49話 『第一回』ピクニック大会
「ヴァああああ!!」
「嫌だ! 嫌だ!」
「俺もみんなと初等部に行きますのでえええ!!」
レオンが、だん! だん! と足を踏んで泣いている。
俺とクライヴとローザとアロアは、明日には幼稚舎を卒園する。
そして、初等部の一年生になる。
だから、もう幼稚舎には来ない。
それを聞いたレオンは、すごくびっくりして、それからずっと泣いていた。
「レオン、泣かないで」
「大丈夫ですよ」
「来年になれば、レオンも初等部に行けますわ」
俺達がいっぱい声をかけても、レオンは、
「嫌だあああ!」
と泣くばかりだった。
メイド達も困った顔をしている。
レオンのお母様も、レオンの頭をなでたり、抱っこしたりしている。
でも、ぜんぜん泣きやまない。
「来年になったら、ちゃんと会えるだろ?」
俺がそう言っても、
「来年じゃ嫌なんですうう!」
と言われた。
うーん……。
どうすればいいんだ?
結局、レオンのお母様が、
「今日はもう帰りましょうね」
と言って、レオンを連れて帰っていった。
レオンは帰るときも、
「嫌だあああ!」
と泣いていた。
馬車が見えなくなるまで、俺達はみんなで見送った。
「仕方のないこととはいえ……ちょっと可哀想ですわね」
ローザが小さな声で言った。
「ときどき幼稚舎に遊びに来ましょう」
クライヴが言う。
「そうすれば、レオンも寂しくないかもしれません」
「でも……」
アロアが下を向く。
「私まで悲しくなってきました……」
アロアの目に、涙が少しだけたまっている。
「アロア……」
俺も胸がぎゅっとなった。
俺だって、みんなと毎日会えなくなるのは嫌だ。
今まで一緒に遊んでいたのに、急に会えなくなるのは寂しい。
うーん……。
何かできないかな?
俺は少し考えた。
そして、ぽん! と思いついた。
「じゃあ、うちの庭でピクニックするか?」
「ピクニック?」
クライヴが首をかしげる。
「うん。庭に敷物を敷いて、寝転んで本を読んだり、釣りしたり、サンドイッチとかクッキーとか食べるんだ」
「それは楽しそうですわね」
ローザの顔が明るくなった。
「それなら、レオンにも『もう会えなくなるわけじゃない』って分かってもらえるかもしれませんね」
クライヴも笑った。
「じゃあ、レオンが初等部に行くまで、月に一回くらいお茶会をするのはどうでしょう?」
「いいですね!」
アロアが手を上げる。
「私、レオンの好きなモンブランを持って行きます」
「じゃあ、俺はいっぱい遊べる場所を用意する!」
「私は絵本を持参しますわ」
「僕は……何か面白いものを探してきます」
みんなで話していたら、なんだか楽しくなってきた。
これならレオンも喜んでくれるかもしれない。
「よし! じゃあ招待状を書こう!」
◇◇◇
俺は机の前に座っていた。
机の上には、四枚の紙が並んでいる。
「これでいいか?」
「はい。とても綺麗に書けていますよ」
クロエが笑った。
俺は一生懸命、招待状を書いた。
ちょっと字が曲がったところもある。
でも、ちゃんと書いた。
招待するのは、レオン、クライヴ、ローザ、アロアの四人だ。
なんだか楽しみになってきた。
◇◇◇
ピクニックの日。
最初に来たのはレオンだった。
門の向こうから馬車が見える。
「来た!」
俺は庭から走って行こうとした。
だけど、
「ノア様、お待ちください」
クロエに止められた。
「お客様を迎えるときは、走ってはいけませんよ」
「……あ」
そうだった。
俺はぴたっと止まった。
「はい」
背中をぴん! と伸ばす。
門が開いた。
レオンが侍女と一緒に歩いてくる。
「ノア様!」
レオンも俺を見つけて笑った。
俺はレオンの前まで歩いていって、ぺこっと頭を下げる。
「レオン、今日は来てくれてありがとう」
「こちらこそ、招待してくれてありがとうございます!」
「今日はいっぱい遊ぼうな!」
「はい!」
レオンの顔が、ぱあっと明るくなった。
よかった。
泣いてない。
「まずは俺の部屋で、みんなが来るのを待とうな」
「はい!」
俺達は手をつないで屋敷の中へ入った。
◇◇◇
次に来たのはクライヴだった。
「ノア様」
「クライヴ!」
俺は今度こそ走りそうになった。
でも、途中で思い出した。
「……歩かなきゃ」
「ふふっ」
クライヴが笑った。
俺はちゃんと歩いて、クライヴの前まで行く。
そして、ぺこっと頭を下げた。
「クライヴ、今日は来てくれてありがとう」
「こちらこそ。招待していただいて嬉しいです」
「レオンも来てるぞ!」
「きっと喜んでいるでしょうね」
「うん!」
俺達は顔を見合わせて笑った。
「じゃあ、一緒に行こう!」
「はい」
◇◇◇
三人目はローザだった。
ローザの馬車が門の前に止まる。
今度は走らない。
えらいぞ、俺。
馬車の扉が開いて、ローザが降りてくる。
「こんにちは、ローザ!」
「こんにちは、ノア様」
ローザはスカートをつまんで、綺麗にお辞儀をした。
俺も急いでお辞儀をする。
「今日は来てくれてありがとう!」
「こちらこそ、素敵な招待状をありがとうございました」
ローザが招待状を見せてくれた。
「あ!」
俺は思わず近づいて見る。
「香水をシュッ! ってしてみたんだ!」
「ふふ。ラベンダーの良い香りがしますわ」
「本当?」
「はい。とても素敵です」
招待状から、まだ少しだけいい匂いがする。
俺は嬉しくなった。
「よかった!」
ローザも笑ってくれた。
◇◇◇
最後に来たのはアロアだった。
門の向こうに馬車が見える。
「あ! アロアだ!」
俺は走ろうとした。
でも、クロエが後ろから言った。
「ノア様?」
「……歩く!」
俺は急いで歩いた。
馬車が止まって、アロアが降りてくる。
「ノア様。本日はお招きいただき、ありがとうございます」
「アロア、来てくれてありがとう!」
俺は嬉しくて笑った。
「もうみんな揃ってるぞ!」
「はい!」
◇◇◇
四人が揃った。
俺達は、お仕事をしているお父様のところへ行って、みんなで挨拶をした。
お父様は俺達を見ると、優しく笑った。
「アロア王女殿下。本日はノアの招きに応じていただき、誠にありがとうございます」
「クライヴ、レオン、ローザも。よく来てくれたな」
クライヴが少し緊張した顔で頭を下げる。
「今日は招待していただき、ありがとうございます」
レオンは、
「ありがとうございます!」
と元気いっぱいに頭を下げた。
ローザも綺麗にお辞儀をする。
「ありがとうございます」
そしてアロアが、
「ありがとう、公爵。ノア」
と言った。
王女様なのに、俺にもお礼を言った。
「うむ。今日はゆっくり遊んでいくといい」
「「はい!」」
俺達は元気に返事をした。
「行こう!」
俺が言うと、みんなが笑った。
◇◇◇
俺達は馬車に乗って、広い庭を走った。
庭はとっても広い。
馬車が走ると、
「わああ!」
と風が顔に当たる。
気持ちいい!
そして、湖の近くまで行った。
そこには大きな敷物が敷いてあった。
その上には、サンドイッチや果物、焼き菓子、ジュースがいっぱい並んでいる。
「わあ!」
レオンが声を上げた。
「すごい!」
クライヴも目を大きくしている。
ローザは近くに咲いている花を見て、
「綺麗……」
と呟いた。
アロアも嬉しそうに笑っている。
俺はみんなを見る。
今日はいっぱい遊ぶ。
いっぱい食べる。
そして、いっぱい笑う。
レオンが寂しくならないようにするんだ。
俺は立ち上がって、大きな声で言った。
「レオン、みんな!」
「はい!」
「今日は『第一回』ピクニック大会だ!」
「第一回?」
レオンが首をかしげる。
「うん! 第二回も第三回もやるぞ!」
「本当ですかぁ!」
レオンが笑った。
「本当だ!」
俺も笑った。
「みんな今日は来てくれてありがとう!」
「はい!」
「何して遊びますか?」
みんなが一斉に話し始める。
「釣り!」
「かけっこ!」
「本を読みたいですわ」
「お菓子も食べましょう!」
「釣りもかけっこも何でもできるぞ!」
俺も負けないように大きな声で言った。
「何でもできる!」
「俺、釣りやりたいです!」
レオンが元気いっぱいに手を上げた。
「僕もやりたいです」
クライヴも手を上げる。
「私はアロア様と本を読んでいますわ」
メイド達が持つ何冊かの本を選んでいる。
アロアも、
「はい!」
と嬉しそうに頷いた。
春の風が、ふわっと吹いた。
花がゆらゆら揺れている。
俺達は、それぞれ好きなことをして遊ぶことにした。
今日はまだ、難しい話はしない。
まずは、みんなでいっぱい遊ぶ。
だって今日は、楽しいピクニックの日なんだから。




