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悪役令息のほしいものリスト  作者: ボアの本棚


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32/68

32話 てんじ作るぞ!


くだものいーっぱいのケーキは、まさに天国の食べ物だ。


おいしい。


甘い。


桃もある。


梨もある。


いちごもある。


ブルーベリーもある。


メロンまである!


幸せすぎる。


俺、幸せすぎて死んじゃうかもしれない。


このおいしさを、誰かにも教えてあげたい。


たとえば……。


ジーナお姉様とか。


ジーナお姉様にも食べさせてあげたいな。


でも、手紙を書いても読めない。


ジーナお姉様は目が見えないから。


「うーん……」


俺はベッドの上でゴロゴロする。


どうしたらいいんだろう?


目が見えなくても読める手紙。


目が見えなくても読める……。


……あれ?


前世で、目が見えない人が読む文字があったような。


えーっと……。


……。


「あーーーっ!!」


「てんじだあああ!!」


ガバッ!


俺はベッドから飛び起きた。


バアン!


「どうなさいましたか、ノア様!」


クロエがびっくりした顔で入ってくる。


「クロエ!」


「はい!」


「てんじの表を作るよ!」


「てんじ……ですか?」


「そう!」


俺は手をぶんぶん動かしながら説明する。


「てんじっていうのはね、目が見えない人が読むための文字なんだ!」


「文字……ですか?」


「そう!」


俺は紙に六つの丸を描いた。


「紙に、小さいポツポツを作るんだ」


「ポツポツ……?」


「そう!」


「それを指でさわると、何の文字なのか分かるんだよ」


「なるほど……」


クロエが紙をじっと見る。


「点の場所が違うと、違う文字になるんだ!」


「では、この丸を描けばよいのですね?」


「うん!」


俺は大きくうなずいた。


……と思った。


「…………」


俺は紙を見る。


「……あれ?」


「どうしました?」


「これ、さわっても分からない」


「はい?」


俺は指で紙をなぞる。


つるつる。


当たり前だ。


ペンで描いただけなんだから。


「これじゃダメだ!」


「どうしてですか?」


「絵を描いただけだから」


「では、どうするのですか?」


「ポツポツを出っぱらせる!」


俺は指で紙を押してみた。


もちろん何も起きない。


「…………」


「…………」


「クロエ」


「はい」


「なんか、細い棒ある?」


「ございますが……」


クロエが裁縫箱から針を持ってくる。


俺は紙を裏にして、クロエに針の頭を当てて、ぐっと押してもらった。


ぷつ。


「できた!」


紙をひっくり返して触ってみる。


「……ちっちゃい」


でも、ちゃんと出っぱっている。


「すごいです、ノア様!」


「よーし!」


俺はどんどん点を作っていく。


針は危ないからクロエにやってもらう。


ぷつ。


ぷつ。


ぷつ。


ぷつ。


「…………」


「…………」


「クロエ」


「はい」


「曲がった」


「……少し曲がっておりますね」


「こっちも!」


「はい」


「こっちはもっと曲がった!」


紙を見る。


六つの点が、ぜんぜん同じ場所に並んでいない。


「……これじゃ読めない」


俺はしょんぼりした。


「どうしてですか?」


「点の場所が大事なの!」


俺は前世の記憶を思い出す。


たしか、点はきれいに並んでいた。


でも、どうやって作っていたんだろう。


……知らない。


「うーん……」


俺は頭を抱えた。


「毎回、同じ場所に点を作らないとダメなんだ」


「では、印をつけてはいかがでしょう?」


クロエが提案する。


「それだ!」


俺は紙に線をいっぱい引いた。


ここ。


ここ。


ここ。


そして、その上から針を刺す。


「できた!」


今度はきれいに並んだ。


俺は指で触る。


「…………」


「どうですか?」


「痛い」


「え?」


「紙がボコボコすぎる!」


一つの点を作るつもりだったのに、周りまで盛り上がってしまっている。


「これじゃ、どこが点なのか分からないよ」


「確かに……」


クロエも困った顔をする。


「じゃあ、もっと小さい針!」


「かしこまりました」


今度はもっと細い針を使う。


ぷつ。


「おお!」


今度は小さい。


でも……。


「小さすぎる!」


指で触っても、よく分からない。


「もうちょっと大きく!」


ぷつ。


「大きすぎる!」


ぷつ。


「小さい!」


ぷつ。


「大きい!」


「ノア様……」


クロエが苦笑いしている。


「なんでこんなに難しいの!?」


俺は机に突っ伏した。


点を六個作るだけなのに。


こんなに難しいなんて思わなかった。


「……よし」


俺は顔を上げる。


「道具を作ろう!」


「道具、ですか?」


「うん!」


毎回、針を刺す場所を考えるのは大変だ。


だったら、最初から場所を決めてしまえばいい。


俺は紙に六つの穴を描いた。


「ここに穴がある板を作るの!」


「この板を紙の上に置くのですか?」


「そう!」


「そして、この穴に針を入れる……」


「そうそう!」


「これなら毎回同じ場所に点を作れますね」


「それだ!」


俺は嬉しくなった。


さっそくクロエに板を持ってきてもらう。


木の板に穴を六つ開けてもらった。


そして紙を板の下に置く。


「よーし!」


俺は針を持った。


ぷつ。


ぷつ。


ぷつ。


ぷつ。


ぷつ。


ぷつ。


「できた!」


今度こそ!


俺は紙をひっくり返して、指で触る。


「…………」


「どうですか?」


「……読める!」


「本当ですか!?」


「……たぶん!」


「たぶん、ですか?」


「うん!」


俺はもう一度触る。


でも、すぐに気づいた。


「……あれ?」


「どうしました?」


「次の文字を作ったら、どこからどこまでが一文字か分からない」


「…………」


「文字と文字の間も必要だ!」


俺はまた紙を見る。


「あと、これだけじゃダメだ」


「まだあるのですか?」


「いっぱいある!」


俺は指を折って数えた。


「文字!」


「数字!」


「点とか、びっくりするやつ!」


「びっくりするやつ……?」


「……なんだっけ?」


俺は頭を抱えた。


前世では知っていたはずなのに。


全部は思い出せない。


「うーん……」


それに、てんじの表だって、ちゃんと作らないといけない。


「あいうえお……」


俺は紙に書いていく。


「これが『あ』で……」


「こちらが『い』ですか?」


「たぶん!」


「たぶん……」


クロエが心配そうな顔をする。


「大丈夫!」


俺は胸を張った。


「絶対に作る!」


ジーナお姉様が読める手紙を。


ジーナお姉様と、お話しできる文字を。


「だから、いっぱい失敗しても大丈夫!」


俺は新しい紙を出した。


「よーし!」


「もう一回やるぞーー!」


今度は、もっと上手に点を作るんだ!




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