36話 ノアは忙しい
これで目が見えない人でも手紙や本が読めるぞ!
俺は安心した気持ちでベッドに横になった。
………。
あれ?
大変な事に気づいたかもしれない……。
耳が聞こえないだけの人には『てんじ』いらなくない?
見えてるんだもん。
自分で読めるよ。
じゃあ、どうやって話ししてんの?
いちいち紙に書いてんの?
お金が無い人が?
たっかい紙とペンとインクを持ち歩いてんの?
「?????」
そういえば、前世では手の指で形を作って話しをするテレビがやってた気がする。
………。
明日にしよう。
俺は眠る事にした。
◇◇◇
次の日の朝。
俺は朝ごはんを食べながら、ずっと考えていた。
やっぱり気になる。
耳が聞こえない人は、どうやってお話ししているんだろう?
俺はリアムお兄様に聞いてみることにした。
「ねえ、リアムお兄様」
「ん? どうした?」
「耳が聞こえない人って、どうやってお話しするの?」
「どうやって、とは?」
「だから……」
俺は少し考える。
「耳が聞こえない人同士で、お話しするとき!」
「普通に話すんじゃないかな?」
「え?」
「耳が聞こえないだけなら、声は出せるだろう?」
「あ……」
そうだった。
耳が聞こえないからって、声が出せないとは限らない。
「じゃあ、二人とも耳が聞こえなかったら?」
「……うーん」
リアムお兄様も考える。
「口の動きを見たり、身振りを使ったりするんじゃないかな?」
「身振り?」
「そうだ。指をさしたり、手を動かしたりして伝える」
「でも、それだけじゃ難しくない?」
「確かにね」
リアムお兄様は少し考えてから続けた。
「文字が書ける者なら、紙に書いて見せることもあるよ」
「やっぱり紙かぁ……」
俺はちょっと困った。
「でも、紙って高いよね?」
「まあ、安いものではないね」
「ペンもいる?」
「いるね」
「インクも?」
「必要だね」
「じゃあ、ずっと持って歩くの?」
「……そうなるね」
俺はパンをかじりながら考える。
やっぱり大変だ。
「やっぱり、紙がないとお話しできないよね?」
「身振りで表現するしかないね」
「でも、いっぱいお話ししたいときは?」
「…………」
リアムお兄様が黙った。
「たしかに、難しいな」
「でしょ!」
俺は立ち上がった。
「だからね!」
俺は両手を動かしてみせる。
「手でちゃんとお話しする方法があると思うんだ!」
「手で?」
「うん!」
前世で見たことがある。
テレビだった。
手を動かして、いろんなことをお話ししていた。
でも……。
「どんな形だったっけ?」
俺は自分の手を見る。
指を開いたり、閉じたりする。
「こう?」
「……何をしているんだ、ノア?」
「分かんない!」
「分からないかぁ……」
リアムお兄様が苦笑する。
「でも、手で話す方法は作れると思う!」
「作る?」
「うん!」
俺は大きくうなずいた。
「手の形を決めるの!」
「例えば?」
「えっと……」
俺は考える。
「これが『水』!」
手を動かす。
「これが『食べる』!」
また手を動かす。
「これが『ありがとう』!」
「……なるほど」
リアムお兄様が俺の手を見る。
「同じ動きをしたら、同じ意味になるようにするのか?」
「そう!」
俺は嬉しくなった。
「それなら、紙もペンもいらない!」
「確かに」
「耳が聞こえない人でも、お話しできる!」
「それは便利そうだな」
リアムお兄様が笑う。
「でもノア」
「なに?」
「一つ問題がある」
「?」
「誰が、その『手の言葉』を教えるんだ?」
「…………」
俺は固まった。
「……俺?」
「お前が考えたんだから、お前が教えることになるんじゃないか?」
「……たいへんだ」
俺は椅子に座り直した。
でも、すぐに顔を上げた。
「よし!」
「もうやるのか?」
「うん!」
俺は両手をぎゅっと握った。
「今度は、手でお話しする方法を作る!」
リアムお兄様が笑った。
「ノアは本当に忙しいな」
「だって、必要なんだもん!」
俺はそう言って、さっそく紙を取り出した。
今度は――。
手でお話しするための表を作るんだ!




