41話 絵本が完成した
「よーし!」
俺は勉強机の上に大きな紙を広げた。
「次は、誰でも覚えられる本を作るぞ!」
「本、ですか?」
クライヴが首をかしげる。
「うん!」
俺は大きく頷いた。
「点字と手話を知らない人でも、これを読めば分かる本!」
「でも、どうやって?」
レオンが聞いてくる。
「…………」
俺は止まった。
「どうやってだろう?」
「考えがあるのではないのですか?」
アロアが笑う。
「うーん……」
俺は腕を組んだ。
「まず、難しい言葉を使わない!」
紙に大きく書く。
『かんたん!』
「それから、絵をいっぱい入れる!」
「絵本なら子供でも分かりますね」
ローザが頷いた。
「そう!」
俺は手の絵を描いた。
「この手の形をしてね!」
その横に大きく文字を書く。
『あ』
「これなら分かる!」
「確かに」
クライヴが頷く。
「でも、手の形だけじゃなくて、動きもありますよね?」
「そうだった!」
俺は慌てて、手の横に矢印を描いた。
「こう動かす!」
「矢印が分かりにくいかもしれません」
ローザが言う。
「じゃあ、手の絵を三つ描く!」
「三つ?」
「最初!」
一つ目。
「ここ!」
二つ目。
「それからここ!」
三つ目。
「最後!」
「なるほど!」
レオンが声を上げる。
「これなら動きが分かる!」
俺は嬉しくなった。
「決まり!」
◇◇◇
最初のページ。
『てで はなそう!』
大きな手の絵。
その下に、
『みんなで つかえる おはなしの ほうほう』
と書いた。
「どう?」
俺が聞く。
「いいと思います」
ローザが頷く。
「でも、『手話』という言葉も書いたほうがよいのでは?」
「あ!」
俺は追加する。
『てで はなそう!』
『これを「しゅわ」っていうよ!』
「これなら、小さい子にも分かりますね」
『こんにちは』
『ありがとう』
『おはよう』
『ごめんなさい』
『はい』
『いいえ』
『おなまえは?』
まずは、毎日使う言葉から。
そして、その横に手話の絵を描く。
「これは絶対必要!」
俺が言ったのは、
『たすけて』
だった。
「困ったときに言える言葉だから」
「大事ですね」
アロアが軽く微笑んで言った。
◇◇◇
次は指文字だった。
「手話で分からない言葉があったら、指文字を使うんだよ」
俺は説明する。
「例えば、人の名前!」
『ノア』
『クライヴ』
『アロア』
『レオン』
『ローザ』
「一文字ずつ指で作れば、知らない名前でも伝えられる!」
ローザが表を整理する。
「あいうえお……」
クライヴが手の絵を描く。
レオンが実際に手を動かして試す。
アロアは、子供が覚えやすいか確認する。
「これ、ちょっと難しいです」
「じゃあ変えよう!」
「こっちは簡単です」
「じゃあ、こっち!」
何度も書き直した。
◇◇◇
そして最後は点字。
「今度は目が見えない人のための本!」
俺は点字器を勉強机に置いた。
「まず、点字は指で触って読む!」
ローザが大きな絵を描く。
目の絵。
その横に指の絵。
そして、ポコッと出た点。
「この本には、普通の文字だけじゃなくて、点字も入れよう」
「本そのものに点字を付けるのですか?」
「うん!」
でも、そこで問題が出た。
「……どうやって本に点字を付ける?」
みんなで考える。
「紙に直接ポツポツを作る?」
「本が分厚くなりそう」
「じゃあ別の紙にする?」
「それなら触りやすいかも」
「点字の本と、普通の本を一緒にしたら?」
いろんな意見が出た。
最後には、
目で読む文字と、指で読む点字を両方載せた本
を作ることになった。
「これなら、目が見える人も点字を覚えられる!」
俺は嬉しくなった。
「それに、目が見える人と見えない人が同じ本を読める!」
「それは素敵ですね」
アロアが微笑んだ。
◇◇◇
何日もかけて、何度も作り直した。
文字が小さすぎる。
絵が分かりにくい。
手話の動きが分からない。
指文字が覚えにくい。
点字の位置がずれている。
失敗するたびに、
「やり直し!」
と言って作り直した。
そして――。
「できた!」
俺たち五人の前に、一冊の本が置かれた。
表紙には大きな文字で、
『みんなで おはなし!』
と書いてある。
その下には、手話をする手の絵。
さらに裏側には、点字も付いている。
俺は本を抱きしめた。
「これなら、子供でも大人でも覚えられる!」
クライヴが笑う。
「僕たち、すごいもの作リマしたね!」
「うん!」
レオンも嬉しそうだ。
ローザは完成したページを一枚ずつ確認している。
アロアは本を開いて、
「最初から読んでみます」
と言った。
俺はみんなを見た。
最初は俺一人だった。
でも今は違う。
アロアがいて。
クライヴがいて。
レオンがいて。
ローザがいる。
そして、孤児院の子供たちやシスターたちも手伝ってくれた。
「この本、いっぱい作ろう!」
俺が言う。
「うん!」
「たくさん作ろう!」
「王都中に配ろう!」
「もっと遠くにも届けましょう!」
みんなが口々に言った。
俺は本をぎゅっと抱きしめる。
「いつか、どこの町に行っても……」
俺はまだ見ぬ町を想像した。
「目が見えない人も、耳が聞こえない人も、みんなとお話しできるようになったらいいな」
そのための最初の一冊が――。
俺たちの手の中に完成した。




