59話 ああ、夏休み
夏休みが始まった。
今年はお父様も、セレスお兄様も、リアムお兄様も、みんな予定があって忙しいんだって。
だから夏休みの間、公爵家には俺一人になる。
一人で避暑地に行かせるわけにもいかないから、今年はどこにも出かけないらしい。
暇だ……。
すごく暇だ……。
「あーあ……」
避暑地に行って、すぐに帰ってこられたらいいのにな。
俺一人でも行けたのかな?
バスがあればなぁ。
電車もあればいいのに。
バスなら乗っているだけで遠くまで行ける。
電車ならもっと速い。
……。
「作るか」
俺は壁に貼ってある『欲しい物リスト』を見た。
少し前に、ジーナお姉様に言われたのだ。
何か思いついても、すぐに作ろうとしないで、まず紙に書いてほしい。
どんな物なのか。
何ができるのか。
何を使って作るのか。
どうやって作るのか。
ちゃんと紙にまとめてほしいんだって。
だから、俺が欲しい物をいっぱい書いてある。
『色えんぴつ』
『クレヨン』
『電気』
『子供用のフォークとナイフ』
『子供用の椅子』
『バス』
『電車』
『自転車』
『掃除機』
『洗濯機』
『冷蔵庫』
『テレビ』
『エアコン』
『ゲーム機』
『公園』
『スマホ』
『ノート』
『電子レンジ』
……。
18個。
いっぱいあるな。
家の中を歩きながら、「これも欲しい」「あれも欲しい」と思った物をどんどん追加していたら、こんなにいっぱいになってしまった。
でも、今一番欲しいのはやっぱり『スマホ』だ。
電話もできる。
写真も撮れる。
地図も見られる。
動画も見られる。
知らない言葉も調べられる。
何でもできる。
次に欲しいのは『エアコン』。
魔道具でも部屋を涼しくすることはできる。
でも、それは貴族の部屋にあるものだ。
クロエたち使用人の部屋にはない。
『電気』もそうだ。
俺たちがいる部屋は魔道具で明るくできる。
でも、使用人たちはロウソクやランプを使っている。
孤児院もそうだ。
だから、みんなが使える『電気』があったらいいなと思う。
その次が『自転車』。
その次が『バス』。
『電車』。
……。
「あれ?」
俺は床を見た。
紙がいっぱい落ちている。
考えたことを書いているうちに、紙がバラバラになっていた。
風が吹くと、ひらひら飛んでいく。
「やっぱりノートが欲しいかも……」
クロエが言っていた。
『ノート』は、この国にもある。
でも高いんだって。
お父様だって使っていないらしい。
そんなに高いのか。
俺はクロエにお願いしてみた。
紙を何枚も重ねて、半分に折る。
それから折ったところに糸を通す穴を開けてもらう。
そこを糸で縫ってもらった。
最後に、はみ出しているところをきれいに切ってもらった。
「できた!」
簡単だけど、ちゃんとノートになった。
パラパラ。
紙をめくってみる。
いい。
風が吹いても、紙が飛んでいかない。
「やっぱりノートって便利だな!」
これなら思いついたことをいっぱい書ける。
それから『カレンダー』も作った。
カレンダーはこの国にもある。
でも、俺が知っているカレンダーとはちょっと違う。
『何月何日はアローナ様の誕生日』
『何月何日は収穫祭』
みたいに、大事な出来事が書いてあるだけなのだ。
自分の予定を書くところはない。
だから、日付を書いて、その下に予定を書く場所を作った。
これで、
「明日は何するんだっけ?」
ってならない。
さらに俺は考えた。
「ノートとカレンダーを一緒にしたらもっと便利じゃない?」
そうして『手帳』も作った。
執事のセルジオが、
「私もこれを作ってもよろしいでしょうか?」
と聞いてきたので、
「いいよ!」
と答えた。
お父様の分。
お兄様たちの分。
お姉様たちの分。
アロアたちの分。
先生の分。
みんなの手帳も作った。
あとで、みんなから手紙が届いた。
『ありがとう』
って書いてあった。
嬉しい。
俺も、
「どういたしまして!」
って返事を書いた。
でも、ここで困った。
考えていることを紙にまとめるのって、難しい。
頭の中では分かっているのに、紙に書こうとすると分からなくなる。
何から書けばいいんだろう?
どれを先に書けばいいんだろう?
うーん……。
分からない。
だからトリス先生に手紙を書いた。
『考えたことを紙にまとめるのが難しいです』
って。
そうしたら先生から返事がきた。
『それなら、私がそちらへ行って一緒にまとめましょう』
だって。
やった!
アロアたちにも手紙を書いた。
『今、こんなことをしているよ』
って。
そうしたら、
『私たちも手伝いたいです』
って返事がきた。
みんな来てくれる。
俺はクロエに相談した。
「じゃあ、一泊二日のお泊まり会をしよう!」
クロエも、
「皆様がお越しになるのでしたら、準備いたしましょう」
と言ってくれた。
俺は招待状を書いた。
少しだけ字をきれいに書いた。
『みんなでいっしょに考えたいです』
『お泊まり会をしませんか?』
すると、すぐにレオンから手紙が届いた。
『行きます! やりたいです!』
……。
返事が早い。
アロアたちからも、
『ぜひ参加させていただきます』
と返事が来た。
よかった。
みんな来てくれる。
一人で暇だった夏休みが、急に楽しみになった。
早くその日にならないかなぁ。




