2話 仮面王女と紫の花
あの後、泣き止んだアロアはお母様に抱かれ、俺の絵本とガっくんを持って帰って行った。
俺は家に帰った後、第二王女のアロアをいじめたと知ったお父様に、ものすごく怒られた。
そして「部屋で反省しろ!」と言われ、反省の言葉を紙に書かされた。
その紙をアロアに見せたらしく、何日かしてアロアから「いいよ」と書かれた手紙が届いた。
さらに、そこには『春迎えの祭り』の日に、お城の庭でお茶会と宝探しをして遊びましょう、とも書かれていた。
そして今日は、その『春迎えの祭り』の日だ。
お父様はいつも忙しいから、一緒にお城へ出かけられるのが嬉しい。
今日は少しお洒落をして、紫色の服を着ている。
俺は用意しておいたアロアへのお土産を手に、馬車へ乗り込んだ。
◇◇◇
お城の庭園には、たくさんの色があふれていた。
白、ピンク、黄色、緑、青、紫。
大きな花、小さな花。
色とりどりの花が、庭いっぱいに咲いている。
用意された丸いテーブルには、俺の好きな紫色の花が飾られていた。
クッキーを食べていると、向こうから国王陛下と王妃陛下、そしてアロアが手を振りながらやって来た。
「よく来たな、ステイン、ノア」
お父様が椅子から立ち上がり、頭を下げる。
「ご招待にあずかり、身に余る光栄にございます。陛下、王妃陛下、アロア王女殿下」
「ごしょうたいに、あずかり、みにあまり、るこうえいに、ございます」
とりあえず、お父様の真似をしておけば大丈夫だ。
ちょっと噛んだけど、俺も椅子から立ち上がって頭を下げる。
「硬い挨拶はやめろよ。俺達の仲だろ?」
「そんなわけにはまいりませんと、いつも申し上げておりますよね」
お父様は笑顔だけど、なんだか怖い……。
「ふふふ。今日は子供達が主役ですよ。さあ、アロア。前に出てご挨拶なさい」
「………」
前に出てきたアロアは、あの時と同じように顔を髪で隠している。
黄色のドレスを着て、腕にはガっくんと絵本を抱えていた。
「こ……れ……が……う……」
声が小さすぎて、何を言っているのか聞き取れなかった。
でも、ガっくんと絵本を渡してきたから、たぶん「ありがとう」って言ったんだと思う。
「うん。勇者の絵、カッコよかっただろ!」
アロアがコクリと頷く。
「俺もお土産を持って来たんだ」
俺がクロエを見ると、クロエがそっと箱を持ってきてくれた。
それを受け取り、アロアに渡す。
「お前、顔を出すの嫌なんだろ?」
「………」
「でも、そんなんじゃいつか転んでケガするぞ。開けてみろよ。いいものが入ってるから」
アロアはコクリと頷くと、俺から箱を受け取った。
テーブルの上に置き、紫色のリボンをゆっくりとほどいていく。
「子供用の仮面を作ったんだ。何が好きか分からなかったから、紫の花を描いてもらった」
「これをつければ、顔も隠せるし、前も見えるだろ? 使えよ」
アロアはしばらく黙ったまま、箱の中の仮面を見つめていた。
「………」
長い……。
もしかして、嫌だったのか?
「嫌なら持って帰るけど……」
バサッ! バサッ! バサッ!
「うわっ、いて!」
アロアがものすごい勢いで頭をブンブンと振ったせいで、髪が俺の顔に当たった。
「ご、ごめんなさいね、ノア」
王妃様が慌てて謝る。
「アロア、気をつけなさい」
国王陛下も優しく声をかける。
「ふふふ。ありがとう、ノア。思いがけないプレゼントが嬉しかったのよね、アロア」
王妃様はそう言いながら、箱の中から仮面を取り出した。
「とても綺麗な仮面だわ」
そして、アロアの顔に仮面を当て、紐を結んでいく。
「とてもよく似合っているわ。アロア」
アロアは恐る恐るといった様子で、こちらを向いた。
髪の下から覗く顔は、とても可愛かった。
「うん。似合ってる」
俺がそう言うと、アロアは少し照れくさそうに笑った。




