拶だ。
広間にいるらしい。
クロエが俺の手を引いて歩いている。
「クロエ、やっぱりお父様たち怒ってる?」
クロエは答えない。
「クロエも怒られた?」
「……」
「ごめんな」
クロエは困った顔をしていた。
それにしても、行き違う使用人たちは、みんな知らない人ばかりだ。
「クロエ、知らない人ばかりいるけど、いつものメイドたちはどこに行ったんだ?」
「申し訳ございません。ノア様……」
クロエは、さっきから「申し訳ございません」しか言わない。
なんでだろう?
部屋の前についた。
覚悟を決めろ!
俺は悪いことをしたんだから。
怒られるのは当たり前だ!
執事がドアを開けてくれる。
中にいたのは。
会ったこともない、見たこともない人たちだった。




