63話 礼拝堂の隠し階段
夜になっても、俺たちの興奮は全然おさまらなかった。
お泊まり会だから、いつもより遅くまで起きていてもいい。
お菓子を食べながら、今日あったことを話したり、明日は何をして遊ぶかを話したりしていたら。
「あの、ちょっとだけ外を探検しませんか?」
レオンが小さな声で言った。
「庭?」
「うん。夜の庭って、見たことないからワクワクします!」
「俺も見たい!」
俺がすぐに答えると、クライヴとローザも頷いた。
アロアだけは少し困った顔をした。
「でも、勝手に部屋を出たら怒られるんじゃ……」
「大丈夫だよ! ちょっと見るだけ!」
結局、みんなでそーっと窓から庭に出た。
昼間とは全然違う庭だった。
月の光で、木や花が白っぽく見える。
「わあ……」
ローザが小さな声を出した。
「昼より暗いです……」
レオンがクライヴの後ろで呟く。
「当たり前だろ」
俺が笑う。
俺たちは庭を歩きながら、昼間の話の続きをしていた。
「雪かきを楽にするもの」
「雪を押す。溶かす」
「確か、広い範囲の雪に自動で水を掛けて溶かす方法があったような……」
「それ、本当ですか!?」
「うー……ん」
「確か、地面に配管が埋め込まれていて、細い水が、こう。ぴゅー!て飛び出して周りの雪を溶かすんだ」
「水だと凍って危ないですよ」
クライヴが答える。
「凍らない水を作るか、凍らないように溶けた水をどこかに流してしまうかしかないでしょうね」
ローザが答える。
そんな話をしているうちに、どんどん庭の奥へ進んでしまった。
気がついた時には、屋敷の明かりも遠くなっていた。
「……あれ?」
俺が後ろを見る。
「俺たち、こんなところまで来たっけ?」
そこは、昼間でもあまり人が来ない庭の奥だった。
大きな木が何本も生えていて、その向こうに古い建物が見えた。
「なんでしょう、あれ?」
レオンが指をさす。
近づいてみると、それは小さな礼拝堂だった。
屋根には蔦が絡まり、壁もところどころ黒ずんでいる。
使われているようには見えなかった。
「こんなところに礼拝堂なんて……」
ローザが驚いた。
「入ってみよう」
扉に手をかける。
ギィィィ……。
古い扉が、大きな音を立てて開いた。
「うわっ!」
俺たちは思わず肩を跳ねさせた。
中は真っ暗だった。
レオンが持ってきた小さなランタンを掲げる。
ぼんやりとした明かりに照らされて、古い長椅子や祭壇が見えた。
空気もひんやりしている。
「……ほこりがいっぱい」
俺が鼻を押さえる。
「使われてないみたいですね」
クライヴが言った。
天井からは細い蜘蛛の巣が垂れている。
壁には、何年も掃除されていないような埃が積もっていた。
「でも、きれい……」
アロアが上を見上げた。
礼拝堂の奥には、大きなステンドグラスがあった。
月明かりがそこから差し込み、床に赤や青や緑の光を落としている。
俺たちはしばらく、その光を眺めていた。
すると。
「……ん?」
レオンがステンドグラスの真下にしゃがみ込んだ。
「どうした?」
「ここ、変じゃないですか?」
レオンが床を指さす。
「え?」
近づいてみる。
ステンドグラスの真下。
そこだけ床の板が少しだけ違っていた。
「この板……外せます」
レオンが手をかける。
カタ。
1枚1枚剥がして行く。
「えっ!?」
「なにこれ!?」
「か、隠し階段……?」
俺たち全員が、開いた床をのぞき込んだ。
そこには。
暗闇へ続く、古い石造りの階段があった。
「……階段だ」
レオンがつぶやく。
誰も、すぐには動かなかった。
暗い階段の先から、冷たい風がふわっと吹き上がってきた。
俺はごくりと唾を飲み込んだ。
「これ……どこに続いてるんだろう?」
誰も答えなかった。
ただ、俺たちは顔を見合わせた。
そして。
みんなの目が、同じように輝いていた。
隠し階段。
それだけで、俺の胸はまたドキドキしてきた。




