34話 たぶん!
何日も何日もかかって、とうとうてんじの表ができた。
俺は大きくて薄い、鉄の板を机の上いっぱいに置いた。
「できたーー!」
「お疲れ様、ノア、クロエ」
「はい、リアム様……」
クロエが遠くを見つめる。
紙には、たくさんの文字と、小さな点の並びが書いてある。
一つの文字の横には、六つの場所に分かれた小さな丸。
その中には、黒く塗られている点と、白いままの点がある。
「これがてんじの表!」
俺は一番上を指さした。
「ここに六個の場所があるんです!」
俺は指で順番に触る。
「上が二つ、真ん中が二つ、下が二つ!」
「六つの点を使って文字を表すの?」
「はい!」
俺は嬉しくなって、どんどん説明する。
「この六個のうち、どこをポコッとさせるかで、文字が変わるんです!」
「凄いね……」
リアムお兄様が表を覗き込む。
「あ、これは『あ』かな?」
「そう!」
「では、こっちは?」
「『い』!」
「こっちは?」
「『う』!」
「全部違うのだね」
「はい!」
俺は胸を張った。
「点が一個だけの文字もあるし、いっぱいある文字もあります!」
「覚えるのが大変そうだね……」
「大丈夫です!」
俺は元気よく言った。
「俺が覚えたました!」
……ほんとは前世の記憶を思い出しながらだけど。
「それから、まだあるんですよ!」
俺は別のところを指さす。
「これは『か』とか『き』とか!」
「同じように見えるけど……」
「基本の文字に、決まった点を足すんです!」
「点を足す?」
「はい!」
俺は紙に描かれた「あ」と「か」を指で比べた。
「『あ』に、ここの点を足したら『か』になるんです!」
「文字ごとに全部覚えるのではなく、決まりがあるのだね?」
「そうです!」
俺は嬉しくなった。
「だから、表を見ながらなら、いっぱい文字が作れます!」
次に、濁点のところを指さす。
「それから、これ!」
「『が』……かな?」
「はい!」
「『か』とは少し違うね」
「だくてんっていうのを付けます!」
俺は得意げに説明した。
「『か』に、この点を足すと『が』になるんです!」
「では、『き』なら『ぎ』に?」
「そうです!」
「便利だね……」
「でしょ!」
次は、はんだくてん。
「こっちは『ぱ』とか!」
「『は』とは違うね」
「これも特別な点を足すんです!」
さらに下には、小さい文字も書いた。
「それから、『ゃ』『ゅ』『ょ』とか『っ』も必要!」
「小さい文字まで……」
「手紙を書くなら、いります!」
俺はさらに表の端を指さした。
「数字もいります!」
「数字まで?」
「はい!」
「一、二、三……」
「そう!」
俺は数字の前につける特別な記号を指さす。
「数字だよって分かるように、最初にこの記号をつけるんです!」
「なるほど……」
「あと、『。』とか『、』とか、『?』とか、『!』もいる!」
「ずいぶんたくさんあるんだね」
「手紙を書くんだから、いっぱい必要なんです!」
俺は最後に、表の一番下を指さした。
「これで終わり!」
「……本当に?」
「うん!」
俺は少し考える。
「……たぶん!」
「たぶんかぁ」
「だって、俺も全部は思い出せないから!」
リアムお兄様がくすっと笑った。
「では、これから少しずつ増やしていこうね」
「はい!」
俺は大きくうなずいた。
でも、表を作っただけじゃ終わりじゃない。
次は、この表を使って実際に文字を書かなきゃいけない。
そのためには、点字を作る道具も必要だ。
俺は机の横に置いてある、小さな木の道具を見る。
何回も失敗して。
何回も作り直して。
やっと完成した、俺のてんじきだ。
紙を挟むところ。
六つの点を作るための穴。
点を押し出すための針。
全部、俺とクロエと職人さんで考えて作った。
「よし……」
俺はてんじきに紙をセットした。
「これで、ジーナお姉様に手紙が書ける!」
俺は鉛筆で下書きをする。
『ジーナお姉様へ』
その文字を、今度は点字に変えていく。
一つ。
また一つ。
ぷつ。
ぷつ。
ぷつ。
指で触る。
ちゃんと、ポコポコしている。
俺は嬉しくなった。
「できた!」
俺は完成した点字の紙を大事に持ち上げる。
これなら、ジーナお姉様も俺の手紙を読める。
俺の言葉を、俺の気持ちを。
目じゃなくて、指で読んでもらえる。
「早くジーナお姉様に見せたい!」
俺は点字の表と点字器をぎゅっと抱きしめた。
今度は俺から、お手紙を届けるんだ!




