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悪役令息のほしいものリスト  作者: ボアの本棚


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20話 頭痛ってぇ話し



「大地の精霊が授けた五つの種。鑑定が終わりました」


魔術研究所の所長が、国王ガロと王妃アリシャの前で深く頭を下げた。


「うむ。それで、結果はどうだった?」


「……では、報告いたします」


所長が持っていた書類に目を落とす。


「まず、五つとも果樹の種であることが判明しました」


「やはり果樹だったか」


ガロは少し嬉しそうに笑った。


「子供たちが育てるのだから、実がなる木なら喜ぶだろう」


「はい。私も最初は、その程度のものだと思っておりました」


「では、問題はないのですね?」


アリシャが尋ねる。


「いえ……」


所長の表情が曇った。


「問題がないとは、とても申し上げられません」


「……どういうことだ?」


ガロの笑顔が消える。


「アロア様のダイヤの種から報告します」


所長が書類をめくった。


「火属性の果樹です」


「火属性か。珍しいな」


「実には、攻撃魔力を増幅させる効果があります」


「…………」


ガロの手が止まった。


「……攻撃魔力を?」


「はい。食べた者の攻撃魔法の威力を、大幅に引き上げる実です」


「…………」


アリシャがガロを見る。


ガロもアリシャを見る。


「次を」


「はい」


所長は何事もなかったかのように続けた。


「ノア様の三日月の種です」


「聖属性か?」


「はい」


「それなら、治癒系の果樹なのだな?」


「その通りです」


所長が頷く。


「どんな病や怪我も完全に治す効果があります」


「それは素晴らしい」


アリシャがほっとしたように笑う。


「それだけなら、まだ良かったのですが……」


「まだ何かあるのですか?」


「はい」


所長が静かに告げる。


「その実には、死者を蘇らせる効果もあります」


「…………」


「…………」


部屋が静まり返った。


「……今、何と?」


アリシャが聞き返す。


「死者を蘇らせます」


「聞き間違いではないのですね?」


「ありません」


「所長」


ガロが低い声で呼ぶ。


「鑑定結果に間違いはないのだな?」


「魔術研究所の総力を使って、何度も確認しました」


所長は真剣な顔で答えた。


「間違いありません」


「…………」


ガロは額を押さえた。


アリシャも頭を抱える。


「どうしましょう……」


「まだ報告は終わっておりません」


「まだあるのか!?」


ガロが顔を上げる。


「はい」


「……続けてくれ」


「クライヴ様のドロップの種は水属性です」


所長は淡々と報告する。


「実には身体強化の効果があります」


「身体強化か。どの程度だ?」


「実がなってみなければ正確な効果は分かりません。ただし、精霊が授けた種です」


「普通の身体強化魔法とは比較できない、と?」


「その可能性が高いかと」


「……そうか」


ガロは深く息を吐いた。


「次は?」


「レオン様の星型の種です」


「光属性ですね」


アリシャが言う。


「はい。実には強力な呪いを弾く力があります」


「それは心強いですね」


「さらに、すでに受けている呪いを解くこともできます」


「…………」


アリシャの笑顔が消えた。


「それも、どんな強力な呪いでも?」


「はい」


「……そうですか」


「最後に、ローザ様のハートの種です」


「これは……地属性だったな?」


「はい」


所長が頷く。


「実を食べた者に、麻痺や毒、そして即死攻撃への強い耐性を与えます」


「…………」


ガロは椅子に深く座り直した。


「所長」


「はい」


「確認したい」


「何でしょう?」


「本当に……五つとも果樹の種なのか?」


「はい」


「普通の?」


「いいえ」


所長は首を横に振った。


「大地の精霊が授けた、非常に特殊な果樹です」


「…………」


「陛下?」


アリシャが声をかける。


「私は……」


ガロは遠い目をした。


「ただの、よく育つ植物の種だと思っていた」


「私もです……」


アリシャがため息をつく。


「子供たちが毎日水をあげて、花が咲いて、実がなって……」


「実った果物を、みんなで喜んで食べる」


「ええ。そんな可愛らしい話だと思っていたのですが……」


二人が同時に所長を見る。


「これはもう、果樹ではありませんね」


「私もそう思います」


所長が即答した。


「では、この実が世に出ればどうなる?」


ガロが尋ねる。


「病人を治せます」


所長が指を一本立てる。


「死人を蘇らせることもできます」


二本目。


「強力な魔法使いを、さらに強くできます」


三本目。


「呪いを無効化し、解呪することもできます」


四本目。


「毒や麻痺、即死攻撃への耐性まで与えられます」


所長が手を下ろした。


「……世界中の国が欲しがるでしょう」


「やはりそうなるか」


ガロが唸る。


「戦争の原因になる可能性すらあります」


「それほどか……」


「特に問題なのは、ノア様の種です」


所長が言った。


「死者を蘇らせる果実など、現在のこの世界には存在しません」


「…………」


「もし噂が広まれば、王都だけでなく世界中から人が集まるでしょう」


「そうなれば、ノアが危険になる」


アリシャの顔が険しくなる。


「はい」


「ならば、種を国で預かるべきでは?」


ガロが尋ねる。


所長は少し考えてから答えた。


「それが最も安全でしょう」


「だが……」


ガロが黙る。


子供たちの顔が頭に浮かんだ。


「あの子たちは、自分たちで育てたいと言っていたな」


「はい」


「精霊から直接もらった大切な種だ」


ガロは首を横に振った。


「それを『危険だから国に渡せ』などとは言えん」


「陛下……」


「約束を守ろう」


ガロは静かに言った。


「では、どう管理なさいますか?」


所長が尋ねる。


「温室を作る」


「温室?」


「五つだ」


ガロは指を折りながら続けた。


「それぞれの種に合わせた専用の温室を用意する」


「火、水、光、地、そして聖……」


アリシャが呟く。


「それぞれの属性に合わせて、温度、湿度、魔力濃度を調整できるようにします」


所長が答える。


「優秀な庭師をつけましょう。さらに、魔術師による結界も必要です」


「頼む」


「警備は?」


「王宮騎士団から信頼できる者を配置する」


ガロは少し考えてから続けた。


「だが、子供たちの立ち入りを制限するつもりはない」


「よろしいのですか?」


「もちろんだ」


ガロは笑った。


「我々は種を取り上げるのではない。あの子たちが大切に育てられる場所を用意するだけだ」


アリシャも微笑む。


「それなら、子供たちも喜びますね」


「毎日見に行きたいと言うでしょうね」


「それも許す」


「陛下、よろしいのですか?」


「精霊から授かった種だぞ?」


ガロは苦笑する。


「大人が勝手に取り上げれば、大地の精霊に嫌われるかもしれん」


「それは……否定できません」


所長も苦笑した。


「それに」


ガロは窓の外を見る。


そこには、楽しそうに遊んでいる子供たちの姿があった。


「この種を授かったのは、私たちではない」


「……はい」


「子供たちだ」


ガロは穏やかに笑う。


「ならば、あの子たちが笑顔で育てられるようにする。それが王として私にできることだ」


アリシャが頷く。


「では、決まりですね」


「ああ」


ガロは所長に向き直った。


「最高の庭師と魔術師を集めてくれ」


「承知しました」


「五つの専用温室を作る」


「はい」


「そして――」


ガロの表情が真剣になる。


「種と、その実の効果については、絶対に外へ漏らすな」


「かしこまりました」


所長は深く頭を下げた。


「ただし、子供たちには?」


「もちろん伝える」


ガロは笑った。


「『君たちの種を大切に育てるために、特別な温室を作った』とな」


「鑑定結果の効果については?」


アリシャが尋ねる。


ガロは少し考える。


「子供たちには、必要なことだけ伝えよう」


「はい」


「危険な秘密を背負わせる必要はない」


「承知しました」


こうして王宮の庭には、五つの特別な温室が作られることになった。


子供たちには、大切な種を元気に育てるための温室。


そして大人たちにとっては――


世界を変えてしまうほどの力を秘めた、五つの奇跡を守る場所となるのだった。




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