14話 タヌキは精霊?
俺は先生に森林公園で見たタヌキの話をした。
目があった瞬間、まっすぐ弾かれたように飛び上がって消えた事。
みんな、その日のお昼までは覚えていたのに、数日後には俺以外のみんながその事を忘れていた事。
なぜか分からないけど、どうしてもタヌキの事が気になって仕方がないこと。
「そのタヌキは、精霊かもしれません」
「精霊?」
聞いた事ない名前だ。
「特徴を聞く限りでは『ニクテレウス』のようですが、アレには敵の記憶を消す能力はありません」
どういう事だろう……。
先生は少し考えてから、別の本を取り出した。
今度の本は、さっきの魔物の本よりずっと古そうだった。
「精霊とは、簡単に言えば自然の力が意思を持った存在です」
「自然の力?」
「はい。森や木、水、風、火、大地など、自然の中にはたくさんの魔力が流れています。その魔力が長い時間をかけて集まり、意思を持つようになったものが精霊です」
「じゃあ、精霊も魔物なんですか?」
レオンが聞く。
「いいえ。精霊と魔物はまったく別の存在です」
「じゃあ、動物ですか?」
「それも違います」
「じゃあ何なんですか?」
レオンが首をかしげる。
先生は笑った。
「魔物は、魔力を持った生き物です。動物のように体があり、食事をしたり、子供を産んだりします」
「はい」
「それに対して精霊は、自然そのものに近い存在です」
ローザが手を上げる。
「では、精霊には体がないのですか?」
「精霊によります。人間のような姿をする精霊もいますし、小さな光や動物の姿をしている精霊もいます。姿を持たず、風や水そのものとして存在する精霊もいます」
「ええっ!?」
レオンが驚く。
「じゃあ、今この場にも精霊がいるんですか?」
「かも、しれませんね」
「この紅茶も精霊かもしれないのですか!?」
レオンがまじまじと紅茶を見つめる。
「僕、もう紅茶を飲めそうにありません……」
「精霊はそうそう人間の前に姿を現したりはしません。安心してお飲みなさい」
「じゃあ、お庭の木にもいますか?」
今度はアロアが聞いた。
「森や木に宿る精霊もいますよ」
アロアは庭を思い浮かべるように、窓の外を見る。
「じゃあ……王城のお庭にも精霊がいるかもしれないんですね」
「ええ。可能性はあります」
「会ってみたいです!」
レオンが手を上げた。
「精霊って、どこにいるんですか?」
「自然の多い場所にいることが多いですね。森や山、川、湖などです」
「魔物みたいに、人間を襲ったりするんですか?」
クライヴが聞く。
「それも精霊によります」
先生は少しだけ真面目な顔になった。
「精霊は人間の味方でも敵でもありません。自分たちの考えで行動しています」
「じゃあ、森を大切にする人には優しいけど、森を壊す人には怒る精霊もいるんですか?」
ローザが聞く。
「その通りです」
「じゃあ、精霊って頭がいいんですか?」
「人間と同じように考えられる精霊もいます。とても古い精霊になると、人間より長く生きているものもいますからね」
「そんなに!?」
俺は驚いた。
「じゃあ、精霊も魔法を使うんですか?」
「使うというより、精霊自身が自然の力そのものです。風の精霊なら風を、水の精霊なら水を、火の精霊なら炎を操ることができます」
「じゃあ、風の精霊がいたら空を飛べますか?」
俺が聞く。
「精霊に協力してもらえれば、可能かもしれませんね」
「すごい!」
俺はちょっとワクワクしてきた。
「じゃあ、精霊と仲良くなったら、いろんなことができるんですか?」
「そうですね。ただし、精霊は人間の道具ではありません」
先生が笑う。
「お願いすれば何でもしてくれる、というわけではありませんよ」
「じゃあ、どうしたら仲良くなれるんですか?」
アロアが聞く。
「それは精霊によって違います。森を大切にしたり、水を汚さなかったり、火を粗末に扱わなかったり……。精霊が大切にしているものを、人間も大切にすることです」
俺は少し考えた。
動物は魔力を持たない。
魔物は魔力を持つ生き物。
そして精霊は、自然の力そのもの。
「なんだか、魔物よりずっと不思議ですね」
「そうですね」
先生が笑った。
「この世界には、人間がまだ知らない精霊もたくさんいると言われています」
「知らない精霊?」
「はい。ですから、精霊について調べる研究者もいるのですよ」
俺は思わず身を乗り出した。
「先生、その研究って面白そう!」
「ノア様は本当に好奇心旺盛ですね」
クロエが小さく笑った。
魔物だけじゃない。
この世界には、精霊っていう不思議な存在もいる。
……もっと調べてみたい。
そう思った。




