54話 先生、年号は覚えないとダメですか?
「人をまとめるのが、とても上手な方だったのです」
人をまとめるのが上手だと、人に恨まれない!?
俺は首をかしげた。
「でも……国を取られた人は、怒らないんですか?」
「もちろん、怒った人もいたでしょう」
「じゃあ、やっぱり反乱するんじゃ……」
「そこで初代国王は、あることをしました」
「彼は国を一つにしたからといって、昔の国のものを全部なくしたわけではないのです」
「どういうことですか?」
「それぞれの町の領主や貴族を、そのまま残したのです」
「えっ?」
「もちろん、王国全体を治める王は必要です。しかし、それぞれの土地のことは、その土地の人間が一番よく知っています」
先生は黒板に、
『王』
『領主』
と書いた。
「王は国全体を守る」
「領主は自分の土地を守る」
「そんなふうに役割を分けました」
「じゃあ、国を取られたっていうより……」
俺は少し考える。
「みんなで大きな国を作った?」
「そうです」
「でも、王様が一番偉いんですよね?」
「はい」
「じゃあ、昔の七つの国の王様は?」
「王ではなく、公爵や侯爵などになりました」
「王様じゃなくなっちゃったんだ……」
「ですが、土地や家を全部取り上げられたわけではありません」
「なるほど……」
それなら、ちょっと納得できる。
もし俺の家を守るためにレオンと勝負して負けたとき、
『今日から俺の家ですから、全部置いて出ていって下さい』
なんて言われたら、絶対に嫌だ。
嫌だ!ってなる。
でも、
『今日からもっと大きな家族になりましょう!』
だったら……。
「それなら、まだマシかも」
「そういうことです」
先生が笑った。
「そして初代国王は、もう一つ大切なことをしました」
「はい」
先生は黒板に新しく文字を書く。
『約束』
「七つの国が一つになるとき、それぞれの土地の人々が安心して暮らせるように、たくさんの約束を決めました」
「約束?」
「税金を勝手に増やさないこと」
「領主が好き勝手に人を捕まえないこと」
「商人が安全に国中を行き来できること」
「困ったときは、お互いに助けること」
俺は黒板を見ながら指を折る。
「いっぱいある……」
「ですが、その約束があったからこそ、七つの国の人々は安心できました」
「だから反乱しなかった?」
「それも理由の一つでしょう」
「人は、自分が大切にしているものを奪われたときに怒ります」
「逆に言えば、大切なものを守ってもらえるなら、今までと違う形でも受け入れられることがあります」
「うーん……」
俺は頭をひねった。
「じゃあ、初代国王様は……」
俺は黒板の『約束』を見る。
「みんなから何かを奪うんじゃなくて、みんなが安心できるものを作ったって事ですか?」
「その通りです」
先生は嬉しそうに笑った。
「だから、初代国王は強い人だったのです」
「剣が?」
「いいえ」
「魔法?」
「それも違います」
「じゃあ……頭がすごく良かった?」
「それもありますね」
「じゃあ何ですか?」
先生は少しだけ考えてから答えた。
「人が何を望んでいるのかを考えられる人だったのです」
「…………」
俺は黒板を見る。
七つの小さな丸。
それを囲む、一つの大きな丸。
「王様って、戦いが強いだけじゃダメなんですね」
「ええ」
「みんなにこうしろ!って言うことを聞かせるんじゃなくて……」
俺は考えながら言った。
「みんなが『この王様と一緒にいたい』って思えるようにしたんですね」
先生は少し驚いた顔をした。
それから、にっこり笑った。
「とても良い答えです」
「ふふふ……」
歴史って、ただ昔のことを覚えるだけじゃないのかもしれない。
ちょっとだけ面白くなってきた。
……でも。
「先生」
「なんでしょう?」
「年号は覚えないとダメですか?」
「もちろんです」
「…………」
やっぱり歴史、嫌いかもしれない。




