60話 雑魚敵令息7歳には難しい。
トリス先生、まだかな?
『何時ごろに行きます』みたいな感じだったから、何時に来るのかはよく分からない。
俺は屋敷にある大きな柱時計の前に立って、時計の針をじーっと見つめていた。
長い針が動く。
……まだかな。
また動く。
……まだかな。
「ノア様。先生がお見えになりましたら、お知らせいたします。お部屋に戻りましょう」
クロエにそう言われた。
「うん……」
仕方なく部屋に戻る。
でも、途中で思いついた。
「……腕時計も作った方がいいな」
時計を見るために、いちいち大きな柱時計のところまで行くのは面倒だ。
『腕時計』
俺は欲しい物リストに、また一つ書き足した。
そんなことをしていると。
「遅れたようですみません」
先生が来た。
時計を見る。
長い針は、もうすぐ十一のところだった。
十時……くらい。
「先生、来た!」
俺はすぐに先生を部屋へ案内した。
お茶を出してもらって、それから俺の欲しい物リストを見せる。
「これが作りたい物リストです!」
「ずいぶんたくさんの思いつきをしましたね」
先生が笑いながら褒めてくれた。
「すごいですね、ノアくん」
「ふふふ」
嬉しい。
いっぱい考えたから、褒めてもらえると嬉しい。
「それと、これも追加しました!」
俺は『腕時計』を指さした。
「腕時計ですか?」
「はい! 小さい時計を手首につけて持って歩けたら便利です!」
「なるほど。確かに便利そうですね」
先生が頷いてくれた。
よし。
腕時計も作る。
俺はそう決めた。
そのあと、俺はテーブルの上にノートを広げた。
「ではノア様。まずは、何を作りたいのかを書いてみましょう」
「えっと……」
俺は少し考えた。
そして、思いついた。
「スマホ!」
あ、でも電気がなければ充電できないし……。
………。
魔法ならいけるんじゃない?
ノートの一番上に、大きな字で書く。
『まほうスマホ』
「その下には、何ができる道具なのかを書きましょう」
「できること……」
俺は鉛筆を持って考える。
それから、思いついたものをどんどん書いていった。
『はなす』
『もじをおくる』
『しゃしんをとる』
『じかんを見る』
『けいさんする』
『ちずを見る』
「いっぱいありますね」
「はい、スマホって色んなことができるんです!」
「では、どうして作りたいのですか?」
「どうして……?」
俺は首をかしげる。
先生は笑っている。
「何のために必要なのか、ということです」
「うーん……」
俺は鉛筆を持ったまま、ずっと考えた。
スマホがあったら便利だから。
それだけでもいい気がする。
でも、先生が待っている。
だから、もっと考えてみる。
そして、ゆっくり書いた。
『とおくの人とはなしたい』
『しゃしんをとりたい』
『べんりだから』
「とても大切なことですよ」
先生が笑った。
「次は、それぞれをどうやって魔法で作るか考えてみましょう」
「魔法で……」
俺は目を輝かせた。
でも。
「……先生」
「はい」
「どんな魔法があるのか、分かりません」
「それなら、本を読んだり、人に聞いたりして調べればいいのです」
「調べる!」
それならできる。
◇◇◇
俺たちは図書室へ行った。
大きな本棚がいっぱい並んでいる。
先生が魔法について書いてある本を何冊も選んでくれた。
最初の本は、
『魔法学入門』
魔力って何なのか。
魔法はどうやって使うのか。
魔力はどうやって流れるのか。
……らしい。
次は、
『魔法陣基礎大全』
魔法陣の書き方。
魔法に命令する方法。
いくつかの魔法を一緒に使う方法。
……らしい。
次。
『魔石・魔力結晶図鑑』
魔石にはいろんな種類がある。
魔力をためられるものもある。
魔力を取り出す方法も書いてある。
魔石をもう一度使えるようにする方法もある。
……。
「…………」
次の本。
『通信魔法の基礎』
遠くに魔法を届ける方法。
声を送る魔法。
魔道具と魔道具をつなぐ方法。
「これ、いる!」
俺は本を指さした。
スマホで話すなら、絶対に必要だ。
次は、
『記憶魔法と記録魔道具』
文字や映像を魔法で保存する方法。
記憶結晶について。
「写真に使えるかも」
さらに、
『音響魔法大全』
音を記録する。
音を出す。
音を遠くに送る。
「これもいる……」
次は、
『光魔法応用』
光を出す。
光を動かす。
光を記録する。
「写真と画面に使えるかも!」
そして最後。
『魔導具製作・設計指南書』
「…………」
本を開く。
読む。
少し読む。
また読む。
「…………」
頭が痛くなってきた。
「先生……」
「はい」
「これ、難しいです……」
先生は少し笑った。
「最初から全部分からなくても大丈夫ですよ。分からないところを見つけることも、勉強です」
「そうなのですか?」
「はい」
それならいい。
分からないところがいっぱいあっても、別に失敗じゃない。
俺は本を閉じて、自分のノートを開いた。
◇◇◇
部屋に戻って、もう一度ノートを見る。
「じゃあ、電池は魔石で作ります」
「良いですね」
「画面は表示魔法」
「はい」
「声を送るのは……通信魔法」
どんどん思いつく。
俺は急いでノートに書いていった。
『魔石』
『表示魔法』
『通信魔法』
『記憶する魔法』
『写真をとる魔法』
「いっぱい書けた!」
でも。
鉛筆が止まった。
「……先生」
「はい」
「通信魔法って、どうやって遠くまで届けるんですか?」
先生は少し考えてから言った。
「それを考えるのが発明ですよ、ノアくん」
「うー……」
難しい。
すごく難しい。
でも……。
なんだか楽しい。
分からないことを考えるのって、ちょっと面白い。
俺はノートに新しいページを作った。
『わからないこと』
その下に、思いついたことを書く。
『どうやって遠くまで声をおくる?』
『どうやって写真を記憶する?』
『魔石はどのくらい使える?』
『どうやって小さくする?』
「いっぱいある……」
俺が言うと、先生が笑った。
「一つずつ考えていけばいいのです」
「一つずつ……」
俺はノートを見る。
最初は、ただスマホを作りたいと思っていただけだった。
でも、こうやって書いてみると、いっぱい考えないといけない。
魔法も調べないといけない。
材料も探さないといけない。
どうやって小さくするのかも考えないといけない。
「……よし!」
俺はノートの一番下に、大きな字で書いた。
『まずは、はなすところから作る!』
「これでいいですか?」
「はい。とても良いと思います」
「えへへ」
嬉しい。
俺は鉛筆をぎゅっと握った。
一個ずつ。
分からないことを調べて、一個ずつ作っていけばいい。
俺は欲しい物リストを見る。
『腕時計』
まだ消えていない。
『魔法スマホ』
これもまだ。
でも。
「いつか絶対、作るぞ!」
俺はそう言って、またノートに新しいページを作った。




