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悪役令息のほしいものリスト  作者: ボアの本棚


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35/68

35話 てんじ会議


「……じゃあこれ、もういらないんだ」


俺はテーブルの上に置かれた点字表を見ながら、しょんぼりした。


ジーナお姉様は、もう目が見える。


耳も聞こえるようになった。


神官様が治療してくれたからだ。


俺はジーナお姉様に手紙を読んでもらいたくて、一生懸命に点字を作った。


点字表を作って。


点字器を作って。


何回も失敗して。


やっと使えるようになった。


でも、その時にはもう必要なくなっていた。


「俺、何のために作ったんだろう……」


「ノア」


ジーナお姉様が俺の名前を呼ぶ。


「はい」


「この点字というものは、私のためだけに作ったのですか?」


「……うん」


「では、私のように治療を受けられない人がいたら?」


「え?」


ジーナお姉様は、ゆっくりと俺の作った点字表を手に取った。


「神官様の治療を受けられる人ばかりではありません」


「…………」


「治療を受けるお金がない人もいます」


俺は何も言えなかった。


「目が見えなくなって、神殿まで行けない人もいるでしょう。ポーションを買うお金がない人もいるでしょう」


ジーナお姉様は点字表を見つめる。


「そういう人たちは、目が見えないというだけで、文字を読むことも難しくなります」


「……そっか」


「ですが、この点字なら違います」


ジーナお姉様が、六つの点に指を置く。


「目が見えなくても、指で文字を読むことができる」


「うん」


「つまりこれは、私のためだけのものではありません」


ジーナお姉様が俺を見る。


「私よりも、もっと必要としている人がいるのです」


「……!」


その言葉を聞いた瞬間、胸の中がぽっと明るくなった。


俺が作ったものは、無駄じゃなかったんだ。


「じゃあ……」


俺は点字表をぎゅっと握った。


「もっといっぱい作ればいいの?」


「はい」


ジーナお義姉様が微笑んだ。


「もっと多くの人に届けましょう」


◇◇◇


数日後。


俺は大きな部屋に呼ばれた。


部屋には、リオ殿下。


リオーネお姉様。


アロア。


そして国王様と王妃様までいた。


「……なんでこんなにいっぱい人がいるの?」


俺が小声で言うと、クロエがそっと教えてくれた。


「ノア様がお作りになった点字について、お話を聞きたいそうですよ」


「ええっ!?」


俺は緊張してしまった。


こんなに偉い人たちの前で説明するの?


「ノア様、大丈夫です」


アロアが笑う。


「私も、います!」


「アロアは聞く側だろ」


リオ殿下が苦笑する。


「でもノア様を応援します!」


「ふふ」


王妃様も微笑んだ。


「では、始めよう」


国王様が言った。


「ノア。まず、この点字というものを説明してくれるか?」


「はい!」


俺はテーブルの上に薄い鉄の板で作った点字表を置いた。


「これは、目が見えない人が読むための文字です!」


六つの点を指で示す。


「ここに六個の場所があります!」


「六個……」


リオーネお姉様が身を乗り出す。


「そのうち、どこをポコッとさせるかで、違う文字になります!」


俺は実際に点字器を使って紙に点を作ってみせる。


ぷつ。


ぷつ。


「こうやって作ります」


リオ殿下が紙を手に取る。


「なるほど……。指で触ると、確かに凹凸が分かる」


「それを指で読むんです!」


「では、どのくらいの人が使える?」


「いっぱい!」


「いっぱい、か」


リオ殿下が笑った。


「ノアらしい答えだな」


「でも、本当にいっぱい必要なんだよ」


俺は言った。


「ジーナお姉様は治ったけど、治らない人もいるから」


部屋が静かになった。


「お金がなくて神官様に治してもらえない人もいるってジーナお姉様に教わりました」


俺は一生懸命話した。


「ポーションを買えない人もいる」


「そういう人が、目が見えなくなったら……」


俺は点字表を見る。


「ずっと文字が読めないままになっちゃうかもしれない」


ジーナお姉様が静かに続けた。


「だからこそ、この点字が必要なのです」


「なるほど……」


リオーネお姉様が点字表を見つめる。


「では、問題は『作れるか』ではありませんね」


「え?」


「どうやって、多くの人へ届けるかです」


リオーネ王女様は国王様を見る。


「点字表を国中に配布することはできますか?」


「可能だろう」


国王陛下が答える。


「だが、表だけ配っても使い方が分からなければ意味がない」


「では、教える場所が必要ですね」


「教会が使えます」


王妃様が口を開いた。


「神殿や教会には、読み書きを教える場所もあります。そこで点字を教えられないでしょうか?」


「できます!」


俺が手を上げた。


「俺も教える!」


「ノアが?」


アロアが笑う。


「先生になるの?」


「なる!」


俺は胸を張った。


「……でも、俺は六歳だから、たぶん先生にはなれない」


「ふふっ」


部屋に笑い声が広がった。


「では、ノアは点字の先生を育てる先生ですね」


リオーネお義姉様が言った。


「それなら、面白いかもしれません」


「あと!」


俺は思いついたことを言った。


「点字を作る道具も、もっと簡単に作れるようにしたい!」


「なぜだ?」


国王様が尋ねる。


「お金がない人でも使えるようにしたいから!」


「…………」


国王陛下の顔が少し変わった。


「安く作れる道具を考える、ということか」


「はい!」


「ノア」


リオ殿下が俺を見る。


「それは、とても大切なことだ」


「ほんと?」


「ああ」


リオ殿下は点字表を手に取った。


「この文字が一部の貴族だけのものになったら意味がない」


「……!」


「必要としている人が、貧しいからという理由で使えないなら、それは本当の意味で広めたことにはならない」


ジーナお姉様が頷いた。


「その通りです」


アロアが手を挙げた。


「じゃあ、私も覚えます」


「アロアが?」


「はい」


「だって、目が見えない人が使う文字なんでしょう?」


「そうだよ」


「だったら、目が見える私も覚えたほうがいいかなと……」


俺はちょっと驚いた。


「なんで?」


「だって……。その人とお話しできます」


「……!」


俺はアロアを見る。


「それなら私も覚えます」


リオーネお姉様が言った。


「私もだ」


リオ殿下も続ける。


国王陛下は少し考えたあと、ゆっくりとうなずいた。


「ならば決めよう」


全員が国王様を見る。


「この点字を、目の見えない者が文字を読むための新しい手段として広める」


「……!」


「王都だけではない。各地の教会、施療院、孤児院などにも伝える」


国王陛下が続ける。


「そして、身分や財産に関係なく、必要とする者が学べるようにする」


俺は点字表を見る。


さっきまで、


「もういらない」


と思っていたもの。


でも違った。


これはジーナお姉様のためだけじゃない。


目が見えない人が、自分で本を読んだり。


手紙を書いたり。


誰かに自分の気持ちを伝えたり。


そんなことができるようになるための文字だ。


「……ふふ」


俺は笑った。


「作ってよかった」


ジーナお姉様が俺の頭を優しく撫でる。


「はい。とても素晴らしいものを作りましたね、ノア」


「はい!」


俺は元気よく答えた。


「じゃあ次は、もっと使いやすい点字器を作る!」


「まだ作るのですか?」


クロエが苦笑する。


「うん!」


俺は拳を握った。


「貧しい人でも使えるやつ!」


国王様が笑う。


「どうやら、まだまだ仕事が増えそうだな」


俺は点字表を見ながら思った。


最初は、ジーナお姉様に手紙を書きたかっただけだった。


でも今は――。


もっとたくさんの人に、俺の手紙を届けたい。


そして、もっとたくさんの人が、自分の言葉を誰かに届けられるようにしたい。


そう思った。



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