21話 温室会議
「では、温室を作るとして……」
アリシャが所長を見る。
「具体的には、どのように管理するのですか?」
「まず、温室を五つに分けます」
所長が地図を広げた。
「五つの種を一つの場所に集めるのは危険です」
「なぜだ?」
ガロが尋ねる。
「もし何かの原因で魔力が暴走した場合、五本すべてが影響を受ける可能性があります」
「なるほど」
「ですから、火、水、光、地、聖。それぞれを別々の温室にします」
所長が地図を指差していく。
「そして、それぞれの温室の間には十分な距離を取ります」
「火属性の木が燃えた場合、水属性の木まで巻き込まれないように、ということですね」
「その通りです」
「結界は?」
ガロが尋ねる。
「もちろん張ります」
所長は別の紙を取り出した。
「温室の外側には三重の結界を張ります」
「三重?」
「一つ目は侵入防止結界。許可された者以外が入ろうとすると警報が鳴ります」
「二つ目は防御結界です」
「外からの攻撃を防ぐためか」
「はい。魔法だけではなく、物理的な攻撃にも対応します」
「三つ目は?」
「封鎖結界です」
所長の声が少し低くなる。
「木に異常な魔力反応が出た場合、温室そのものを閉じ込めます」
「……子供たちが中にいたら?」
アリシャが心配そうに聞く。
「その場合は、子供たちを最優先で外へ出します」
「それならいいでしょう」
アリシャが頷く。
「他には?」
ガロが尋ねる。
「種と果実の管理も必要です」
「実がなった後か?」
「はい」
所長は頷いた。
「果実は非常に危険です。特にノア様の聖属性の果実については、絶対に無断で持ち出せないようにします」
「具体的には?」
「実がなったら、まず研究所で状態を確認します」
「子供たちは食べられないのですか?」
「いえ」
所長は首を横に振る。
「精霊から授かった種です。最初の実を食べる権利まで大人が奪うべきではありません」
「ならば?」
「子供たちが食べる場合は、必ず庭師と魔術師が立ち会います」
「安全確認をしてから、ということですね」
「はい」
「ただし、食べることを強制してはいけない」
ガロが付け加える。
「もちろんです」
所長は頷いた。
「さらに、実った果実の数と保管場所を記録します」
「記録を?」
「はい。一本でも数が合わなくなれば、すぐに分かるようにします」
「なるほど」
ガロが頷く。
「盗難対策も必要ですね」
アリシャが言った。
「はい」
所長は真剣な顔になった。
「温室へ入れる者を限定します」
「庭師と魔術師、それから?」
「陛下と王妃様。そして、種を授かった子供たちです」
「騎士は?」
「警備のため外には配置します。ただし、必要がない限り温室の中には入りません」
「なぜだ?」
「知っている者を増やすほど、情報が漏れる可能性も増えるからです」
ガロが頷いた。
「それは重要だな」
「さらに、温室の場所そのものを王宮の一般地図から外します」
「そこまでやるのか?」
「陛下」
所長は真剣な顔で答えた。
「死者を蘇らせる果実が実る場所を、誰でも知ることができる状態にするのは危険すぎます」
「……確かに」
ガロは腕を組んだ。
「では、子供たちにはどう説明する?」
「『大切な種だから、悪い人に取られないように警備している』でよいかと」
「嘘ではないな」
「はい」
アリシャが少し考える。
「でも、警備が厳しすぎると子供たちが怖がらないかしら?」
「そこは私から庭師たちに伝えておきます」
所長が答える。
「子供たちの前では、あくまで普通の庭師として接してもらいます」
「それがいい」
ガロが笑う。
「子供たちには、楽しく育ててもらいたい」
「はい」
「しかし、大人たちは油断しない」
「もちろんです」
所長はさらに書類を広げた。
「もう一つあります」
「まだあるのか……」
ガロが苦笑する。
「魔物対策です」
「温室の周りに魔物避けの結界を張ります」
「それだけで大丈夫か?」
「念のため、地下にも対策をします」
「地下?」
「植物の根が、予想以上に成長する可能性があります」
「ああ……」
アリシャが目を見開く。
「もし根っこが温室の外まで伸びたら?」
「王宮の地下施設にまで届く可能性があります」
「それは困りますね」
「ですので、地下にも結界を張ります。さらに、温室の下には特殊な魔力遮断層を作ります」
「根の成長まで管理するのか」
「精霊の種ですから、普通の植物と同じだと思わないほうがよろしいでしょう」
所長が真剣に言う。
「成長速度、魔力の放出、果実の効果。すべてを記録します」
「分かった」
ガロが頷いた。
「では、まとめよう」
ガロは指を折った。
「五つの温室は別々にする」
「はい」
「三重の結界を張る」
「はい」
「温室の場所は秘密にする」
「はい」
「出入りできる者も限定する」
「はい」
「実った果実は数を記録し、持ち出しを管理する」
「はい」
「異常が起きた場合は、まず子供たちを安全な場所へ避難させる」
「その通りです」
「そして……」
ガロは少し考えた。
「子供たちには、普通に育てさせる」
「はい」
「水をあげて、葉っぱを観察して、成長を喜ぶ」
アリシャが微笑む。
「それが一番大事ですね」
「ああ」
ガロは窓の外を見た。
子供たちはまだ、自分たちの種がどれほど凄いものなのか知らない。
「大人が守る」
ガロが静かに言った。
「子供たちは、子供たちらしく育てればいい」
所長が深く頭を下げる。
「承知しました」
「よし」
ガロは笑った。
「最高の温室を作ろう」
「はい!」
こうして、五つの精霊の種を守るための温室計画が始まった。
子供たちには、安心して植物を育てられる場所。
そして大人たちには――
万が一にも奇跡が暴走したり、誰かの手に渡ったりしないようにするための、厳重な防衛施設。
二つの役割を持つ、特別な温室だった。




