37話 ちょっと失敗した
結局、あれこれ考えても手話は作れなかった俺は、ジーナお姉様に相談した。
ジーナお姉様は、
「ならば実際に聴覚障害の子に話を聞いてみましょう」
と言った。
翌日。
俺はジーナお姉様とアロアと一緒に孤児院へ来ていた。
「こんにちは!」
たくさんの子供たちが集まってくる。
その中に、一人だけ静かにこちらを見ている男の子がいた。
「この子、耳が聞こえないの」
近くにいた子が教えてくれた。
俺はその子の前にしゃがむ。
「こんにちは!」
返事がない。
「こんにちは!」
今度は大きな声で言った。
それでも返事がない。
俺は首をかしげた。
「しゃべれない……?」
男の子は俺の顔を見ている。
俺は持って来た紙に字を書いた。
『こんにちは』
すると男の子が口を動かした。
「……お……ん……」
「あ!」
声が出た。
でも、俺が言った「こんにちは」とは少し違う。
「……うぉ、ん……い……」
「?」
俺は紙に書いて聞いてみた。
『ちゃんと話せないの?』
男の子の動きが止まった。
「…………」
俺も止まった。
その瞬間、ジーナお姉様が俺の肩に手を置いた。
「ノア」
「なに?」
「その聞き方は、少し失礼ですよ」
「……え?」
俺は男の子を見る。
男の子は俯いていた。
「でも……」
俺は困った。
「だって、言葉が上手に聞こえなかったから……」
ジーナお姉様は優しく説明してくれた。
「ノア。あなたは今、この子が『話せない』と思いましたね?」
「……はい」
「でも、この子は今、あなたに『こんにちは』と言おうとしていました」
「…………」
「声が上手に出せないからといって、お話ししたい気持ちまでなくなるわけではありません」
俺は男の子を見る。
さっきの声を思い出す。
「……お……ん……」
あれは、俺に話しかけようとしていたんだ。
『……ごめんなさい』
俺は男の子の前で頭を下げた。
『俺、間違えた』
男の子が顔を上げる。
『話せないんじゃなくて……』
俺は一生懸命考える。
『話すのが、大変なんだよね?』
男の子は少し驚いた顔をした。
それから、こくんとうなずいた。
「そっか……」
『声を出すことはできる』
男の子がうなずく。
『でも、自分では声が聞こえないから、どんな音になってるか分からない』
また、うなずく。
俺はようやく理解した。
『じゃあ、耳が聞こえないからって、お話しできないわけじゃないんだね?』
ジーナお姉様が微笑む。
「そういうことです」
俺は男の子に向き直った。
『ごめんね』
もう一度謝る。
今度は男の子が笑った。
そして、ゆっくり口を動かした。
「……うぁ……い……お……ぶ」
『大丈夫?』
こくん。
俺も笑った。
『ありがとう!』
でも――。
俺はまた考える。
声を出すことが大変なら。
紙に書く方法もある。
でも、紙やペンがないときは?
それに、今みたいにみんなで話したいときは?
「……やっぱり」
俺は両手を見る。
「手でお話しする方法が必要だ」
「手で?」
アロアが聞く。
「うん!」
俺は両手を動かしてみる。
「手の形とか動かし方を決めるんだ!」
男の子が俺の手を見る。
俺は慌てて付け足した。
「でも、俺が勝手に決めちゃダメかな」
「どうして?」
「だって、実際に使うのは俺じゃないから」
ジーナお姉様が嬉しそうに笑った。
「その通りですね」
俺は男の子を見る。
『一緒に考えてくれない?』
男の子は少し驚いたあと――。
にっこり笑って、うなずいた。
そして、自分の手を差し出した。
俺も手を出す。
ぎゅっ。
二人の手が重なった。
「よーし!」
俺は笑った。
「みんなで、手を使ってお話しする方法を作ろう!」
すると、周りで見ていた子供たちが一斉に集まってきた。
「私もやる!」
「僕も!」
「どんなの?」
「俺にも教えて!」
アロアも嬉しそうに笑う。
「私も参加する!」
ジーナお姉様はそんな俺たちを見ながら、静かに微笑んでいた。
俺は思った。
点字のときもそうだった。
困っている人のために作るなら、困っている人の話をちゃんと聞かないといけない。
俺はまだ6歳だから、知らないことがいっぱいある。
だから――。
「まずは、いっぱい聞こう!」
俺は紙を広げた。
「この子たちが、どうやってお話ししたいのか!」
今度こそ。
一人で決めない。
みんなと一緒に作るんだ。




